臨床推論の楽しさを感じてもらえたら-後編-

山本 伸一先生 × 藤本 修平先生インタビュー
リハデミー編集部
2019.02.04
リハデミー編集部
2019.02.04

作業療法を行っていく上でのバランスのとり方

藤本:先生が作業療法を行っていくうえで、エビデンスと経験、患者さんの価値観などのバランスのとり方をどのようにお考えになっているかをお聞きしたいと思います。例えば、私は研究をしているのですが、エビデンス、エビデンスというのをよく耳にします。しかし、臨床はエビデンスだけではできないわけですね。エビデンス至上主義じゃないですけど、過剰にエビデンスに頼った方向に進んでいったり、反対に過剰に経験に頼った方向に進んでいったり。治療を行ううえでのバランスのとり方がちょっと下手なセラピストさんが多いなと私自身は感じています。そういったところはいかがでしょうか?

山本:おっしゃるとおりですね。至上主義はいくつかあって、経験至上主義も大事なことですね。それからエビデンス至上主義やADL至上主義というのもありますよね。これはいわゆる成果主義ですよね。それぞれ自分の得意とする分野があると思います。エビデンスを追求されるのも、僕のように臨床を追求するのもありだと思います。ただ、経験、エビデンス、臨床が存在する中で、バランスよく自分の立ち位置を持っていないと片手打ちになりそうですよね。臨床はやはりエビデンスだけではまだまだ開きがありますので。

藤本:そうですね。

山本:作業療法においても、今ようやく臨床とエビデンスと経験を、教育を含めてつないでいこうという動きが始まろうとしていますが、それはとても重要なことです。しかし、例えば今日講義をさせてもらいましたけれども、脳卒中というのは10人いたら10人とも動きや動作、肩の痛みや痛みの種類も違う。硬い人もいればロートーンもいるし、痙性もいれば高次脳機能障害もいる。十人十色ですので、その中でエビデンスをだせるかというと難しいですよね。

藤本:難しいですね。

山本:けれどもエビデンスは必要とされているわけで、開きがあるからといってエビデンスと臨床、経験を別々にやればよいとは全く思わないです。今、開きがあるのを今後5年、10年、それ以上かけて、いかに近づけていくための作業をするかというのが、理学療法、作業療法、言語聴覚療法の成果とエビデンスを世に示していくというところじゃないですかね。今はまだまだ開きがあるけれども3つの至上主義をバラバラにやっているのでは未来はないと思います。

藤本:そこのチームワークがおそらく大事になってくるところですかね。「臨床現場ってチームワークはとれる?」という私所属の研究チームがありますが、研究所って臨床からの意見を取り入れる風潮があまりなく、自分たちが見つけた課題を研究ベースにしていることが多いと感じています。研究所と臨床が併設しているところですと、臨床の疑問を組み上げる作業が必要だということをよく言うのですが。臨床から研究へのアプローチは実現可能なのでしょうか?

山本:まだまだこれからですので、これというのはまだ言えませんが、うちの病院にもいくつかの研究班があり、臨床研究班を立ち上げています。論文の書き方などの初歩的なところも含めて、研究していくとはどういうことなのかということや、論文を読んでみんなで昼食会をしたり、それぞれの研究を学会に出してみたり、どこかの大学の先生方と共同演者になってみたりと、PTも含めて行っていますね。臨床の我々と大学の先生方が一緒に行動することについては、病院の中でまず研究班を立ち上げ、大学の先生方とリンクをしていく作業をそろそろ始めないといけないなと思っているところです。

藤本:そういったなにかを作っていくことを山梨リハ病院さんみたいなところが先駆的にやられると全国でも広がっていく動きがでてきてくると思っています。パイオニアじゃないですけど。

山本:そういったことも始めつつあるということですね。

藤本:動こうとすることがまず大事ということですかね。

山本:そうなります。

 

学習を促して人を育てていくことが大事

藤本:ありがとうございます。最後は先生のご意見といいますか、先生が思われていることをお聞きしたいと思います。先生は色々なところで講演されていると思うのですが、講師を行ううえで心がけていることをお聞きしたいと思います。できれば、実技、座学でそれぞれ心がけていること、実技、座学で心がけていることが共通しているのであれば、共通していることをお聞きしたいのですが。

山本:考えていることはいくつかあるのですが、一番は「わかりやすく」につきますね。わかりやすくというのは座学も実技もです。じゃあ「わかりやくするってなに?」と考えると、僕の場合は臨床家なので今の理学療法士、作業療法士の現場で行われていることを理解したうえで、「今なにをするか」ということをいつも心がけていますね。

藤本:一番大事ですよね。

山本:そこは重要視をしていて、実技に関して言うと「人を育てる」う気持ちで行うことですね。一方通行ではダメなので。参加していただいている先生方がどういう顔色か、輝いているのかそうじゃないのか、手が止まっているのか動いているのか、それによって自分の引き出しのどこを出そうかと考えながら行っています。

藤本:先程、先生の実技講習を裏で聞いていて、先生が受講生の方をすごく褒めているなと感じました。「そうだよ、それだよ。」みたいな。実は受講生を褒めることって珍しいのですが。

山本:珍しいのですか?

