カナダにおける脳卒中関連のリハビリテーションに関する最新のエビデンスをチェックする -リハビリテーションアセスメントについて-(9)ガイドラインにおける推奨されているアウトカムについて

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.05.29
リハデミー編集部
2023.05.29

<抄録>

 カナダの医療制度は,世界的にも珍しい皆保険に近い制度をとっており,本邦における公的保険下でのリハビリテーションを取り巻く環境に似ている.従って,背景環境の似ているカナダにおけるエビデンスは,本邦においても利用可能性が高いと考えている.さて,リハビリテーションを進める上で,効果検証や対象者の現状の状況を他職種や家族等に伝えるために,定期的に対象者に対してリハビリテーションに関するアセスメントを実施する必要がある.特に,入院中におけるリハビリテーションにおいては,その後,在宅や施設に対象者が帰ることで,環境が激変することもあり,アセスメントの重要性はさらに高まると考えられている.本コラムにおいては,脳卒中を発症後に入院環境で実施する最初のアセスメントについて,Canadian Stroke Best practice 2019より抜粋して,解説を行なっていく.第 九回,十回はガイドラインにおいて,脳血管障害後のモビリティの評価について,Berg Balance Scale, Clinical Outcome Variables(COVS),Functional Ambulation Categories(FAC),Mini BESTest.について解説を行っていく.

1.推奨されているアウトカム(モビリティに関するアセスメントツール)

(1)Berg Balance Scale(BBS)1

  Berg Balance Scale(BBS)は,成人におけるバランスを評価するためのアセスメントツールである.BBSは様々な難易度のバランスが必要な14項目を対象者に実施させ,その際のバランスの状況を観察により評価するものである.これらの14項目は単純にバランスを要する姿肢をとらせ評価するのではなく,日常生活内で必要な姿肢に近しい動作の中でバランスを評価していく.総得点は0-56点で構成されており,主に点数が高いほど,バランスが良好であることを示している.基本的に45点未満はバランス障害を示すとされている.BBSは特別な設備や広大なスペースを必要とせず,特別な評価に関する訓練を受けていない者が評価者であっても高い信頼性が実証されている2.ただし,BBSにおける問題点としては,1項目が座位で,それ以外の13項目が立位にて実施する評価であることから,重度のバランス障害を有する対象者に対しては,若干感度が低下する可能性があることが限界として述べられている3.


(2)Clinical Outcome Variables(COVS)4

 Clinical Outcome Variables(COVS)は日常生活における機能的な移動能力を評価するためのアセスメントツールである.COVSは,移乗,寝返り,側臥位から座位への基本動作、座位バランス,歩行,車椅子移動,移動中に用いる上肢機能,に関わる13項目からなる日常生活活動における機能的な移動能力を評価するアセスメントツールである.COVSは13-91点で評価され,得点が低いほど,日常生活活動における機能的な移動能力が低いことを示す.COVSは,FIM®︎のような包括的な日常生活活動の評価では感度が低い移動領域に関する詳細な情報を提供すると考えられている5.COVSは信頼性が既に実証されているものの,妥当性については,エビデンスが少ない状況である.COVSの実施には,特殊な機器を多々必要とすることと,評価に対する専門的なトレーニングが必要とされている6.


(3)Functional Ambulation Categories(FAC)7

 Functional Ambulation Categories(FAC)は非常に簡便に歩行の状況を評価するアセスメントツールである.6件法の評価であり,0点(歩けない,または複数の人の助けが必要)から5点(どこまでも自律して歩ける)まで,歩行能力を6段階にカテゴリー分けして,評価する.ただし,非常にシンプルかつ,所要時間も5分以内で実施できる評価である反面,特に添乗効果がある可能性が指摘されており,より高いレベルの歩行機能を持つ対象者については別のアセスメントツールと併用することが望ましいとされている6.


(4)Mini BESTest

 Mini BESTestは,バランス制御に関するアセスメントツールである.Mini BESTestは,予測的姿勢調整,反射的姿勢調節,感覚的指向性,動的歩行といった4つの領域において,14項目の静的バランスと動的バランスを評価する.各項目は,0-2点の3件法で評価され,総得点は28点とされている.14項目中2項目は,左右に関する評価があり,点数が低い方の評価を採点には使用する.評価の所要時間は10-15分程度である.

まとめ

 第九回は,Berg Balance Scale, Clinical Outcome Variables(COVS),Functional Ambulation Categories(FAC),Mini BESTest.について触れた.次回は,Rivermead Mobility Index(RMI),Timed up and go test(TUG),Functional Reach Test(FRT)について解説する.


参照文献

1. Berg KO, Wood-Dauphinee S, Williams JL, Maki B. Measuring balance in the elderly: preliminary development of an instrument. Physiotherapy Can 1989;41:304- 311. 

2. Berg KO, Wood-Dauphinee S, Williams JL. The Balance Scale: Reliability assessment with elderly residents and patients with acute stroke. Scan J Rehab Med 1995;27:27-36. 

3. Mao HF, Hsueh IP, Tang PF, Sheu CF, Hsieh CL. Analysis and comparison of the psychometric properties of three balance measures for stroke patients. Stroke 2002;33:1022-1027. 

4. Seaby L, Torrance G. Reliability of a physiotherapy functional assessment used in rehabilitation setting. Physiotherapy Can 1989;41:264-271. 

5. Barclay-Goddard R. Physical function outcome measurement in acute neurology. Physiotherapy Can 2000;52:138-145. 

6.Salter K, Jutai J, Zettler L, Moses M, McClure JA, Mays R, Foley N, Teasell R. Chapter 21. Outcome measures in stroke rehabilitation. In The Evidence Based Review of Stroke Rehabilitation (15th edition). www.ebrsr.com/uploads/chapter-21- outcome-assessment-SREBR-15_.pdf. Updated August 2012. 

7. Holden MK, Gill KM, Magliozzi MR, Nathan J, Piehl-Baker L. "Clinical gait assessment in the neurologically impaired. Reliability and meaningfulness." Phys Ther 1984;64(1):35-40. 


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