Constraint-induced movement therapy(CI療法)の回復メカニズム

竹林崇先生のコラム
運動器疾患, その他
リハデミー編集部
2024.06.10
リハデミー編集部
2024.06.10

<本コラムの目的>

・CI療法のメカニズムを理解する

・メカニズムを想定しながら介入ができる

1. CI療法における神経可塑性のメカニズムについて

 脳卒中後の上肢麻痺に対するCI療法においては、運動学習に伴う脳の可塑性が、機能改善に関する大切なメカニズムの一つであると考えられています。


脳の可塑性とは?

脳の神経細胞が、脳損傷等によって失われると、その細胞自体の回復はある程度限られますが、そのほかの損傷していない部位が損傷してしまった細胞が担っていた機能を代替えし、運動をはじめとした機能を回復させるとされています。こういった理論的背景から、近年では、脳損傷後に麻痺の影響を受けた半身に対してリハビリテーションを行うことで、失われた機能を再獲得できる可能性が注目されています。


 リハビリテーションにおいて、脳の可塑性が影響する可能性が考え始められた最初の転機が1996年に発表されたNudoら[1]の研究があげられます。彼らの研究が報告されるまでは、脳を含む中枢神経系は非常に硬い存在として考えられており、一度損傷した領域については,回復することや他の領域によって代償される可能性は極めて低いと考えられていました。

 しかしながら、彼らの研究では、上肢運動障害を呈した霊長類において、単純に自然回復に関係なく、障がい側上肢・手指に対するトレーニングの結果として、麻痺側上肢に関わる領域を含む大脳皮質に再編成が起こり、機能を代償する可能性を示しました(脳の可塑性).また,こういった現象は、サルをはじめとした霊長類だけでなく、ラットなどの他の動物モデルにおいても、麻痺側上肢に対するトレーニングの結果として、麻痺側上肢の運動機能の回復と、それに対応する皮質領域の神経可塑性が同様に観察されたとされています[2,3].


特にこれらの回復メカニズムは、CI療法のメカニズム研究において、明らかにされてきた。CI療法における麻痺側上肢の集中練習や、実生活における麻痺側上肢の積極的利用を通して、経験依存性の大脳皮質の神経系の再編成が生じ、麻痺側上肢の感覚運動系の回復を促すことが考えられています[4]。


 CI療法をはじめとした長時間の課題指向型練習は、脳卒中を有する対象者の麻痺側上肢における運動障害を軽減すると言われており,高い効果のエビデンスを誇っている.CI療法では、麻痺側上肢に対してShapingとTask practice,といった対象者の上肢機能に応じた適切な難易度が施された課題指向型アプローチを実施していきます。このように『難しすぎず、簡単すぎない課題』を麻痺側上肢でこなしていくことで、麻痺側上肢の機能に関わる神経可塑性変化が生じることをJohansen-Bergら[6]やWittenbergら[7]が,報告しています。彼らの研究では,集中的な課題指向型練習を実施することで、一次運動皮質および二次運動皮質領域における経験依存性の大脳皮質における再編成(可塑性)を誘発することが報告されています。

 さらに、CI療法では課題指向型練習によって獲得した上肢機能を生活に反映させるための行動心理学的手法であるTransfer packageというものも併せて実施されています。このTransfer packageについても神経可塑性に関わるメカニズムが調査されています。

 Transfer packageの脳の神経可塑性に与える影響については、Gautherら[7]がこの手続きを実施し、実生活の中で手を使用することで、両側の海馬、感覚野、補足運動野、前運動野における大脳皮質の灰白質の質量が増加したと報告しています。さらに、この研究においては、該当する灰白質の質量の増加が、脳卒中患者の実生活における麻痺側上肢の使用頻度と中等度の相関を示したと言われています。つまり、生活で麻痺側上肢を使用することで、課題指向型練習とはまた異なった領域の可塑性が認められたことになります。

 これらの研究が示すように、CI療法を実施し、練習内および実生活内で麻痺側上肢を頻回に使用することで、大脳皮質の配列そのものを変化させ、再編成させることが明らかになっています。つまり、リハビリテーションによって、動かす身体だけでなく、それらの動きを司る脳を変えることができるのです。


参照文献

1. Nudo R. J., Wise B. M., SiFuentes F., Milliken G. W. (1996). Neural substrates for the effects of rehabilitative training on motor recovery after ischemic infarct. Science 272 1791–1794. 10.1126/science.272.5269.1791 

2. Castro-Alamancos M. A., Borrell J. (1995). Functional recovery of forelimb response capacity after forelimb primary motor cortex damage in the rat is due to the reorganization of adjacent areas of cortex. Neuroscience 68 793–805. 10.1016/0306-4522(95)00178-

3. Jones T. A., Chu C. J., Grande L. A., Gregory A. D. (1999). Motor skills training enhances lesion-induced structural plasticity in the motor cortex of adult rats. J. Neurosci. 19 10153–10163. 10.1523/JNEUROSCI.19-22-10153.1999

4. Laible M., Grieshammer S., Seidel G., Rijntjes M., Weiller C., Hamzei F. (2012). Association of activity changes in the primary sensory cortex with successful motor rehabilitation of the hand following stroke. Neurorehabil. Neural Rep. 26881–888. 10.1177/1545968312437939

5. Johansen-Berg H., Rushworth M. F., Bogdanovic M. D., Kischka U., Wimalaratna S., Matthews P. M. (2002). The role of ipsilateral premotor cortex in hand movement after stroke. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 14518–14523. 

6. Wittenberg G. F., Chen R., Ishii K., Bushara K. O., Eckloff S., Croarkin E., et al. (2003). Constraint-induced therapy in stroke: magnetic-stimulation motor maps and cerebral activation.Neurorehabil. Neural Rep. 17 48–57. 

7. Gauthier, L. V., Taub, E., Perkins, C., Ortmann, M., Mark, V. W., & Uswatte, G. (2008). Remodeling the brain: plastic structural brain changes produced by different motor therapies after stroke. Stroke, 39(5), 1520-1525.

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