藤本:はい。私が色々実技講習を聞いている中で、生徒に「これだ」と明確に示せている先生は結構少ないです。ベテランの先生は、「うん、そんな感じ」みたいな方が多いので、すごく印象的でした。的確なわかりやすさと受講生の学習を促すために褒めていらっしゃるのでしょうか?

山本:そうですね。実技の場合はこれであっているのかどうかがわかりにくいんです。例えば指標として、「ここの筋に動きが入れば」、「ここの長さが変われば」とあったとしても、「これでいいのかどうか」という判断は初めて習うわけですからすごく難しいですよね。「それで合っているよ」と言語化してあげて、「これでいいんだ」と思えることはやはり必要じゃないですかね。

藤本:そうですよね。フィードバックとしてということですよね。

山本:それは患者さんも一緒なので。やりっぱなしじゃなくて、「ああいいですよ!それですよ!」歩けるようになるために膝がリリースできて、肘を伸ばすために肘が伸びて、「それです!良いですね。山本さん良いですよー!」ってやはり言葉で示してあげて、学習として固めてあげる。学習を促して人を育てることは、対象が受講生さんでも患者さんでも大事なことだと思います。そこに責任をもつのが私達セラピストだと思いますしね。

藤本:実は、以前山梨リハビリテーション病院の伊藤先生のインタビューをさせていただいたときにもたくさん言語化をされていました。こういう教育を受けられる山梨リハビリテーション病院さんはすごいなと勝手ながらに思っていたのですが。

山本:やっぱり患者さんが中心なんですね。僕らが主体や中心じゃなくて。患者さんが立ち上がる、歩く、手を伸ばしてリーチできる、服を着られる、トイレに行けることが「ああ、よかったですね」と。僕たちは黒子であって中心人物ではないので、患者さんができたことに対して「ああ、よかったですよ」と言うのはやはり自然なことだと思います。患者さんが中心にいて、患者さんをどうするかですので。だって辛いのは患者さんですからね。

藤本:そうですね。

山本:新人さんは書類や実技で大変だって言うんですが、「ちょっと待て、新人がしんどいのはわかるけど、しんどいのは患者さん達だよね。患者さんたちが病気になって病棟で泣いてるんだよ。患者さんの為に僕たちがいるんだよ。自分たちが辛いと言うのはやめよう。」ということを僕は職場でも言っています。

藤本:そういったマインドは必要ですし、私が先ほど申し上げたようにセラピストの質の部分があまりにも定量化されすぎていて、その場に応じての声掛けが大事と言われているわけですね。エビデンスに偏りすぎるとアウトカムが注目を浴びすぎてしまい、目の前の患者さんをみるということがおざなりになってしまうと。講習会を通して学べるものってたくさんあると思います。目の前の患者さんをみるということを受講生の方に感じていただけるといいなと思いながら聞いておりました。

山本:生の治療ですよ。計画とか、型にあてはめるとか、もちろん大事なことですけれども臨床ってそんなに簡単ではないですよね。「なんでこうなるんだろう。じゃあこうしてみよう。」、「こんな反応が出た。じゃあ、こうしてみよう。」と、目の前の反応に対して自分なりの答えを考えるというサイクルがあるということですよね。

藤本:仮説、検証の繰り返しですよね。

山本:臨床推論をいかに現場の中でどうするかという楽しさを講習会の実技を通して感じてもらえたらと思います。健常人でもうまくいかないことはありますよね。でも、今日皆さん一生懸命に「こういう硬い人にはこうやったら」、「トーンの低い人だったらこうやったら」と考えて行っていました。患者さんと一緒です。推論して変わっていくセラピーの楽しさがわかってくれるとすごくうれしいなと思うし、よい仲間だなと思います。

藤本:仮説が裏にあって、それに対して技術があって、またそれを繰り返して、ということですよね。

山本:そうですね。

藤本:はい。うまくまとまったかどうかはわからないですけど、ありがとうございます。先生、短い時間でしたが、非常に有意義なお話を聞くことができました。ありがとうございました。

山本:こちらこそ、ありがとうございました。

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