リハビリテーションにおける予後予測の一般的な手続きについて(4)〜リスク比について〜

竹林崇先生のコラム
患者教育
リハデミー編集部
2023.08.16
リハデミー編集部
2023.08.16

<抄録>

 リハビリテーションを実施する上で、様々な技術や知識が必要とされている。一般的に多くの療法士は、麻痺や身体機能、高次脳機能障害に対する知識や治療技術そのものの研鑽に時間をかけることが多い。しかしながら、人の人生に寄り添うリハビリテーションには、それら治療技術以外にも多くのものが必要となる。近年、障害に対する知識や治療技術のほかに必要な知識の一つとして、予後予測もリハビリテーションを円滑に履行する上で、必要な技術と考えられている。前回のコラムである『リハビリテーションにおける予後予測が必要な理由について』において、予後予測はより良いリハビリテーションアプローチを対象者に提供するものであると述べた。こういった背景から、予後予測は一度ではなく、複数回に渡り実施し、その都度リハビリテーションアプローチを修正し、より良い予後を対象者に提供することが必要となる。これらについて3回に渡り解説を行っていく。第一回は、予後予測を進めるための具体的な手順について、回復に影響を与える要因の確認、について知っておきたい用語である、リスク比について解説を行っていく。

1. 予後予測における回復に影響を与える因子の確認について

 リハビリテーションにおける予後予測を実施する上で、非常に重要な手続きである。この手続きを実施しなければ、対象者の病態解釈とそこからのより良いリハビリテーションアプローチへの創意工夫は生まれない。では、具体的に何を実施していくかについて、ここに記していく。


1)さまざまなアウトカムの回復に影響を与える要因を予後予測研究から調べる

 予後予測研究にはさまざまな形態の研究がある。特に回復に影響を与える要因を調べる際に、理解しておきたい言葉もいくつかある。それらについて、ここでは解説を行なっていく。


・リスク比について

 リスク比(Risk ratio)は、相対的リスク(Relative risk)のことを指す言葉である。この言葉は予後予測研究のみならず、さまざまな研究の中で目にする。この指標は、結果に影響を与える因子の有無により、結果の割合がどのように変化するのかを示す指標である。具体的な例を示すと、何かしらの疾患を有する対象者群が、ある薬を投薬されること(因子)によって、その後の疾患の改善(結果)がどの程度異なるかを、倍率によって示す等で用いられることが多い。

 例えば、予後予測研究の中では、前向きのコホート研究において、この指標はよく使用される。前向きのコホート研究は因果の向きが因子→結果の方向を有する研究デザインである。さて、具体的に図1の例を用いて、「前向き」の意味を説明すると、「脂質異常」という因子を持っている対象者と、持っていない対象者が、その後脳卒中になるという結果との関係を見た際、因子から脳卒中の発症という結果を推定していることがわかる。こういった構造を持つ研究デザインを前向きのコホート研究という。

 では、具体的に図1の例を用いて、リスク比の計算方法を述べていく。例えば、100名の脂質異常症を持つ対象者と、同数の脂質異常症を持たない対象者を比較した際、数年後に、脂質異常症を持つ対象者の中で、脳卒中を発症した対象者は30名(30%)であった。一方、脂質異常症を持たない対象者の中で、脳卒中を発症した対象者は12名(12%)であった。この状況を見ると、脂質異常症がある場合、ない場合に比べて、脳卒中になりやすいことがなんとなく推測できる。

ただし、脂質異常症があるからといって、すべての対象者が脳卒中になることはない。ここでよくあるエピソードが「自分の父親は脂質異常症がとても重症だったが、脳卒中にはならなかったから、この情報は嘘である」という主張である。しかしながら、図を見てもわかるように、脂質異常症があったからと言っても70名(70%)の対象者は脳卒中にはなっていないのである。こういう状態を示すためにリスク比という概念が必要となる。脂質異常症があった対象者の発症率が30%、でなかった場合が12%であるならば、前者を後者で除算すると2.5倍という数字が出てくる。この値は、脂質異常症という因子が存在した場合、数年後に脳卒中になる可能性が、因子がない場合に比べ、2.5倍高まる、ということを示している。

 こう言った値を参考にして、予後にどういった因子が影響を与えるのかについて、検討を進める必要がある。

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