脳卒中後のリハビリテーションにおける振動刺激の立ち位置について(5) 〜振動刺激が身体機能に与える影響の脊髄レベルにおけるメカニズム(1)〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.07.21
リハデミー編集部
2023.07.21

<抄録>

 脳卒中後の運動麻痺は多くの対象者に生じ、彼らのQuality of lifeを低下させると言われている。昨今、様々なアプローチが開発されている。そのうちの一つに、振動刺激を用いたアプローチ方法が昨今挙げられている。振動刺激を用いた介入としては、痙縮の低下に対して、米国心臓/脳卒中学会が取り上げるほど、一般的なアプローチの一つとされている。しかしながら、どういった成り立ちで振動刺激が一般臨床において利用され、どのような利用に効果があるのかについては、不明な点が多い。本コラムにおいては、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、振動刺激がどのように発展しどのように使われてきたかについて、複数回にわたって解説を行う。第五、六回は、振動刺激が脳卒中リハビリテーションにおける振動刺激がもたらす影響について解説を行う。

1. 脳卒中リハビリテーションにおける振動刺激がもたらす影響について

 脳卒中を罹患すると多くの対象者の上肢に運動麻痺を中心とした運動障害を呈する。脳卒中後の上肢運動麻痺は、ヒトのQuality of lifeを低下させることから、これらのリハビリテーションにおいて、多くの手法が開発されてきた。それらの手法の一つとして、振動刺激を用いたリハビリテーションも長く利用されてきた。脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションとしては、上肢の様々な筋群に局所的に刺激を当てる方法が使われている。振動刺激を用いる目的としては、1)異常な共同運動パターンに併存する痙縮を慶元するため、2)日常生活における機能的な活動における運動障害を有する上肢の運動制御を促通するため、といった2つの主な目的のために使用されている。

 痙縮に対するコントロールについては、以前は拮抗筋に振動刺激を当てることで、相反神経抑制を惹起し、ターゲットとする筋肉の痙縮を軽減することを目的に実施されていた。しかしながら、近年より強固に痙縮をコントロールする目的で、痙縮筋にストレッチを加えつつ、比較的長時間(3-5分)にわたり、振動刺激を与えるようなアプローチが頻繁に使われている。例えば、Nomaら[1,2]は、安静時に伸展ストレッチをかけた手関節と肘関節に対して、上腕二頭筋腱と尺側手根屈筋に振動刺激を5分間提供し、痙縮に与える影響について検討を行っている。その結果、Modified Ashworth Scale(MAS)にて測定した痙縮のスコアと脊髄の前角細胞の興奮性を示す神経生理学的指標の一つであるF波で表現した痙縮のパラメーターが低下したことを報告した。また、振動刺激による痙縮の軽減効果は実施後30分間にわたり持続したとも報告している。Caliandroら[3]は、脳卒中後の患者を対象に、痙縮を有する筋肉に神経刺激を提供したが、Wolf Motor Function Test(WMFT)で測定した上肢の運動パフォーマンスについては、有意な改善は認めたものの、効果量としては、非常に小さい変化でしかなかったと報告している。また、Marchoniら[4]は、伝統的な理学療法に併用して、尺側手根屈筋に対して、振動刺激を1日10分間を与えることで、筋緊張と運動機能の有意な改善を認めたと報告している。さらに、Liepartら[5]は、脳卒中患者に対して、前腕の手指伸筋群を提供することで、それらを実施しない群に比べて、臨床的な手指の巧緻性の改善を認めたとともに、transcranial magnetic stimulation(TMS)を用いた調査した、運動誘発電位の改善を認めたと報告している。これらの報告から、一般的なリハビリテーションに加えて、振動刺激を用いたアプローチを実施することで、痙縮といった振動刺激が効能を示す代表的な障害の低下に加えて、上肢全般のパフォーマンスの改善が認められることが示唆された。さらに、これらの変化は、運動誘発電位といった皮質脊髄路の促通および大脳皮質の可塑性変化を示す評価においても認められてうることから、回復のメカニズムが一部示された脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するアプローチであることがわかる。

まとめ

 本コラムにおいては、脳卒中後の上肢リハビリテーションにおける振動刺激の位置付けについて、過去に示されたランダム化比較試験を紹介しながら、解説を行った。過去の試験の結果から、振動刺激は、回復のメカニズムもある程度明らかにされている、臨床的にも意味のあるアプローチであることが示唆された。これらの結果から、臨床における介入方法の一つとして、振動刺激を用いることは妥当であると思われる。


参照文献

1. Noma T, Matsumoto S, Etoh S, Shimodozono M, Kawahira K. Anti-spastic effects of the direct application of vibratory stimuli to the spastic muscles of hemiplegic limbs in post-stroke patients. Brain Inj 2009;23:623-31.

2. Noma T, Matsumoto S, Shimodozono M, Etoh S, Kawahira K. Anti-spastic effects of the direct application of vibratory stimuli to the spastic muscles of hemiplegic limbs in post-stroke patients: a proof-of-principle study. J Rehabil Med 2012;44:325-30.

3. Caliandro P, Celletti C, Padua L, Minciotti I, Russo G, Granata G et al. Focal muscle vibration in the treatment of upper limb spasticity: a pilot randomized controlled trial in patients with chronic stroke. Arch Phys Med Rehabil 2012;93:1656-61

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