リハビリテーションにおける予後予測の一般的な手続きについて(5)〜オッズ比について〜
<抄録>
リハビリテーションを実施する上で、様々な技術や知識が必要とされている。一般的に多くの療法士は、麻痺や身体機能、高次脳機能障害に対する知識や治療技術そのものの研鑽に時間をかけることが多い。しかしながら、人の人生に寄り添うリハビリテーションには、それら治療技術以外にも多くのものが必要となる。近年、障害に対する知識や治療技術のほかに必要な知識の一つとして、予後予測もリハビリテーションを円滑に履行する上で、必要な技術と考えられている。前回のコラムである『リハビリテーションにおける予後予測が必要な理由について』において、予後予測はより良いリハビリテーションアプローチを対象者に提供するものであると述べた。こういった背景から、予後予測は一度ではなく、複数回に渡り実施し、その都度リハビリテーションアプローチを修正し、より良い予後を対象者に提供することが必要となる。これらについて3回に渡り解説を行っていく。第一回は、予後予測を進めるための具体的な手順について、回復に影響を与える要因の確認、について知っておきたい用語である、リスク比について解説を行っていく。
1. 予後予測における回復に影響を与える因子の確認について
リハビリテーションにおける予後予測を実施する上で、非常に重要な手続きである。この手続きを実施しなければ、対象者の病態解釈とそこからのより良いリハビリテーションアプローチへの創意工夫は生まれない。では、具体的に何を実施していくかについて、ここに記していく。
1)さまざまなアウトカムの回復に影響を与える要因を予後予測研究から調べる
予後予測研究にはさまざまな形態の研究がある。特に回復に影響を与える要因を調べる際に、理解しておきたい言葉もいくつかある。それらについて、ここでは解説を行なっていく。
・オッズ比について
オッズ比とは、リスク比と同じように考えられる。しかしながら、リスク比が直接的な確率を示す指標であることに対して、オッズ比は推定値に過ぎない。なので、状況によっては、リスク比と近い値を取ることもあれば、推定値にもならないこともある。オッズ比は、因果の関係を後ろ向きに見る研究デザインの結果(結果→因果)を示す際に用いられる。後ろ向きの研究デザインであるケース・コントロール研究において、よく見る指標である。さて、例えば、前回示した、リスク比に関する集団でリスク比とオッズ比がどのように異なるかを示していく。
前回(リハビリテーションにおける予後予測の一般的な手続きについて (4)〜リスク比について〜)示した例を図2に示す。
図1, 2を比較すると最終的な脳卒中患者の数と脂質異常症患者、そして、非脂質異常症患者の数は同様である。異なるのは、因子と結果の関係性の方向である。図1は、結果から、因子を探索する後ろ向きのデザインである。逆に、図2は、逆に因子から結果を探索する前向きのデザインである。この場合、リスク比が2.5倍であることに対して、オッズ比を計算すると、脳卒中を有する患者(脂質異常患者30名÷非脂質異常患者12名)÷非脳卒中患者(脂質異常患者70名÷非脂質異常患者88名)=2.81倍となる。リスク比を推定するオッズ比は近いところに存在する。今回は、脳卒中という比較的イベント発生率が少ないものを対象としたが、これが肥満等に代表されるように発症率が高いイベントが結果である場合は、オッズ比とリスク比が大きく乖離することがある。
つまり、オッズ比は結果が発生する確率が小さな際にはリスク比と同様の解釈が可能な尺度であるが、結果が発生する確率が大きい場合には、リスク比のように直接的に○倍大きな確率で、という推定ではなく、『結果に影響を与える因子である』といったざっくりした解釈にしか用いることができないということを理解しておく必要がある。