脳卒中後の上肢運動麻痺に対するゴールドスタンダードの評価 Fugl-Meyer Assessmentの概要と評価基準について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2025.08.11
リハデミー編集部
2025.08.11

<本コラムの目的>

・Fugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢運動項目について知る

・FMAの上肢運動項目の評価基準について知る

1. Fugl-Meyer Assessment(FMA)概要と評価法の基準

 Fugl-Meyer Assessment(FMA)は、脳卒中後の上肢運動麻痺に対する評価法として、リハビリテーション領域で広く認知されています。この評価法は、1975年にFugl-Meyerら[1]が開発したもので、脳卒中患者の運動麻痺の程度や、神経系の回復度合いを客観的かつ定量的に評価することを目的としています。FMAは脳卒中後の上肢運動麻痺における運動機能、関節の可動域、バランス、関節痛など、多面的な要素を統合的に評価できる特徴があり、リハビリテーション現場において標準的な評価指標として使用されています。上肢運動麻痺に対する項目は、この多面的な要素の一つであり、脳卒中後のリハビリテーションにおいては、この項目のみ単独で使用されることも多いです。実際、Santistebanらの研究でも上肢運動麻痺の項目のみを取り上げ、世界の研究で最も使用されている評価として示されています。

2. FMAの構成

 FMAは運動機能、感覚、バランス、関節の動き、関節痛の五つのサブスケールで構成されています。特に運動機能の評価が中心で、脳卒中後の上肢および下肢の回復状態を細かく測定します。運動機能スコアは0点から2点の範囲で採点され、0点は「動作が不可能」、1点は「部分的に可能」、2点は「完全に可能」という意味を持ちます。上肢に関しては最大66点のスコアで評価が行われ、総合得点が高いほど運動機能の回復が良好であることを示します。各スコアは段階的に評価されるため、脳卒中後の回復過程を細かく追跡できることがFMAの利点です。上肢の運動項目に関しては、A. 肩肘前腕、B. 手関節、C. 手指、D. 協調性の4つの項目から構成されています。

3. Minimal Important Difference(MID)とMinimal Detectable Change(MDC)

 リハビリテーションにおいて、患者の状態が臨床的に意味のある改善を示しているかどうかを判断する際には、Minimal Clinical Important Difference(MCID)とMinimal Detectable Change(MDC)が非常に重要な指標となります。ここでは、MCIDについて取り上げていこうと思います。MCIDとは、患者が生活上で「回復によって手が役にたつ」ことを自覚できる最小限の変化とされています。つまり、実際に生活の中で改善があったと感じられる最小の変化量を示します。FMAの上肢評価では、生活期においては、Pageら[3]が4.25点から7.25の増加がMCIDの範囲に含まれるとされ、これが臨床的に意味のある改善と考えられます。これに対し、MDCは測定誤差の影響を考慮した上での信頼性のある最小限の変化量で、FMAのMDCは上肢の評価において約1.96点とされています[4]。つまり、介入による変化がMDCを超えていれば、誤差を超えた真の変化と判断でき、MIDを超える場合には患者も実感するほどの変化が生じたとみなされます。このように、MCIDやMDCを評価基準とすることで、FMAによるスコアの変化が臨床的に意味のある改善を示しているかどうかを具体的に評価することができます。ただし、研究や病期によって、MCIDやMDCの値は異なるため、それぞれの研究を熟読し、目の前の患者さんに使用できる指標かどうかを熟考することが重要です。

4. 妥当性と信頼性

 FMAはその妥当性と信頼性が多くの研究で検証されており、脳卒中後の運動麻痺の評価に関する信頼できる方法として広く認識されています。妥当性は、評価法が測定すべき内容を適切に反映しているかを示すもので、FMAは他の標準的な評価法と強い相関関係を示しています。例えば、上肢の運動機能を評価するAction Research Arm Test(ARAT)やWolf Motor Function Test(WMFT)と比較しても高い一致度を示し、脳卒中後の上肢運動麻痺の評価において妥当性があるとされています。また、信頼性も評価者内信頼性と評価者間信頼性の両面で検証されており、FMAの信頼性は高いことが証明されています。評価者内信頼性とは、同一の評価者が同じ患者に対して複数回評価を行った場合に得られる一致度であり、FMAはこの点で高い信頼性を持っています。また、評価者間信頼性とは異なる評価者が同一の患者を評価した際の一致度であり、FMAは異なる評価者によっても一貫性のある結果が得られるため、臨床現場での活用に適しています。


参照文献

1. Fugl-Meyer, Axel R., et al. "A method for evaluation of physical performance." Scand J Rehabil Med 7.1 (1975): 13-31.

2. Santisteban, Leire, et al. "Upper limb outcome measures used in stroke rehabilitation studies: a systematic literature review." PloS one 11.5 (2016): e0154792.

3. Page, Stephen J., George D. Fulk, and Pierce Boyne. "Clinically important differences for the upper-extremity Fugl-Meyer Scale in people with minimal to moderate impairment due to chronic stroke." Physical therapy 92.6 (2012): 791-798.

4. Page, Stephen J., Peter Levine, and Erinn Hade. "Psychometric properties and administration of the wrist/hand subscales of the Fugl-Meyer Assessment in minimally impaired upper extremity hemiparesis in stroke." Archives of physical medicine and rehabilitation 93.12 (2012): 2373-2376.

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