脳卒中患者における認知機能の低下が日常生活活動および手段的日常生活活動に与える影響について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2022.07.25
リハデミー編集部
2022.07.25

<抄録>

 脳卒中後の後遺症には,様々な障害が挙げられている.その中でも,身体の麻痺を含む運動障害と並び,認知機能の低下は,日常生活活動および手段的日常生活活動の介助量に与える影響が大きいと考えられている.本コラムにおいては,脳卒中後認知機能の低下を呈した対象者において,認知機能の低下が日常生活活動および手段的日常生活活動の介助量に与える影響について解説を行う.

1.脳卒中患者において,認知機能の低下が日常生活活動の介助量に与える影響について

 認知機能障害は,脳卒中後の後遺症として代表的な将校であり,頻繁に発生する.多くの研究において,脳卒中患者の大部分に病巣特異的,もしくは非特異的な認知機能障害が発生することが示されている.認知機能障害は身体機能障害に伴って起こることもあれば,単独の障害として生じることもある.そして,認知機能障害を持つ脳卒中患者は,脳卒中後に自立した生活や仕事や社会活動への復帰が困難になることが多い.脳卒中後の認知症状は,脳卒中からの回復に大きな影響を及ぼし,高強度のリハビリテーション を実施したとしても,脳卒中患者の日常生活における機能予後予測における代表的な予測因子と考えられている.本コラムにおいては,具体的な研究について以下に解説する.

 Lesniakらは,初発の脳卒中患者を対象に,発症2週間後の認知機能を評価し,それらが1年後の日常生活活動の自立度に対して,どのような影響を及ぼすかについて調査を行った.急性期においては,78%の患者が1つ以上の認知機能障害を有していた.最も頻繁に障害されていた認知機能障害は,注意機能障害(48.5%),言語障害(27%),短期記憶障害(24.5%),遂行機能障害(18.5%)であった.また,1年後の日常生活活動の介助度に影響を与える因子として,年齢(オッズ比で1.08-1.22),二週間後の日常生活活動(オッズ比で0.53-0.7),麻痺の有無(オッズ比で11.7),遂行機能障害(オッズ比で5-6.94)であったと報告している.

 次に,Herutiらは,初発の急性期脳卒中患者,336名を対象とした研究において,認知機能が日常生活活動の介助量に与える影響について検討を行っている.その結果,運動機能の改善による日常生活活動の改善が大きく占める中,それらの改善に認知機能の改善も強い相関を示した(r=0.853)を示したと報告している.加えて,年齢,性別,発症から入院までの期間,入院期間,脳卒中後の重症度と言った交絡と考えられる因子を調整し,分析した結果,退院時の認知機能が比較的高い患者ほど,日常生活活動に対する介助量は低かったと示し,認知機能の有無が日常生活活動の介助量を推定する因子の一つであると示した(オッズ比で2.0).

 これらの研究から,脳卒中後の認知機能の有無は,様々な交絡因子を調整した上で,長期的な日常生活活動の介助量に影響を与えることが示されている.

2.脳卒中患者において,認知機能の低下が応用的日常生活活動の介助量に与える影響について

 上記で示したとおり,認知機能の低下は脳卒中後の代表的な後遺症と考えられている.また,多くの研究において,認知機能の低下が生じるとリハビリテーションから十分な恩恵が受けられないことに加えて,退院後の生活においても様々な観点から大きな影響を与えると考えられている.特に,退院後の生活においては,社会復帰をはじめとした,応用的日常生活活動に与える影響が大きいとも考えられている.

 Zinnらは,脳卒中患者272名を対象に,認知機能障害が日常生活活動および応用的日常生活活動に与える影響について検討している.この研究では,認知障害の有無により,2群に分けた上で,両群間の日常生活活動および応用的日常生活活動の改善量を比較検討している.その結果,認知機能障害を有する群の方が,それを有しない群に対して,日常生活活動については有意な改善量の差は認めなかったが,応用的日常生活活動に関しては有意な改善量を認めたと報告している.

 この結果からも,認知機能障害は,入院中および入院後においても長期的に社会生活に影響を与える可能性が示唆されている.この結果を鑑みつつ,リハビリテーション病院退院後のサービスの提供等を検討する必要が考えられた.


参照文献

1. Lesnial M, et al. Frequency and prognostic value of cognitive disorders in stroke patients. Dement Geriatr Cogn Disord 26: 356-363, 2008

2. Heruti RJ, et al. Rehabilitation outcome of elderly patients after a first stroke: effect of cognitive status at admission on the functional outcome. Arch Phys Med Rehabil 83: 742-749, 2002

3. Zinn S, et al. The effect of poststroke cognitive impairment on rehabilitation process and functional outcome. Arch Phys Med Rehabil 85: 1084-1090, 2004

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