脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するリハビリテーションにおけるBrain Machine Interfaceの運用方法(1)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.09.15
リハデミー編集部
2023.09.15

<抄録>

 脳卒中後の上肢運動障害に対して、近年様々なアプローチが開発されている。リハビリテーション分野の中でも、ランダム化比較試験を用いたアプローチの効果を調べる研究が多数されており、エビデンスを基盤としたアプローチを実施できる環境が整っている。その中でも、近年、運動イメージを用いたアプローチが注目を浴びている。具体的に、メンタルプラクティスやミラーセラピーなどがそれにあたる。ただし、これらのアプローチは実際に、臨床で用いた際に、正確にアプローチが実施できているのかどうか、評価をするのが非常に困難といった欠点がある。加えて、効果のエビデンスを調べるためのランダム化比較試験において、『運動イメージに没入しにくい対象者を研究の対象外にしている』試験も少なからず存在するなど、いくつかの理由によって、臨床上実施することが困難なアプローチであるとも考えられている。そう言った背景の中、運動イメージ時に生じる脳波の運動感覚領野の活動に関連して発動するミュー律動の関連事変脱動期を捉えることが可能なBrain Machine Interface(BMI)が注目を浴びている。本コラムにおいては、2回にわたり、臨床において、どうのようにBMIを運用するかといった視点から解説を行う。

1. 脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するリハビリテーションにおけるBrain Machine Interfaceの運用方法(1)

 脳卒中患者の上肢運動リハビリテーションは、従来、従来の治療法(理学療法や作業療法など)に頼ってきた。そう言った分野の中で近年、運動イメージ(MI)に基づくメンタルプラクティス等が理想されることが多くなった。MIは、運動出力や明らかな動作を伴わない、想像力を用いた構造化された意図的な動作の反復を含み(1-3)、動作/行為といくつかの認知的側面を共有したアプローチの一つである(2)。MIに関する多くのシステマティックレビューが、上肢の回復におけるその有効性を実証している (4-9)。それにもかかわらず、MIを運動リハビリテーションに応用する際の主な懸念事項の1つは、精神活動が適切に行われているかどうかを確認することである。実際、MIを用いた運動リハビリテーションを提供する際に、対象者は『何をやっているかわからない』『非常にストレスである』といった不満を述べたり、不注意等でMIを用いた練習ができないことや、対象者によっては入眠してしまうことも臨床においてはよくある。

 さらに、上記に示した多くのシステマティックレビューに含まれているランダム化比較試験の対象者のクライテリアを注意深く観察していると『MIに没入しにくい対象者』を試験から除外している研究も比較的多く認められる。つまり、上記のMIを用いたリハビリテーションのエビデンスは、MIを用いて、その練習に没入できる、つまり『動いていない手を動いているように錯覚できる対象者の方にある程度限定された効果のエビデンスということになる。これは『エビデンス』が抱える大きな盲点の一つである。実際、ランダム化比較試験は、内的、外的妥当性を高めるために、非常に厳しいプロトコルを設定する。対象者の特徴をある程度揃えるために選別するための取り込み基準、除外基準もその一つである。

 上記のMIに関する研究では、ここをしっかり確認して、エビデンスを利用していなければ、MIを用いたアプローチに没入できない対象者に、漫然と効果のないアプローチを実施する可能性すらある。こう言った点に気をつけた上でMIを用いたアプローチを適応する視点を忘れてはいけない。

まとめ

 今回は、脳卒中後上肢麻痺に対するアプローチについて、背景にあるエビデンスと、そのエビデンスの限界について、述べた。第2回では、それらのMIを評価しつつ、臨床に落とし込む、Brain Machine Interfaceに関する解説を実施していく。


参照文献

1. Arya, K. N., Pandian, S., Verma, R., & Garg, R. K. (2011). Movement therapy induced neural reorganization and motor recovery in stroke: A review. Journal of Bodywork and Movement Therapies, 15(4), 528-537.

2. Jeannerod, M. (1995). Mental imagery in the motor context. Neuropsychologia, 33(11), 1419-1432.

3. Saimpont, A., Pozzo, T., & Papaxanthis, C. (2009). Motor control and aging: Links to strategies for motor imagery. Brain Research Bulletin, 78(1), 1-8.

4. Barclay-Goddard, R. E., Stevenson, T. J., Poluha, W., & Thalman, L. (2011). Mental practice for treating upper extremity deficits in individuals with hemiparesis after stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews, (5), CD005950.

5. Braun, S. M., Beurskens, A. J., Borm, P. J., Schack, T., & Wade, D. T. (2006). The effects of mental practice in stroke rehabilitation: A systematic review. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 87(6), 842-852.

6. Garcia Carrasco, D., & Aboitiz Cantalapiedra, J. (2013). Rehabilitation of upper extremity in stroke patients using video games as a therapeutic resource. Revista de Neurologia, 57(Suppl 1), S133-S139.

7. Kho, A., Liu, K. P., & Chung, R. C. (2014). Meta-analysis on the effect of mental imagery on motor recovery of the hemiplegic upper extremity function. Australian Occupational Therapy Journal, 61(2), 38-48.

8. Nilsen, D. M., Gillen, G., & Gordon, A. M. (2010). Use of mental practice to improve upper-limb recovery after stroke: A systematic review. American Journal of Occupational Therapy, 64(4), 695-708.

9. Zimmermann-Schlatter, A., Schuster, C., Puhan, M. A., Siekierka, E., & Steurer, J. (2008). Efficacy of motor imagery in post-stroke rehabilitation: A systematic review. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation, 5, 8.


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