リハビリテーションにおける拡張現実(Augmented Reality: AR)を用いた理学療法がバランス機能と歩行機能に対して与える効果について 〜システマティックレビューとメタアナリシスの結果から

竹林崇先生のコラム
その他
リハデミー編集部
2022.05.20
リハデミー編集部
2022.05.20

<抄録>

 近年,実生活やゲームにおいて,テクノロジーは急速に進化している.そのテクノロジーの一つに,拡張現実(Augmented Reality:AR)とは,ヒトが存在する現実の物理環境においてデジタル情報から新しい画像を生成し,現実にある映像と新しく作られた人工のデジタル画像が混在する空間のことを指す.近年では,これらARの技術を利用したリハビリテーション等も発展しており,注目を集めている.本コラムでは,リハビリテーションにおけるARの技術を利用したアプローチのエビデンス について,システマティックレビュー等の知見を紹介する.

拡張現実(Augmented Reality: AR)を用いたテクノロジーのエビデンス について

 我々の実生活において,テクノロジーは急速に進化し,その周辺環境も激変させている.例えば,その一つに拡張現実(Augmented Reality: AR)を用いたテクノロジーがある.ARは,広告,ショッピング,心理学,医学,ゲームなど様々な分野で多用されており,最近では,理学療法や作業療法といったリハビリテーションの領域においても利用がなされるようになっている.ARは実環境に近い体験を,安全な環境下にて生成することができるため,理学療法士や作業療法士が,病院や施設等の制限された空間の中では実現できないアプローチを生成するために,有用な可能性を秘めている.

 ARを用いたリハビリテーションにおいては,いくつかの利点があると報告されている.例えば,1)リハビリテーションのセッション中に,対象者に新しい経験を提供し,エンゲージメントを高め,その結果,身体的なアウトカムの改善を導くこと1,2)自宅等,コストが特にかからない空間における利用で,低コストで対象者が楽しめる練習機会を想像できる2,3)AR空間における全ての事象は記録に残るため,練習終了後に,後ろ向きにこれらのデータを用いて分析が実施できる3,等が,ARをリハビリテーションにおいて使用する利点として,報告されている.

 さて,ARを用いた代表的なリハビリテーションツールとしては,ARにおいて,対象者がその空間の中での作業に対し,モチベーションを高めつつ,楽しみながら反復練習を実施すると言ったコンセプトのツールが既に効果を示している1.昨今では,ARを用いたリハビリテーションの対象疾患は,脳卒中,脳性麻痺,多発性硬化症,パーキンソン病,脊髄損傷,慢性疼痛といった多岐にわたっている.

 そこで,Vinole Gilら5が,従来のリハビリテーション(理学療法および,電気刺激療法等を用いたもの)とARをテクノロジーを用いた理学療法を比較したシステマティックレビューを他疾患に対して実施している.この研究では,システマティックレビューの過程で,11本の論文を対象にしている.1本の論文において,介入群はARを用いた理学療法を実施しており,対照群としては,一般的な理学療法による歩行練習が4本,機能的電気刺激を用いた歩行練習が1本,電気刺激とトレッドミルを用いた歩行練習が1本,感覚運動練習とミラーセラピーを用いた理学療法が1本,ヨガを用いた理学療法が1本,オタゴ療法を用いた理学療法が1本,介入なしが1本,リズム刺激を入れた歩行練習が1本,が設定されている.またこのうちの4本の論文を対象にメタ解析を実施している.

 メタ解析の結果としては,308名の対象者において,ARによるBerg Balance scaleの効果量は,0.473(95%信頼区域 -0.087〜1.0338, z=1.65,P=0.10)であり,Timed up and go testについては,-1.211(95%信頼区域 -3.2005〜0.7768, z=1.194,P=0.23)であったと報告されている.ARは,従来の治療法と組み合わせて,老年期のバランスと転倒予防,脳卒中の下肢・上肢機能,幻肢痛症候群の疼痛,歩行凍結を伴うパーキンソン病患者の寝返りなどの治療に用いられてきた.ARはバランス改善に有効な傾向を認めるものの,従来の理学療法を始め,対照群に比べ,有効であるとは言えない.しかも,メタアナリシスの対象となるサンプル数が少なく,さらには異質性が高いことから,この結果が決定的なものとは言い難い.新しい分野の研究だけに,今後,多くのランダム化比較試験が実施されることにより,より大きなサンプルサイズを用い,使用する装置や介入の頻度・強度の点でより均質性の高い研究が必要である.


参照文献

1. Postolache O, et al. Advanced Systems for Biomedical Applications. Cham: Springer; 2021. Virtual reality and augmented reality technologies for smart physical rehabilitation.

2. Cary F, et al. Kinect based system and serious game motivating approach for physiotherapy assessment and remote session monitoring. Int J Smart Sensing Intell Syst. 2020 Jan;7(5):1–6.

3. Borghese N,et al. An intelligent game engine for the at-home rehabilitation of stroke patients. Proceedings of the IEEE 2nd International Conference on Serious Games and Applications for Health (SeGAH); IEEE 2nd International Conference on Serious Games and Applications for Health (SeGAH); May 2-3, 2013; Vilamoura, Portugal. 2013.

4. Sveistrup H. Motor rehabilitation using virtual reality. J Neuroeng Rehabil. 2004 Dec 10;1(1):10. 

5. Vinolo Gill, et al. Augmented reality on physical therapy: systematic review and meta-analysis. JMIR Serios Games, 2021; 9(4): e30985

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