変形性関節症後に生じる痛みに対する電気刺激の鎮痛効果について(1)
<抄録>
変形性関節症は、高齢者に頻繁に見られる筋骨格系の疾患であり、最も多いものは、膝関節に出現するものと考えられている。リハビリテーションの場面においても、合併症として、膝関節の痛みによって、リハビリテーションプログラムの進捗や日常生活活動が阻害されることが多々ある。また、対象者も痛み、関節のこわばり、痛みによる活動制限などにより、Quality of lifeが低下することも多い。したがって、これらの対象者に対して、単純な日常生活活動の拡大を目標としたアプローチだけでは不十分であり、痛みに適切に対処したてリハビリテーションのプログラムを提供することが必要不可欠である。近年、膝関節に対する痛みに対して、末梢電気刺激を用いたアプローチが提供されている。本コラムにおいては、末梢電気刺激を用いたアプローチが対象者の膝痛に対して、どのような影響を与えるかについて、複数回にわたり情報提供を行う。第一回は変形性関節症の疫学について、先行研究を交えて解説する。
1. 変形性関節症の疫学について
変形性関節症は、最も一般的な関節疾患の一つであり、65歳以上の60-90%、一般人の約20%がこれらの疾患を患っていると報告されている[1]。変形性股関節症は、特定の関節に生じやすいといわれている。上肢なら、指、手関節、肩関節であり、下肢ならば、股関節や膝関節等の主に体重を支える大関節に影響を与えると考えられている[2]。過去の先行研究によると、70歳以上の高齢者の約40%が変形性股関節を合併していると報告されている[3-5]。この数字を見ると信じられない方もおられるかもしれないが、臨床における肌感覚としては、非常に納得できるものである。その証拠に、リハビリテーションが必要な疾患としては、脳卒中等であったとしても、活動の制限因子が膝、股関節症由来の関節痛であることを往々として経験することがある。
この疾患は、関節軟骨の破壊およびそれに伴う関節の変形が、軟骨の修繕よりも早くに進行し、最終的に不可逆性の変形に至ることで発症すると考えられている。臨床症状としては、激しい痛み、腫れ、関節のこわばり、これらの伴う筋力低下、関節の不安定性の出現、関節の位置覚の低下、クレピタス音(膝関節から発せられるジャリジャリといった摩擦音)、可動域制限等が挙げられている[6]。
関節痛は、有する対象者のQuality of lifeや活動及び機能制限を引き起こす深刻かつ重要な要因の一つであると複数の研究者が述べている[7-9]。関節炎、特に変形性関節症の有病率は、年齢を重ねるごとに増加するため、高齢者人口の増加に伴い、この疾患に対する医療費の負担は膨大になるものと考えられている.特に、高齢化が世界でも有数の本邦においては、考えなければならない、非常に重要な問題とも言える.
また、変形性関節症には抜本的な治療として、人工関節置換術等の根治療法が挙げられているが、保存的手法においては、決定的な方法が示されていない状況である。したがって、現状、痛み等によって生じる活動レベルの障害に対する対処的な療法と、痛みのコントロールに重点が置かれている。[10] しかしながら、鎮痛に関しては、医師が処方する、関節内注射がほとんどの場合で使用されており、この点についても療法士がリハビリテーションプログラムの中で使用できる鎮痛コントロールの手法が確立される必要性が議論されている。
まとめ
本コラムにおいては、変形性膝関節とそれから生じる痛みに関する疫学についてまとめた。また、生じる痛みに関しては、外科術等を除いて、良好な治療法が確立されておらず、医師が実施する関節内注射等が主流であると述べられている。しかしながら、療法士が提供できる痛みをコントロールできるエビデンスが確立された手法が必要である。次回のコラムでは、変形性関節症から生じる痛みに対するアプローチ方法の一つである末梢電気刺激療法について、まとめていこうと考えている。
参照文献
1. Andreoli TE, Cecil RLF, Carpenter CCJ, Griggs RC, Loscalzo J. Cecil essentials of medicine. Philadelphia, USA: Saunders; 2001.
2. Stein G, Knoell P, Faymonville C, Kaulhausen T, Siewe J, Otto C, et al. Whole body vibration compared to conventional physiotherapy in patients with gonarthrosis: a protocol for a randomized, controlled study. BMC Musculoskelet Disord. 2010;11:128
3. Huang MH, Lin YS, Lee CL, Yang RC. Use of ultrasound to increase effectiveness of isokinetic exercise for knee osteoarthritis. Arch Phys Med Rehabil. 2005;86(8):1545-51.
4. Rattanachaiyanont M, Kuptniratsaikul V. No additional benefit of shortwave diathermy over exercise program for knee osteoarthritis in peri-/post-menopausal women: an equivalence trial. Osteoarthritis Cartilage. 2008;16(7):823-8.
5. Zeng C, Li H, Yang T, Deng ZH, Yang Y, Zhang Y, et al. Electrical stimulation for pain relief in knee osteoarthritis: systematic review and network meta-analysis. Osteoarthritis Cartilage. 2015;23(2):189-202.
6. Yang K, Saris DBF, Dhert WJA, Verbout AJ. Osteoarthritis of the knee: current treatment options and future directions. Current Orthopaedics. 2004;18(4):311-20
7. Rutjes AW, Nuesch E, Sterchi R, Kalichman L, Hendriks E, Osiri M, et al. Transcutaneous electrostimulation for osteoarthritis of the knee. Cochrane Database Syst Rev. 2009;(4). CD002823.
8. Chen W, Hsu W, Lin Y, Hsieh L. Comparison of intra-articular hyaluronic acid injections with transcutaneous electric nerve stimulation for the management of knee osteoarthritis: a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 2013;94(8):1482-9.
9. Maeda T, Yoshida H, Sasaki T, Oda A. Does transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) simultaneously combined with local heat and cold applications enhance pain relief compared with TENS alone in patients with knee osteoarthritis? J Phys Ther Sci. 2017;29(10):1860-4
10. Beckwee D, De Hertogh W, Lievens P, Bautmans I, Vaes P. Effect of tens on pain in relation to central sensitization in patients with osteoarthritis of the knee: study protocol of a randomized controlled trial. Trials. 2012;13:21