脳卒中後のリハビリテーションにおける振動刺激の立ち位置について(6) 〜振動刺激が脳卒中後の上肢リハビリテーションにおける振動刺激がもたらす影響について(1)〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.07.24
リハデミー編集部
2023.07.24

<抄録>

 脳卒中後の運動麻痺は多くの対象者に生じ、彼らのQuality of lifeを低下させると言われている。昨今、様々なアプローチが開発されている。そのうちの一つに、振動刺激を用いたアプローチ方法が昨今挙げられている。振動刺激を用いた介入としては、痙縮の低下に対して、米国心臓/脳卒中学会が取り上げるほど、一般的なアプローチの一つとされている。しかしながら、どういった成り立ちで振動刺激が一般臨床において利用され、どのような利用に効果があるのかについては、不明な点が多い。本コラムにおいては、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、振動刺激がどのように発展しどのように使われてきたかについて、複数回にわたって解説を行う。第五、六回は、振動刺激が脳卒中後の上肢リハビリテーションにおける振動刺激がもたらす影響について解説を行う。

1. 脳卒中リハビリテーションにおける振動刺激がもたらす影響について

 第五回の『脳卒中後のリハビリテーションにおける振動刺激の立ち位置について(5) 〜振動刺激が脳卒中後の上肢リハビリテーションにおける振動刺激がもたらす影響について(1)〜』から継続して、脳卒中後の上肢リハビリテーションにおける振動刺激の効果に関するエビデンスについて、解説を行なっていく。前回までの先行研究では、通常のリハビリテーションに振動刺激を併用したものが多かった。

 一方、Conradら[1]は、生活期の脳卒中患者を対象に、前腕の伸筋群に対して振動刺激を与えながら、ロボットを用いたリハビリテーションを実施した結果、振動により上肢全体の安定性(運動失調等の不安定性の軽減)することが明らかになった。筆者らは、これらについて、手首の固有受容器から体性感覚刺激が入力され、皮質レベルにて運動関連領野が賦活されたことによる効果であると考察している。

 また、Taverneseら[2]は、到達運動課題を実施する中で、上腕二頭筋と肘関節外側部に30分間の振動刺激(緊張性振動反射後の閾値低下を目的とした振動刺激の利用方法、Hz数は120Hz)与えたところ、運動の加速度が有意に向上したことを発見し、選択的運動制御の質の向上を示唆した。ただし、先行研究の中には、5分間以上の振動刺激を継続的に実施することで、末梢神経の脱髄由来の痺れの残存や皮膚症状の悪化等のリスクが伴うことも指摘されており、長時間の振動刺激の是非については、注意深い検討が必要であると思われる。

さらに、Cordoら[3]は、生活期の脳卒中患者を対象とした研究において、EMGフィードバックに加え、尺側の手根屈筋と手根伸筋に局所的な振動刺激を与えつつ、ロボットによる実際の手首の伸展・屈曲の誘導運動を行う群(EMG群)と、同様の部位に振動を与えながらロボットによるまたは関節トルクのフィードバックに合わせ、尺側の手根屈筋と手根伸筋に局所的な振動刺激を与えつつ、ロボットによる実際の手首の伸展・屈曲の誘導運動を行う群(TOR群)の間において、上肢機能の改善および大脳皮質における可塑性を促進できるかどうかを検討している。その結果、43名の手指の伸展が認められなかった対象者において、平均で23±26mmの手指伸展が出現したと報告している(両群ともに標準偏差が平均を超えているので、手指伸展が著しく改善したケースとほぼ変わらなかったケースの個人差が大きい印象はあるので、万能な方法ではない)。また、障害側上肢の麻痺の程度を測定するFugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目が17点以下の患者においては、Box and Block testにおいて、EMG群の方が、TOR群に比べ、有意な改善を示したといった報告があった(この結果に関して、明確にどちらの手法が優れている可能性もあるが、単純に母集団の特性に左右された可能性もある。理由は試験自体の参加者の数が小さいこと、ランダム化の統制条件が少し甘いことなどが挙げられる)。ただし、最近では最も重要視される実生活における麻痺手の使用頻度に関しては、両群の間に有意な差は認められなかったとも報告されている。

 これらの研究から脳卒中後の上肢麻痺における振動刺激の立ち位置は、1)短時間の振動を受けた筋肉が振動性緊張反射を誘発する。また、それにより拮抗筋の痙縮を抑制することもある、2)ある一定時間以上振動を与えることで、振動を受けた筋肉の緊張が低下する。これにより、痙縮が低下することがある、そして3)振動性緊張反射の閾値以下の振動刺激(高周波数、低振幅)を与えることにより、共同収縮が減少し、筋肉の再起動時の興奮性の低下、それらに伴う運動制御の改善といった結果がもたらされる可能性がある[1, 4]。

まとめ

 第五、六回は振動刺激が脳卒中後の上肢リハビリテーションに与える影響について、論述した。第7回は脳卒中後の歩行リハビリテーションに与える影響について、論述する。


参照文献

1. Conrad MO, Scheidt RA, Schmit BD. Effects of wrist tendon vibration on targeted upper-arm movements in poststroke hemiparesis. Neurorehabil Neural Repair 2011;25:61

2. Tavernese E, Paoloni M, Mangone M, Mamdic V, Sale P, Franceschini M et al. Segmental muscle vibration improves reaching movement in patients with chronic stroke. A randomized controlled trial. Neurorehabilitation 2013;32:591-9

3. Cordo P, Wolf S, Lou JS, Bogey R, Stevenson M, Hayes J et al. 生活期の J Neurol Phys Ther 2013;37:194-203.

4. Fourment A, Chennevelle JM, Belhaj-Saïf A, Maton B. Responses of motor cortical cells to short trains of vibration. Exp Brain Res 1996;111:208-14.

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