脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するリハビリテーションにおけるBrain Machine Interfaceの運用方法(2)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.09.18
リハデミー編集部
2023.09.18

<抄録>

 脳卒中後の上肢運動障害に対して、近年様々なアプローチが開発されている。リハビリテーション分野の中でも、ランダム化比較試験を用いたアプローチの効果を調べる研究が多数されており、エビデンスを基盤としたアプローチを実施できる環境が整っている。その中でも、近年、運動イメージを用いたアプローチが注目を浴びている。具体的に、メンタルプラクティスやミラーセラピーなどがそれにあたる。ただし、これらのアプローチは実際に、臨床で用いた際に、正確にアプローチが実施できているのかどうか、評価をするのが非常に困難といった欠点がある。加えて、効果のエビデンスを調べるためのランダム化比較試験において、『運動イメージに没入しにくい対象者を研究の対象外にしている』試験も少なからず存在するなど、いくつかの理由によって、臨床上実施することが困難なアプローチであるとも考えられている。そう言った背景の中、運動イメージ時に生じる脳波の運動感覚領野の活動に関連して発動するミュー律動の関連事変脱動期を捉えることが可能なBrain Machine Interface(BMI)が注目を浴びている。本コラムにおいては、2回にわたり、臨床において、どうのようにBMIを運用するかといった視点から解説を行う。

1. 脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するリハビリテーションにおけるBrain Machine Interfaceの運用方法(2)

 実際、リハビリテーション領域全般において、意識レベルの向上といった課題の「精神的」性質は、患者の心にアクセスできないセラピストにとっても、パフォーマンスに関するフィードバックを受けられない患者にとっても、『実際に練習がうまく機能いているのかどうか?』と言った疑問に対する検証を困難にしている(1)。このような困難に対処するため、MIとBrain Machine Interface (BMI)を組み合わせる試みがいくつかなされている。後者には、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、脳磁図法、脳波法(EEG)(2, 3)などがあり、患者の脳活動を分析し、それを視覚、聴覚、および/または触覚情報に変換し、ニューロフィードバックとして知られるプロセスで患者に送り返すことができる(4)。つまり、バイオフィードバック的な観点でリハビリテーションプログラムの中で用いることができる可能性が示されている。

 したがって、MIが活動依存的な脳の可塑性を誘導することで運動機能の再確立に寄与するのであれば、BMIの使用は、運動学習に影響を与えることで神経可塑性をさらに高めることができる。すなわち、運動課題への注意の緊密化を促したり、運動行動を強化したり、特定の脳信号の活性化や非活性化を要求したりすることができる(5-8)。

いくつかの研究(2, 5, 6, 7,8)によると、BMIシステムは、リアルタイムのニューロフィードバックを提供する能力を持ち、その結果、BCIの精度だけでなく、上肢機能においてもユーザーのパフォーマンスを向上させる報酬が得られることから、脳卒中後の機能回復を促進する可能性があるようだ。Monge-Pereiraら(9)は最近、EEG介入に基づくBCIが脳卒中患者における有望なリハビリテーションアプローチであると言及したレビューを発表した。

 今までの臨床において、MIを用いたリハビリテーションがうまく機能指定おらず、研究で示されたエビデンスと臨床における実践が乖離していた部分が存在した。しかしながら、上記で示したように、新たなテクノロジーであるBMIを用いたバイオフィードバックが、臨床における曖昧な部分に対して、根拠をもたらしてくれる可能性がある。

まとめ

 本コラムにおいては、臨床において長らく実施されてきたMIを用いたアプローチの精度について、BMIを用いたバイオフィードバックが向上させる可能性について、解説を行った。今後の臨床において、これらの工学機器はより臨床に広がることが考えられる。臨床の療法士はこう言った機器の情報収集を欠かさず、時代の変化についていく必要性があると思われた。


参照文献

1. Kaiser, V., Kreilinger, A., Muller-Putz, G. R., & Neuper, C. (2011). First steps toward a motor imagery based stroke BCI: New strategy to set up a classifier. Frontiers in Neurology, 2, 59.

2. Ang, K. K., & Guan, C. (2013). EEG-based strategies to detect motor imagery for control and rehabilitation. IEEE Transactions on Neural Systems and Rehabilitation Engineering, 22(2), 222-229.

3. Nicolas-Alonso, L. F., & Gomez-Gil, J. (2012). Brain computer interfaces, a review. Sensors, 12(2), 1211-1279.

4. Silvoni, S., Ramos-Murguialday, A., Cavinato, M., & Volpato, C. (n.d.). Combining brain-computer interfaces and neurofeedback to enhance motor rehabilitation in stroke patients. In A. R. Valdes-Sosa, & A. D. Barbey (Eds.), Progress in Brain Research (Vol. 207, pp. 317-354). Elsevier.

5. Daly, J. J., & Wolpaw, J. R. (2008). Brain-computer interfaces in neurological rehabilitation. The Lancet Neurology, 7(11), 1032-1043.

6. Dobkin, B. H. (2007). Brain-computer interface technology as a tool to augment plasticity and outcomes for neurological rehabilitation. Journal of Physiology, 579(Pt 3), 637-642.

7. Pichiorri, F., Morone, G., Petti, M., Toppi, J., Pisotta, I., Molinari, M., ... & Paolucci, S. (2015). Brain-computer interface boosts motor imagery practice during stroke recovery. Annals of Neurology, 77(5), 851-865.

8. Remsik, A. B., Young, B. M., Vermilyea, R., Kiekhoefer, L., Abrams, J., Evander Elmore, S., ... & Tyler-Kabara, E. C. (2016). A review of the progression and future implications of brain-computer interface therapies for restoration of distal upper extremity motor function after stroke. Expert Review of Medical Devices, 13(5), 445-454.

9. Soekadar, S. R., Birbaumer, N., Slutzky, M. W., & Cohen, L. G. (2015). Brain-machine interfaces in neurorehabilitation of stroke. Neurobiology of Disease, 83, 172-179.

10. Wang, Y., Wang, R., Zhang, Y., Zhang, L., Zhang, R., Zhang, X., ... & Xu, R. (2010). Using a combination of EEG- and EMG-based decoders to improve the performance of a BCI system for hand motion recognition. IEEE Transactions on Biomedical Engineering, 57(10), 2495-2505.

11. Monge-Pereira, E., Ibañez-Pereda, J., Alguacil-Diego, I. M., Serrano, J. I., Spottorno-Rubio, M. P., & Molina-Rueda, F. (2017). Combined motor imagery and BCI-based neurofeedback in rehabilitation of chronic stroke patients: A systematic review. Journal of Neural Engineering, 14(2), 021001.

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