中高齢の脳卒中患者における疾患罹患後に生じた肩痛のリスクファクターについて(1
<抄録>
脳卒中後に生じる肩痛は,最も一般的な合併症であり,上肢麻痺に対するアプローチにおいても大きな阻害因子となる.ただし,それらの原因となりうる危険因子や発症率,そして予後については詳しいことはわかっていない.特に,中高年においては,脳卒中の有無に関わらず肩痛が生じる対象者も多くおり,彼らが脳卒中後にどのような肩痛に悩まされているのかについては,調査がほとんどなされていない.本コラムにおいては,中高年の脳卒中患者の疾患罹患後に生じた肩痛の危険因子等について,解説を行う.第一回は,過去の脳卒中後に生じた肩痛に関する研究のレビューを実施する.
1.脳卒中患者における疾患罹患後に生じた肩痛に関する研究について
脳卒中罹患後に生じる肩の痛み(Hemiplegic Shoulder Pain: HSP)は,脳卒中罹患後に生じる一般的な合併症であり,脳卒中発症後亜急性期に入院する回復期リハビリテーション病院において,24-64%といった確率で発症すると言われている1.肩痛については,通常脳卒中発症から2-3ヶ月以内に発生することが多い.この時期は,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションにおいても非常に重要な時期であり,肩痛によってリハビリテーションの遂行が困難になり,このこと自体が麻痺手の機能予後自体に影響を与えることも考えられる.また,肩の痛みを訴える対象者の多くは,中等度から重度の痛みを訴えるものが多く2,多くの場合で,リハビリテーションの阻害だけでなく,夜間の痛みによる睡眠障害など,生活自体のリズムを崩す対象者も多い3.また,別の研究においては,脳卒中発症後4ヶ月の時点における肩痛の有病率と12ヶ月が経過した後の有病率自体に大きな違いはないと考えられており4,回復期における一時期の問題ではなく,慢性的な痛みとなる事例も少なくないということがわかる.
過去の研究においても,HSPの危険因子については検討されており,様々な内容が示されている.身体構造に依存する機械的な要因としては,肩甲上腕関節の亜脱臼5,腱板損傷6,上腕二頭筋腱炎,肩甲上腕関節炎,癒着性関節炎,直接外傷等が一般的に挙げられている.神経学的要因としては,弛緩性の麻痺(弛緩性の麻痺後の亜脱臼が関与している可能性もあり,弛緩性の麻痺自体が痛みの直接的要因かどうかはわからない)7,連合反応等に呼応する痙縮,腕神経叢損傷,副業性局所疼痛症候群8,中枢感作9,知覚異常10, 半側空間無視等が挙げられる.
また,近年では,上記の身体構造に関する機械的な要因と神経学的な要因以外の要因にも触れている研究が増えている.意外なところでは,内部疾患や心理面の影響があるといった内容の研究が増加している.例えば,Ratnasabapathyら11は,糖尿病の有無によりHSPの罹患率が変わるといった報告を行なっている(これは,糖尿病由来の末梢組織の機械的・神経学的な問題によるものかもしれない).また,他にはビタミンDの欠乏12,包括的な心理面13,免疫の状況14等も関与するとの報告もなされている.
まとめ
本コラムにおいては,脳卒中後に生じるHSPに関する検討を示した.先行研究の内容を鑑みると,HSPには多岐にわたる要因が関与していることがわかる.これらの因子を注意深く観察しつつ,HSPの病態を評価しながら,アプローチのプログラムを検討することは非常に重要であると思われた.
参照文献
1.Anwer S, Ahmad A. Incidence, prevalence, and risk factors of hemiplegic shoulder pain: a systematic review. Int J Environ Res Public Health. (2020) 17:4962
2.Lindgren I, Jönsson AC, Norrving B, Lindgren A. Shoulder pain after stroke: a prospective population-based study. Stroke. (2007) 38:343–8
3.Braun RM, West F, Mooney V, Nickel VL, Roper B, Caldwell C. Surgical treatment of the painful shoulder contracture in the stroke patient. J Bone Joint Surg Am.(1971) 53:1307–12
4.Adey-Wakeling Z, Arima H, Crotty M, Leyden J, Kleinig T, Anderson CS, et al. Incidence and associations of hemiplegic shoulder pain poststroke: prospective population-based study. Arch Phys Med Rehabil. (2015) 96:241–e1.
5.Kumar P, Saunders A, Ellis E, Whitlam S. Association between glenohumeral subluxation and hemiplegic shoulder pain in patients with stroke. Phy Therapy Rev. (2013) 18:90–100
6.Murie-Fernández M, Iragui MC, Gnanakumar V, Meyer M, Foley N, Teasell R. Painful hemiplegic shoulder in stroke patients: causes and management. Neurología. (2012) 27:234–44
7.Holmes RJ, McManus KJ, Koulouglioti C, Hale B. Risk factors for poststroke shoulder pain: a systematic review and meta-analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis.(2020) 29:104787. doi: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2020.104787
8.Altas EU, Onat SS, Konak HE, Polat CS. Post-stroke complex regional pain syndrome and related factors: experiences from a tertiary rehabilitation center. J Stroke Cerebrovasc Dis. (2020) 29:104995.
9.Kashi Y, Ratmansky M, Defrin R. Deficient pain modulation in patients with chronic hemiplegic shoulder pain. Pain Pract. (2018) 18:716–28.
10.Gamble GE, Barberan E, Laasch H-U, Bowsher D, Tyrrell PJ, Jones AKP. Poststroke shoulder pain: a prospective study of the association and risk factors in 152 patients from a consecutive cohort of 205 patients presenting with stroke. Eur J Pain. (2002) 6:467–74
11.Ratnasabapathy Y, Broad J, Baskett J, Pledger M, Marshall J, Bonita R. Shoulder pain in people with a stroke: a population-based study. Clin Rehabil. (2003) 17:304–11.
12.Kim JH, Kim G-T, Yoon S, Lee HI, Ko KR, Lee S-C, et al. Low serum vitamin B12 levels are associated with degenerative rotator cuff tear. BMC Musculoskelet Disord. (2021) 22:364
13.Valencia C, Fillingim RB, George SZ. Suprathreshold heat pain response is associated with clinical pain intensity for patients with shoulder pain. J Pain.(2011) 12:133–40
14.Nguyen RT, Borg-Stein J, McInnis K. Applications of platelet-rich plasma in musculoskeletal and sports medicine: an evidence-based approach. Pm r.(2011) 3:226–50.