Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目の短縮版に関わる研究
<抄録>
脳卒中後に生じる上肢の麻痺に関するゴールドスタンダードのアウトカムとして,世界的にも利用されているものとしてFugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目がある.1975年に開発されたこのアウトカムは,33項目66点満点の評価である.古い評価であるが,妥当性・信頼性は高いものがあり,開発から約50年が経つ現在においても,このアウトカムを超えるものが現れていないのが現状である.しかしながら,33項目からなるこのアウトカムを測定するための時間がボトルネックとなり,臨床において,採用されないケースがいくつかある.これらを解決するために,何人かの研究者が短縮版のFMAの上肢項目を開発している.本コラムにおいては,短縮版のFMAの上肢項目の種別や遍歴について示す。
1.Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目のアウトカムについて
Fugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目は,Fugl-Meyerが1975年に公表したBrunnstrom stageの基準を用い,採点する点数をより細分化した検査である.点数は全,33項目で各項目3件法(0:廃用,1: 一部機能的,2:十分機能的),66点で示されている.この上肢項目は,4つの下位項目からなり,A. 肩/肘/前腕,B手首,C手指,D協調性/速度からなっている.本邦では,独自に翻訳された検査用紙が用いられていることが多いが,天野らがダブルトランスレーションといった厳密な翻訳方法を用いて,FMAを翻訳している.本誌ではその評価表を図1に示しているのでこの検査用紙を用いて正確な評価に努めていただきたい.脳卒中後の上肢麻痺に対する検査ではゴールデンスタンダードとされており,後発で開発された多くの検査のアンカーとなっている.この検査は,多くの検討がなされており,妥当性・信頼性等も保たれている.さらに,事例検討でも検査の変化量を確認し,誤差以上の差を検討するために,最小検知変化量(Minimal Detected Change: MDC)が5.2点1臨床における意味のある最小変化量MCIDが亜急性期では,Sheltonら2がFunctional independence measureの各項目1.5点あたりのFMAの改善量を10点とし,その値をMCIDとしている.さらに,Ayataら3も同時期のMCIDを9から10点と設定している.生活期においては,複数の研究者4, 5が総得点の10%または6から7点と示している.さらに,詳細にはPageら6が,様々な検査をアンカーにした結果,対手指で握る能力(4.25点),対 手指で離す力(5.25点),対上肢の操作能力(7.25点),対Canadian occupational performance measure (COPM)(4.25点),対全般的な上肢機能(5.25点)と示している.
2.機械学習を用いて解析された最新の短縮版Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目
Linらは,機械学習を用いて解析を行ったFMAの上肢項目の短縮版について検討している.この検討では,反射の項目を除いた29項目を解析の対象とし,1項目から29項目の29種類のアウトカムを作成し,並行妥当性,反応性について調査されている.その結果,FMAの上肢項目の選択数を13項目未満にした場合,著しく反応性が明らかに低下することが示された.ここから,反応性が担保された最小限の項目数を13とし,短縮版の項目数を13項目と設定された.この結果を基盤として,妥当性・信頼性の検討がなされている.信頼性に関して,クラス内相関関数係数は0.99以上であり,非常に信頼性が高いものであることが示唆された.また,原盤のFMAの上肢項目と比べ,0.96-0.98の相関係数が示されており,臨床上で用いても有用な短縮版のFMAの上肢項目のアウトカムであると思われた.
まとめ
脳卒中後に生じる上肢麻痺について,ゴールドスタンダードなアウトカムとして,FMAの上肢項目というものがある.しかしながら,評価の時間がこれらの評価の導入のボトルネックになっていることも事実である.これまでに示されている短縮版FMAの上肢項目のアウトカムはいくつか存在するが,それぞれの作成に関する妥当性・信頼性等を鑑みつつ,短縮版FMAの上肢項目を選択することが重要である.
参照文献
1. Wagner JM et al: Reproducibility and minimal detectable change of three-dimensional kinematic analysis of reaching tasks in people with hemiparesis after stroke. Phys Ther 88: 652-663, 2008
2. Shelton FD, et al: Motor impairment as a predictor of functional recovery and guide to rehabilitation treatment after stroke. Neurorehabil Neural Repair 15: 229-237, 2001
3. Ayata KN, et al: Estimating the minimal clinically important difference of an upper extremity recovery measure in subacute stroke patients. Top Stroke Rehabil 18: 599-610, 2011
4. Jørgensen HS, Nakayama H, Raaschou HO, Vive-Larsen J, Støier M, Olsen TS. Outcome time course of recovery in stroke. II. Time course of recovery: the Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil 76:406–12, 1995
5. Feys HM, De Weerdt WJ, Selz BE, et al. Effect of a therapeutic intervention for the hemiplegic upper limb in the acute phase after stroke: a single-blind, randomized, controlled multicenter trial. Stroke 29:785–92, 1998
6. Page SJ, et al: Clinically important differences for the upper-extremity Fugl-Meyer Scacle in people with minimal to moderate impairment due to chronic stroke. Physical therapy 92: 791-798, 2012
7. Lin GH, et al. Development of a 13-item short form for Fugl-Meyer Assessment of upper extremity scale using a machine learning approach. Arch Phys Med Rehabil S0003-9993(23)00049-7, 2023