急性期虚血性脳卒中に対する血栓回収をはじめとした医学的アプローチの実際(2)
<抄録>
急性虚血性脳卒中において、血栓回収や静脈内血栓溶解療法の医学的アプローチが予後に良い影響を与えることが複数の研究で示されている。血管内治療による血栓回収は特に効果があり、機械的血栓除去術による治療は症状改善の可能性を示唆している。また、静脈内血栓溶解療法との併用も検討されており、それらの組み合わせによる効果も期待されている。機能的血栓除去術については世界的に注目されており、静脈内血栓溶解療法との併用も奨励されている。しかし、機械的血栓除去術の単独での効果に関しては、静脈内血栓溶解療法との併用と比較して非劣性が示されてはいないものの、細かな手続きについてはさらなる検討が必要とされている。これらの研究結果は、急性虚血性脳卒中の治療において、新たな医学的アプローチが有望であることを示し、患者の予後改善に向けた研究が進展していることがわかる。
1. 急性虚血性脳卒中に対する血栓回収をはじめとした医学的アプローチが予後に与える影響について
脳における大血管閉塞を呈する急性虚血性脳卒中患者において、機械的血栓除去術と遺伝子組み換え型組織プラスミノーゲン活性化因子(rt-PA)を用いた静脈内血栓溶解療法を併用、もしくはそれぞれの単体での利用が予後を改善することが複数のランダム化比較試験において、証明されている[1-7]。Berkhemerら[2]のランダム化比較試験では、頭蓋内の基幹大動脈閉塞による急性虚血性脳卒中患者において、動脈内の血栓回収術の効果を検討している。この研究では、対象を血管画像検査で確認された前大脳循環の近位動脈閉塞で、症状発現後6時間以内に動脈内治療が可能な患者を対象としている。主要アウトカムを、日常生活における介助量を測定するmodified rankin scaleのスコア(0点が症状なし、6点が死亡を示すアウトカムである)としている。治療効果に関しては、事前に規定した予後予測因子で調整した共通オッズ比として順序ロジスティック回帰を用いて、推定を行った。なお、この事前調整の結果、動脈治療群が通常治療のみの群と比較しても、modified rankin scaleのスコアを低下させる可能性が示唆された(回復しやすい群であったことが示唆された)。その上で、結果としては登録された対象者500名のうち、ステント回収群に割り付けられた対象者が190例であった。結果としては、血管内治療は、予後予測因子に関わる因子を調整した調整後の共通オッズ比は1.67を示し、対照群に比べ有意な効果があることが示唆された。他の試験も同様に、血管内治療の効果について、述べられている。
2. 急性虚血性脳卒中に対する血栓回収と静脈内血栓溶解療法の併用療法の効果について
上記にもあるように、血栓回収術は、急性虚血性脳卒中に対する新たな治療法として、注目されている。これらに加えて、最近では、機能的血栓除去術を実施する前に、静脈内血栓溶解療法(アルテプラーゼ0.9mg/kg)の投与について、ガイドライン等においても奨励されている(ちなみに先のBerkhemerらの研究においても血栓回収術を実施する前に対象者の89%はアルテプラーぜを用い静脈内血栓溶解療法を受けていた)。[8-10]
Suzukiらは、急性虚血性脳卒中を呈した対象者に対して、機械的血栓除去術単独が、静脈内血栓溶解療法と機械的血栓除去術を併用した群に対して、どのような結果を示すのかについて、検証を行なっている。その結果、急性大血管閉塞脳卒中患者において、機械的血栓除去術単独は、静脈内血栓溶解療法+機械的血栓除去術併用と比較して、良好な機能的転帰に関する非劣性を示すことはできなかったと報告した。これらの結果から、機能的血栓除去術に関する効果は世界中の試験において、ほぼ間違いないものとされているものの、細かな医学的な手続きについては、まだまだ検討の余地があることが窺える。
まとめ
急性虚血性脳卒中において、血栓回収や静脈内血栓溶解療法が予後改善に有効とされる。血管内治療による血栓回収は特に効果があり、静脈内血栓溶解療法との併用も奨励される。機械的血栓除去術の単独は非劣性は示されたなったが、手続きの詳細には検討の必要がある。新たな医学的アプローチにより、治療の進展と患者の予後改善が期待される。
参照文献
1. Jovin TG, Chamorro A, Cobo E, et al.; REVASCAT Trial Investigators . Thrombectomy within 8 hours after symptom onset in ischemic stroke. N Engl J Med. 2015;372(24):2296-2306.
2. Berkhemer OA, Fransen PS, Beumer D, et al.; MR CLEAN Investigators . A randomized trial of intraarterial treatment for acute ischemic stroke. N Engl J Med. 2015;372(1):11-20.
3. Campbell BC, Mitchell PJ, Kleinig TJ, et al.; EXTEND-IA Investigators . Endovascular therapy for ischemic stroke with perfusion-imaging selection. N Engl J Med. 2015;372(11):1009-1018.
4. Goyal M, Demchuk AM, Menon BK, et al.; ESCAPE Trial Investigators . Randomized assessment of rapid endovascular treatment of ischemic stroke. N Engl J Med. 2015;372(11):1019-1030
5. Saver JL, Goyal M, Bonafe A, et al.; SWIFT PRIME Investigators . Stent-retriever thrombectomy after intravenous t-PA vs t-PA alone in stroke. N Engl J Med. 2015;372(24):2285-2295.
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7. Muir KW, Ford GA, Messow CM, et al.; PISTE Investigators . Endovascular therapy for acute ischaemic stroke: the Pragmatic Ischaemic Stroke Thrombectomy Evaluation (PISTE) randomised, controlled trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2017;88(1):38-44.
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10. Toyoda K, Koga M, Iguchi Y, et al.. Guidelines for intravenous thrombolysis (recombinant tissue–type plasminogen activator), the third edition, March 2019: a guideline from the Japan Stroke Society. Neurol Med Chir (Tokyo). 2019;59(12):449-491.
11. Suzuki K, Matsumaru Y, Taleuchi M, et al. Effect of Mechanical thrombectomy without vs with intravenous thrombolysis on functional outcome among patients with acute ischemic stroke. JAMA. 2021; 325(3): 244-253