脳血管障害後に生じる高次脳機能障害に対してどのように関わるべきなのか?〜療法士3年目までに知っておきたい関わり方〜(5)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.05.03
リハデミー編集部
2023.05.03

<抄録>

 脳血管障害後に生じる高次脳機能障害は,脳の損傷部位により,多岐に渡る症状が引き起こされる症候を指す.また,この症候は,対象者とその周辺にいる関係者のQuality of life(QOL)に大きな影響を与える.さらに,臨床の中でも,作業療法士が関わる上で深い悩みを持つ領域でもある.これらの症候を見る際,あまりにも種別が多く,しかも同じ症候であっても人の生育歴や周辺環境によって,見え方はいく通りにもなることもあり,病態を正確に解釈し,臨床に活かすことは非常に困難を伴う.本コラムにおいては,高次脳機能障害に対する基礎的な考え方,接し方について,簡単に解説を行う.第三回以降は,高次脳機能に関わるエビデンス,特にリハビリテーションプログラムに関する話題について中心に解説を行なっていく.ここは,対象者に対し,療法士がどのような治療的手段を選択するのか,と言ったてんで非常に重要な項目となる.また,対象者自身がどのようなアプローチが効果をもたらし,何を選択するのかと言った知識の補充にも重要な部分となる.本コラムにおいては,記憶障害,注意障害に対するリハビリテーションプログラムに関して述べる.

1.脳血管後に生じる高次脳機能障害に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンス (記憶障害,注意障害について)

 脳血管後に生じる高次脳機能障害に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンスについては,2021年に発行された脳卒中治療ガイドライン2021に代表的なリハビリテーションプログラムと各々の推奨度がまとめられている.

 脳血管障害後のリハビリテーションにおいて,記憶障害は多くの場面で遭遇する基本的な高次脳機能障害の一つである.脳卒中ガイドライン治療ガイドライン2021においても,「記憶障害に対して,記憶訓練を行うことは妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)1」と記載されている.さて,記憶障害に関するシステマティックレビューを確認すると,記憶障害に対する記憶訓練は,対象者による主観的な評価の短期的な改善は導くものの,その改善は長期的な記憶には移行しないとされている2.また,客観的評価においては,ほとんど改善を認めた知見は存在せず,その解釈は非常に難しいものとなっている(対象者の主観的な評価における短期的改善のみとなると,一時的な影響力を発動する,注意障害,前頭葉性の注意障害(ワーキングメモリ,モニタリング等),もしかすると覚醒レベルの階層における変化が影響を及ぼしている可能性すら考えられる).

 次に注意障害について述べていく.注意障害は,意識レベルと並び,多くの高次脳機能の基盤となる症候であり,この障害があることで全ての評価・検査の減点を誘発する可能性がある.したがって,注意障害を著しく認めた場合,他の障害で症状を説明することが非常に困難となる印象がある.ちなみに,脳卒中治療ガイドライン2021においても,「注意障害に対して,コンピューターを用いた訓練,attention process training (APT),代償法の指導,身体活動や余暇活動を行うことは妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)1」と言われている.また,この他に,生活や訓練中の配慮として,作業時間を短縮される,休憩を取らせる,周囲の聴覚的もしくは視覚的な外乱を排除するといった環境調整が,対象者のパフォーマンスを上げる可能性についても妥当性が示されている3.

まとめ

 記憶障害や注意障害は,他の高次脳機能障害に比べると基礎的な部類にあり,これらの有無を評価することで,より高次な文脈で病態解釈を進めるべきか否かが示される部分があるように思える.これらの病態を正確に判断し,エビデンスが確立されているアプローチの選択が必要であることがわかる.第六回は,失行に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンス について,解説を行なっていく.


参照文献

1. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン, 2-11 高次脳機能障害,協和企画:p282-283

2. das Nair R, eta l. Cognitive rehabilitation for memory deficits after stroke. Chochrane Database Syst Rev 2016: CD002293. 

3. National Clinical Guidelines for stroke 2nd ed 4.2.4 Attention. London: Royal College of Physicians of London; 2004. P58

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