予後予測研究に頻発するリスク比、オッズ比、ハザード比とは

竹林崇先生のコラム
患者教育
リハデミー編集部
2022.05.30
リハデミー編集部
2022.05.30

<抄録>

 脳卒中治療ガイドライン2021に『リハビリテーション プログラムは,脳卒中の病態、個別の機能障害、日常生活動作(ADL)の障害,社会生活上の制限などの評価及びその予後予測に基づいて計画することが勧められる(推奨度A エビデンスレベル中)と言われており,非常に重要視されている.予後予測に対する情報収集において,多くの研究を検索する中で,用語の理解は非常に重要だと考えられている.本コラムにおいては,予後予測研究において頻発する用語であるリスク比,オッズ比,ハザード比について,簡単に解説を行う.

1. リスク比について

 リスク比とは「相対リスク」とも呼ばれている.ある要因(例:高血圧等)を持っている人とそうでない人の間で,結果として疾患や障害を有する危険率を示す値である.例えば,高血圧と比高血圧の対象者をそれぞれ100名調査した際,高血圧群で20名,非高血圧群で8名の対象者が脳卒中を発症したと仮定する.この場合,高血圧患者における脳卒中の発症率は20%,非高血圧患者における脳卒中の発症率は8%となり,高血圧といった要因による脳卒中発症のリスク比は2.5倍(20%÷8%=2.5倍)となる.この結果から,高血圧と言った要因が,脳卒中発症の2.5倍の強さで高める因子ということが解釈として成り立つ.これらは直接的な比較であり,前向き,後ろ向きのコホート研究において,直感的な理解に役立つ指標であると言える.

2. オッズ比について

 一方,後ろ向き研究のなかでも,ケースコントロール研究の場合,得られる確率は「脳卒中の対象者における高血圧がある確率」と「非脳卒中の対象者における高血圧がある確率」となり,高血圧によって生じる脳卒中発症のリスク比を計算することができない.したがって,研究デザインとしてリスク比が計算できないように操作されたケースコントロール研究では,オッズ比が用いられる.

 オッズとは,ある要因(高血圧など)をもっている確率を,その要因をもっていない確率で割った値である.そして,結果が異なる2群間(脳卒中の発症例と非発症例)の比をとったものがオッズ比である.たとえば,上記のリスク比の例えを用いて説明すると,脳卒中群における高血圧と非高血圧の対象者のオッズは2.5(20÷8=2.5),非脳卒中群における高血圧と非高血圧のオッズは0.87(80÷92≒0.87)となり,したがってオッズ比は,2.5÷0.87≒2.9倍となる.この例では,リスク比とオッズ比が近くなり,妥当な推定値として機能しているようにみえる.しかしながら,多くのケースでリスク比よりもオッズ比のほうが大きく出ることがあり,単純にリスク比と同様の解釈をするのには問題がある.解釈にあたっては,そういった指標であるということをよく理解し,利用する必要がある.

3. ハザード比について

 オッズ比と類似している用語に,ハザード比というものがある.ハザード比は,死亡等のイベントの発生率を比較する臨床研究において,イベントの発生だけでなく,そのイベントがどの時点で生じたかという時系列の情報も加味した発症率である.例えば,リスク比の例で説明すると,高血圧群100名を3年ずつ観察し,そのうち20名が脳卒中になったとする.そうすると「20名/300人年≒0.067」とハザードを計算することができる.次に,非高血圧群において,4年ずつ観察し,8名が脳卒中になったとすると,ハザードは『8名/400人年≒0.02』となる.良いイベントの場合は,ハザードが大きい方が望ましく,悪いイベントについては,点数が低いほど望ましいとされている.次に,ハザード比を求めた場合,高血圧群のハザード(0.067)÷非高血圧群(0.02)=3.35倍となる.この結果から,時系列情報を加えたある時点での脳卒中発症率が3.35倍高くなるといった解釈が可能となる.

まとめ

 予後予測に関する総説論文や著書などを読んでいると,発症率や死亡率のように,○○率と言った言葉が頻繁に登場する.ただし,予後予測に利用される因子推定の研究においては,上記に示したように,リスク比,オッズ比,ハザード比といった率に関わる比が使い分けられており,それぞれの示す率の解釈も大きく異なる.したがって,上記の表記に出会った際には,それぞれの『率』が何を示しているのかを原著を辿った上で,適切な解釈を行うことが必要であると思われる.

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