脳卒中後の上肢運動障害の治療における筋電トリガー型のロボットトレーニングに関する最近の知見(2)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.09.01
リハデミー編集部
2023.09.01

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺は対象者の日常生活活動に制限を与えるだけでなく、Quality of lifeや幸福度といった点にも大きな影響を与えると言われている。2000年以降、多くのアプローチが開発され、臨床試験を通して、それらの効果が検証されている。さて、日本でも多くのアプローチが示されている。その中でも手指の筋電をトリガーとして、対象者の機能回復を図ろうとするロボットに対する注目は年々大きくなっている。昨日、福岡で開催された第60回日本リハビリテーション医学会学術集会においても、Meltin社のMeltzが大きな注目を集めており、一般臨床においても、近い将来、これらの機器に関する報告がなされていた。本コラムにおいては、最近注目を集めている筋電トリガー型のロボットトレーニングに関する海外も含めたトレンドについて、2回に渡り、解説を行う。

1. 筋電トリガー型のロボットトレーニングに関する海外を含めた最近の知見(続き)

 さて、ロボット支援トレーニングにおいて、EMGをトリガーにしたプログラムは、EMG信号が特定の閾値に達すると、ロボット支援トレーニングが作動し、患者が所望の動作を完了するのを支援する。これにより、対象者の最小の運動単位を用いて、EMGベースのロボットは、参加者と機械の間の相互作用を増加させ、ロボット支援トレーニングの効果を高め、医療スタッフの負担を軽減する可能性があります。過去の研究では、EMGベースのロボットが従来の治療と比較して、脳卒中後の患者のFugl-Meyer評価(FMA)スコアと上肢の痙縮を改善することが判明している[1, 2, 3, 4]。ただし、複数の研究者が[1, 5-7]、EMGベースのロボットの有効性は、課題指向型トレーニングや従来の手技療法に優るものではないとしている。この点について、筆者は、そもそも課題指向型トレーニングとロボット支援とレーニンングはアウトカムに与える影響が異なると考えている。課題指向型トレーニングは、日常生活活動における麻痺手の使用行動を優位に改善させ、ロボット支援トレーニングは、運動麻痺、麻痺手のパフォーマンスといったより機能的な側面を改善させるといった特徴を持っている。その点も理解した上で、これらのアプローチの組み合わせ、使い分けを考えることが必要である。

 こういった知見からも、脳卒中サバイバーの上肢機能に対するEMGベースロボットの効果が、従来の治療法よりも優れているかどうかは依然として不明と考えられている。現時点では、EMGを用いたロボットトレーニングが従来の治療法よりも優れているかどうかをまとめたメタアナリシスは不足している。そこで、2023年に発刊された、最新のシステマティックレビューとメタアナリシスの内容について、紹介しておこうと思う。

 Huoら[8]によって示されたこのシステマティックレビューとメタアナリシスは、ロボット支援トレーニングに用いられるロボットの中でも、特に 筋電トリガー型のロボットを用いたアプローチに限定し、効果の検証を実施している。効果の検証としては脳卒中患者の上肢運動障害、痙縮、活動制限、に関して、筋電トリガー型のロボットを用いたアプローチと従来の治療法と比較検討を行っている。システマティックレビューの手続きを通して、13の論文、330名の対象者がこの研究の対象とされた。その結果、筋電トリガー型のロボット支援リハビリテーションは、介入後のFugl-Meyer Assessmentと実生活における麻痺手の使用行動において、従来の治療法に比べ、有意な改善を示したと報告している。さらに、亜急性期の対象者、リハビリテーションの時間が1000分未満の対象者に限定した、サブ解析においては、筋電トリガー型のロボット支援トレーニングは、より有意な改善を示すとも報告されている。

 この結果からも、筋電トリガー型のロボットを用いたアプローチは有用な場面が想定されており、今後のリハビリテーションにおける必須の技術になる可能性が高い。セラピストはこういった情報にしっかりアンテナを向け、臨床利用の準備を整えることが必要になる。


参照文献

1. Stein, J., Narendran, K., McBean, J., Krebs, K., and Hughes, R. (2007). Electromyography-controlled exoskeletal upper-limb-powered orthosis for exercise training after stroke. Am. J. Phys. Med. Rehabil. 86 (4), 255–261. 

2. Song, R., Tong, K.-y., Hu, X., and Li, L. (2008). Assistive control system using continuous myoelectric signal in robot-aided arm training for patients after stroke. Ieee Trans. Neural Syst. Rehabilitation Eng. 16 (4), 371–379. 

3. Hu, X. L., Tong, K. Y., Li, R., Chen, M., Xue, J. J., Ho, S. K., et al. (2011). Post-stroke wrist rehabilitation assisted with an intention-driven functional electrical stimulation (FES)-robot system. IEEE Int. Conf. Rehabil. Robot. 2011, 5975424. 

4. Nam, C., Rong, W., Li, W., Xie, Y., Hu, X., and Zheng, Y. (2017). The effects of upper-limb training assisted with an electromyography-driven neuromuscular electrical stimulation robotic hand on chronic stroke. Front. Neurol. 8, 679.

5. Chae, J., Yang, G., Park, B. K., and Labatia, I. (2002). Muscle weakness and cocontraction in upper limb hemiparesis: Relationship to motor impairment and physical disability. Neurorehabil Neural Repair 16 (3), 241–248

6. Page, S., Griffin, C., and White, S. (2020). Efficacy of myoelectric bracing in moderately impaired stroke survivors: A randomized, controlled trial. J. rehabilitation Med. 52 (2), jrm00017. 

7. Page, S. J., Hill, V., and White, S. (2013). Portable upper extremity robotics is as efficacious as upper extremity rehabilitative therapy: A randomized controlled pilot trial. Clin. Rehabil. 27 (6), 494–503.

8. Hou, Y., Wang, X., Zhao, W., Hu, H., and Li, L. (2023)/ Effects of EMG-based robot for upper extremity rehabilitation on post-stroke patients: a systematic review and meta-analysis. Front Physiol 14, 1172958


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