脳卒中後に対象者が有する認知機能のパターンによる上肢麻痺に対するロボット支援リハビリテーションの効果について(3)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.09.11
リハデミー編集部
2023.09.11

<抄録>

 脳卒中後に上肢麻痺を有する対象者に対するロボット支援リハビリテーションは国際的にもコンセンサスが得られており、効果のエビデンスも確立されている。しかしながら、脳卒中後に上肢運動障害を呈した対象者に対するリハビリテーション全般的に言えることだが、ランダム化比較試験等の介入試験を実施する際のプロトコルにおいて、認知機能障害がある対象者に対して、除外する基準を儲けている研究が非常に多い。したがって、認知機能障害を有する対象者において、ロボット支援リハビリテーションをはじめ、多くの上肢機能アプローチがどのような効果を示すのかどうか、不明確な部分が非常に多い。本コラムでは、認知機能障害を有する対象者に、ロボット支援リハビリテーションを実施した際に、どのような経過を辿るのかについて、3回に渡り、解説を行なっていこうと考えている。第3回は認知機能を有する対象者におけるロボット支援トレーニングに与える影響について、触れていく。

1. 認知機能障害が脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者のリハビリテーションに与える影響について

 近年、多くのリハビリテーション用ロボットが開発されており、それぞれのデザイン、機能、操作方法が異なる。これらの中には、特定の動きを行うようにプログラムされたものや、使用者の運動能力を補完するものなどがある。一部のロボットは、物理的な動きだけでなく認知機能を訓練するための機能も備えており、直接的に認知機能に影響を与える機器も存在する。

 ロボット支援リハビリテーション(RAT)の使用は、リハビリテーションの一環として、認知能力の改善と運動機能の回復を同時に進めるための効果的な手段とされている。ロボットは、繰り返しの運動を行うことで、患者の筋力を強化するだけでなく、認知能力を向上させることも可能といった報告も一部には見られている[1,2]。

 しかし、RTの効果を最大限に引き出すためには、治療の実施方法や患者の適応度についても考慮しなければなりません。治療が成功するためには、患者自身が積極的に参加し、ロボットとの相互作用を通じて自身の回復を促す必要がある。また、治療の効果を評価するためには、患者の運動機能だけでなく、認知能力の改善も評価することが重要となる。ここには、注意力、記憶力、認識能力、計画能力など、脳卒中患者が日常生活を送る上で必要なさまざまな認知機能が含まれる。

 リハビリテーションにおけるロボットの使用は、認知機能の回復と運動機能の改善を同時に促進するという重要な役割を果たしている。しかし、ロボット支援治療の効果を最大限に引き出すためには、個々の患者の特性やニーズに対応した個別化された治療が必要である。近年、リハビリテーションロボットのデザインや操作方法には多大な進歩が見られていおり、より効果的なリハビリテーションが可能になり、患者の生活の質の向上に寄与しています。しかし、ロボット技術の進歩と並行して、その使用方法や治療プログラムの最適化についてもさらなる研究が必要だと考えられている。

 さて、では実際にRATに認知機能がどの程度影響を与えるかについて、Bressiら[4]の研究に目を通していく。彼らは認知機能がRATの効果にどういった影響を与えるかについて、システマティックレビューを実施した。その結果、81の研究が本研究における研究対象者とされ、その中で、17の研究が認知機能に関するクライテリアを設けていた。さらに、7つの研究では実際にアウトカムとして認知機能評価を実施していた。対象となったすべての研究は、ロボット群とは異なるアプローチを実施した対照群を設定していた。さらに、それらの対照群に所属する対象者は、RATを実施した群と同等であったと報告されている。多くの研究で最も使用されていたクライテリア設定のアウトカムはMMSEであり、主に24点以上を対象として設定していた。ただし、Dehemらの研究のみカットオフを15点と設定した上で、「指示を理解することができる」といった文言を追記していた。しかしながら、それでも高い認知機能を有する対象者を対象としたエビデンスに違いはなく、これらの点を考慮した上で、RATに関するエビデンスを臨床において使用する必要がある。

まとめ

 そして、何よりも重要なのは、ロボット支援治療が一部の患者に限定されず、全ての脳卒中患者がアクセスできるようにすることが重要である。このためには、より広範で公平なアクセスを提供するための政策や制度の整備が求められます。経済的な問題や地理的な制約によってロボット支援治療を受けられない患者がいる現状は、私たちがこれから取り組むべき課題の一つだと思われた。


参照文献

1. Kwakkel G., et al. (2013). Predicting activities afterstroke: what is clinically relevant? Int J Stroke; 8(1), 25–32. 

2. Mehrholz J., et al. (2020). Systematic review with network meta-analysis of randomizedcontrolled trials of robotic-assisted arm training for improving activities of daily living and upper limb function after stroke. J Neuroeng Rehabil;17(1)

3. Gueye T., et al. (2021). Early post-stroke rehabilitation for upper limbmotor function using virtual reality and exoskeleton: equallyefficient in older patients. Neurol Neurochir Pol; 55(1), 91–6.

4. Bressi F., et al. (2022). Effects of robotic upper limb treatment after stroke on cognitive patterns: A systematic review. NeuroRehabil; 51(4): 541-558

5. Dehem S., et al. (2019). Effectiveness of upper-limbrobotic-assisted therapy in the early rehabilitation phase afterstroke: A single-blind, randomised, controlled tria. Annals of Physical and Rehabilitation Medicine 62(5), 313–20.

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