脳卒中後に対象者が有する認知機能のパターンによる上肢麻痺に対するロボット支援リハビリテーションの効果について(1)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患, 支援工学
リハデミー編集部
2023.09.04
リハデミー編集部
2023.09.04

<抄録>

 脳卒中後に上肢麻痺を有する対象者に対するロボット支援リハビリテーションは国際的にもコンセンサスが得られており、効果のエビデンスも確立されている。しかしながら、脳卒中後に上肢運動障害を呈した対象者に対するリハビリテーション全般的に言えることだが、ランダム化比較試験等の介入試験を実施する際のプロトコルにおいて、認知機能障害がある対象者に対して、除外する基準を儲けている研究が非常に多い。したがって、認知機能障害を有する対象者において、ロボット支援リハビリテーションをはじめ、多くの上肢機能アプローチがどのような効果を示すのかどうか、不明確な部分が非常に多い。本コラムでは、認知機能障害を有する対象者に、ロボット支援リハビリテーションを実施した際に、どのような経過を辿るのかについて、3回に渡り、解説を行なっていこうと考えている。

1. ロボット支援リハビリテーションの背景

 WHOによれば、脳卒中は「血管性以外の明らかな原因がなく、局所的(または全体的に)脳機能障害の臨床症状が急速に発現し、症状が24時間以上持続するか死に至るもの」であると定義されています。この疾患は世界全体で死亡原因の第2位、障害原因の第3位、高齢者の障害原因の第1位として認識されている。

 1990年から2010年の20年間で、脳卒中の有病率は倍増している。虚血性脳卒中の有病率は2.7%から4.9%へ、出血性脳卒中では1.0%から1.9%へと増加しました。しかし、同時期の全死亡率は虚血性脳卒中で20%、出血性脳卒中で25%減少しているという報告がある[1]。

 脳卒中患者の増加に伴い、その障害が生活に及ぼす影響も増加している。1990年には脳卒中患者は1,390万人でしたが、2013年にはその数は2,570万人に増加した[2]。この増加は、生活全般の動作(ADL)や移動に制限を引き起すと報告されている[3]。

脳卒中の影響は様々な身体部位に及ぶが、中でも上肢は影響を受ける部位の一つと考えられている。実際、脳卒中患者の3分の2以上が入院時に腕の麻痺を示し、それが上肢の機能障害を引き起こすと報告されいている。脳卒中後6ヶ月間でも、罹患者の約半数が上肢機能の低下を経験するとも言われている[4]。上肢の回復は、その複雑さから見て、複雑でありながら基本的な要素であり、その目標はADLにおいて十分な自律性を回復させるために、器用さを最適化することがリハビリテーションにおける重要な目的とされている[5]。また、一部の研究では、ADLだけでなく、対象者のQuality of life(QOL)にも影響を与えると考えられており、大きな影響力を持つものだということがわかる。

 リハビリテーションに関する最新のガイドラインでは、ロボット支援リハビリテーション(RAT)が筋力や運動制御を改善し、四肢の機能回復を促進するための安全で忍容性のある代替手段として推奨されている[6]。RATは、治療の量と強度を高め、患者の反復練習の意欲を高め、治療時間を延長する手段とも考えられます[7]。ただし、一部のガイドラインをはじめ、多くの研究において、RATは対象者に提供された従来のリハビリテーションを代替えできる手法として示されるにとどまっている。先行研究等を見ると、個々の大規模なランダム化比較試験、システマティックレビューやメタアナリシスの結果を鑑みると、確実な効果を示せている研究は多くない印象がある。したがって、あくまでも機能改善を目的とした手法としては、従来のアプローチに対して確実な優位性を有さないとされ、運営上の利点のみがクローズアップされている。

まとめ

 脳卒中後、上肢麻痺が多くの対象者に生じ、ADLおよびQOLに悪影響を与えることがわかった。また、それらに対して、ロボットリハビリテーションが実施され、大きな期待を得ていることも示された。次回のコラム「脳卒中後に対象者が有する認知機能のパターンによる上肢麻痺に対するロボット支援リハビリテーションの効果について(2)」では、認知機能障害を有した対象者に対するRATの実施状況について解説を行なっていく。


参照文献

1. SPREAD. (2016). Ictus cerebrale: linee guida italiane di prevenzione e trattamento Raccomandazioni e Sintesi VIII edizione.

2. Feigin V.L., Krishnamurthi R.V., Parmar P., Norrving B., Mensah G.A., Bennett D.A., et al. (2015). Update on the Global Burden ofIschemic and Hemorrhagic Stroke in 1990-2013: The GBD 2013 Study. Neuroepidemiology [Internet]. [cited 2022 Mar 21];45(3), 161–76.

3. Kwakkel G., &Kollen B.J. (2013). Predicting activities afterstroke: what is clinically relevant? Int J Stroke [Internet]. [cited2022 Mar 17];8(1), 25–32

4. Mehrholz J., Pollock A., Pohl M., Kugler J., &Elsner B. (2020). Systematic review with network meta-analysis of randomizedcontrolled trials of robotic-assisted arm training for improving activities of daily living and upper limb function after stroke. J Neuroeng Rehabil [Internet]. [cited 2022 Mar 17];17(1)

5. Houwink A., Nijland R.H., Geurts A.C., &Kwakkel G. (2013). Functional recovery of the paretic upper limb after stroke: whoregains hand capacity? Arch Phys Med Rehabil [Internet]. [cited 2022 Mar 17]; 94(5), 839–44. 

6. Morone G., Palomba A., Martino Cinnera A., Agostini M., Aprile I., Arienti C., et al. (2021). Systematic review of guidelines toidentify recommendations for upper limb robotic rehabilitation afterstroke. Eur J Phys Rehabil Med [Internet]. [cited 2022 Mar17];57(2), 238–45.

7. Gueye T., Dedkova M., Rogalewicz V., Grunerova-Lippertova M., &Angerova Y. (2021). Early post-stroke rehabilitation for upper limbmotor function using virtual reality and exoskeleton: equallyefficient in older patients. Neurol Neurochir Pol [Internet][cited 2022 Mar 17];55(1), 91–6.

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