脳卒中後の対象者の方々の発症後の経過について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2022.04.25
リハデミー編集部
2022.04.25

<抄録>

 予防対策や,搬送ネットワーク,急性期医療の向上に伴い,過去数十年の間に,人類における平均寿命は拡大の一途を遂げている.この現象は,脳卒中医療を取り巻く環境下においても同様のことが言え,脳卒中発症による直接的な死亡率は低下している.しかしながら,その反面,社会に住む脳卒中の年間発症者数,脳卒中後の対象者の方の死亡者数,および生存者数も大幅に増加し,疾患発症後の関連障害による対象者の方の負担は増加していると考えられている.これらの事実は,脳卒中によって,急性期直接的な死は免れるようになっているものの,脳卒中によって生じた後遺症とともに,生きる人の増加を指し示している.これらに対し,対象者の方々の生活をより豊かにするためのリハビリテーションを提供するためのフレームの開発が切望されている.本コラムでは,その基盤となる,過去数十年の脳卒中発症後の対象者の経過について,解説を行う.

脳卒中後の対象者の方々の発症後の経過について

 脳卒中は,世界的にも死因の高位に位置する疾患の一つである.予防対策や,搬送ネットワーク,急性期医療の向上に伴い,過去数十年の間に,人類における平均寿命は拡大の一途を遂げている.この現象は,脳卒中医療を取り巻く環境下においても同様のことが言え,脳卒中発症による直接的な死亡率は低下していると考えられている.ただし,臨床にて,対象者の方々と関わっていると肌感としては,それらの傾向を感じることはあれど,具体的なデータとして,それらを理解する機会は少ない.予後予測研究等では,比較的小さな範囲(ある研究施設,病院,ある国家単位)における単発の分析を行なっているものは多々あるが,よりグローバルな視点で,それらの経過を鑑みた調査をした研究は比較的少ない.今回は,グローバルな分析視点で,これらの経過を見た研究を通して,脳卒中後の対象者の方々の発症後の経過について考えてみたい.

 Feiginらは,1990年から2012年のMedline, Embase, LILACS, Scopus, Pubmed, Science Direct, Global Health Database, WHO library, WHO regional databasesを検索し,1990年から2010年の間に発表された,脳卒中後における対象者の生命予後に関する論文を分析した.その結果,119件(高所得国の調査が58件,低所得国の調査が61件)の調査が研究対象となった.分析の結果,2010年から2010年にかけて,脳卒中の発症年齢は,高所得国では12%有意に現象し,低・中所得国においては,有意ではないものの,12%増加したと報告している.脳卒中発症による即時的な死亡率については,高所得国にて37%,中低所得国にて20%,有意な低下を認めている.さらに,2010年には,初発脳卒中患者,新規脳卒中患者は900-1600万人(1990年よりも68%増)と推測され,脳卒中後の後遺症とともに生きる方々も3300万人(1990年よりも84%増)に到達したと推測されている.また,急性期の死亡率の低下に伴い,脳卒中後の関連疾患死亡者数も500万人((1990年よりも26%増)と報告されている.

 さらに,GBD 2015 Disease and injury incidence and prevalence collaboratorsが示した上記の継続研究においては,2005年から2015年にかけて,虚血性脳疾患の有病率(脳卒中を発症したが,急性治療により救命され,その後後遺症とともに社会で過ごしている対象者の割合)が,21.8%有意に増加したと報告されている(具体的な人数の変化は,2047万人から2493万人に増加した).これらの変化の傾向は,世界全体における人口の母数の増加や人口そのものの平均年齢の増加,伝染病等の感染制御の向上等により,今後も継続されるものと考えられている.

上記の研究から,急性期の救命率の向上により,対象者の方々のその後の人生における質の向上が問われる時代になっていることが科学的にも窺える.これらの観点から,世界中の社会において,脳卒中後に生じる後遺症とともに生きる対象者の増加と,それらに対応した多角的なリハビリテーションの手法,及びサービスの開発・提供の発展は急務であり,継続的な開発努力が今後も必要になると思われる.


参照文献

1. Feigin VL, et al. Global and regional burden of stroke during 1990-2010: findings form the Global burden of disease study 2010. Lancet. 2014; 384: 245-254

2. GBD 2015 Disease and injury incidence and prevalence collaborators. Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 310 disease and injuries, 1990-2015: a systematic analysis for the Global burden of disease study 2015. Lancet. 2016; 388: 1545-1602

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