急性期虚血性脳卒中に対する血栓回収をはじめとした医学的アプローチの実際(1)

竹林先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.10.13
リハデミー編集部
2023.10.13

<抄録>

 急性期虚血性脳卒中の治療において、従来の血栓溶解療法に加えて血栓回収術が進化し、新たな治療選択肢が増えてきた。血栓回収術は血管内治療であり、急性虚血性脳卒中患者の回復に大きく寄与する可能性がある。しかし、一部の患者では完全な再疎通が難しく、血栓の種別や組織学的組成が治療効果に影響を与えることがわかっている。フィブリンや血小板が血栓の構造を形成する重要な成分であり、これらの理解が治療技術の進化に重要である。Jolugboらの研究では、血栓回収術の効果についても調査されており、今後の治療技術に大きな影響を及ぼす可能性が示されている。血栓の種別や組織学的組成を理解することは、疾患の重症度や治療の成果に対して重要であり、今後の治療の向上に向けての重要な研究課題となる。

1. 急性期虚血性脳卒中に対する医学的アプローチの実際

 脳卒中は、世界的な死亡原因の第2位であり、身体障害の原因疾患としては、第3位であると言われている。[1]虚血性脳卒中は、脳卒中の2大亜型の中の一つであり、脳血管内に生じた血栓などが原因で、脳血流が阻害され、脳虚血が発生する。以前は、血栓溶解を中心とした保存的加療が中心であったものの、近年においては、ステントリトリーバーや吸引カテーテル等の血栓除去装置を用いた、脳梗塞血栓回収技術が進歩し、脳梗塞血栓の形態学的・組織学的構成を詳細に解析できるようになった。[2]

 機械的血栓除去装置が導入される前は、tPA(組織型プラスミノーゲン活性化因子)を静脈内投与する血栓溶解両方が急性虚血性脳卒中に対する唯一の再疎通療法として、世界的にも承認されていたが、発症してから実施までの時間を含め、治療の対象となる対象者が少ないことや幾つかの使用上の禁忌があったため、急性虚血性脳卒中を呈した患者の一部に歯科施行されいなかった。[3]

 しかしながら、血栓回収の技術が大幅に進歩し、再疎通を達成するための血管内治療が大幅に進歩したことで、より多くの急性虚血性脳卒中患者に対する治療に関する選択肢がふえ、回復が大きく改善する可能性が出てきたと考えられている。[4] ただし、一方で、血栓回収術自体にも問題提起はされており、対象者全体における再疎通率は大幅に改善したものの、急性虚血性脳卒中患者の一部は依然として、完全な再疎通が実施できていないといった技術的な問題を示す研究者もいる。[5]

 フィブリンに富む血栓は、赤血球に富む血栓と比較して、血栓除去手術中の再疎通のための操作の回数が増加し、血栓溶解に対する抵抗性が増加することがある複数の研究において示されており、それらが技術的な問題の原因であるとも考えられている。[6], [7]

2. 急性期虚血性脳卒中における回収された血栓の構造について

 Jolugboらは、急性虚血性脳卒中患者に対する血栓回収術の効果について、スコーピングレビューを実施している。この研究においては、4つのデータベースを用い、109の論文を組み入れている。

 このレビューには、回収された血栓の構造に関する記載も示されている。典型的な血栓の構造成分は、フィブリン、血小板、赤血球、白血球、VWF(von Willebrand Factor)、細胞がDNAから構成されていると考えられている。さて、この研究の中で実施されている回収された血栓の分析では、血栓の種別は主に二種類のタイプに分けられると言われている。二種類のタイプとは、1)摂化給が豊富でフィブリンが乏しい種別、2)血小板が豊富で、フィブリンが豊富な種別、である。これは先行研究[6], [7]でも言われていた事実であり、この研究においても同様の結果が示されたということになる。しかしながら、血栓回収療法の進歩においては、血栓の種類において回収時の操作が変わることを考えると、血栓の種別や組織学的組成が、疾患の重症度、転帰、または治療及ぼす影響があるため、これらの理解を進めることが非常に重要となる。

まとめ

 血栓溶解術から回収術への医学的治療の変化において『血栓成分の重要性』が今後の治療技術の飛躍に強く影響を与える可能性について、本コラムにおいて、解説を行った。次回は、血栓回収術の効果について、その現状について解説を行う。


参照文献

1. GBD 2016 Stroke Collaborators. Global, regional, and national burden of stroke, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016.Lancet Neurol. 2019; 18:439–458. doi: 10.1016/s1474-4422(19)30034-1

2. De Meyer SF, Andersson T, Baxter B, Bendszus M, Brouwer P, Brinjikji W, Campbell BC, Costalat V, Dávalos A, Demchuk A, et al; Clot Summit Group. Analyses of thrombi in acute ischemic stroke: a consensus statement on current knowledge and future directions.Int J Stroke. 2017; 12:606–614. doi: 10.1177/1747493017709671

3. Albers GW, Olivot JM. Intravenous alteplase for ischaemic stroke.Lancet. 2007; 369:249–250. doi: 10.1016/S0140-6736(07)60120-2

4. Abou-Chebl A. Intra-arterial therapy for acute ischemic stroke.Interv Neurol. 2013; 1:100–108.

5. Gunning GM, McArdle K, Mirza M, Duffy S, Gilvarry M, Brouwer PA. Clot friction variation with fibrin content; implications for resistance to thrombectomy.J Neurointerv Surg. 2018; 10:34–38. 

6. Yuki I, Kan I, Vinters HV, Kim RH, Golshan A, Vinuela FA, Sayre JW, Murayama Y, Vinuela F. The impact of thromboemboli histology on the performance of a mechanical thrombectomy device.AJNR Am J Neuroradiol. 2012; 33:643–648. 

7. Niesten JM, van der Schaaf IC, van Dam L, Vink A, Vos JA, Schonewille WJ, de Bruin PC, Mali WP, Velthuis BK. Histopathologic composition of cerebral thrombi of acute stroke patients is correlated with stroke subtype and thrombus attenuation.PLoS One. 2014; 9:e88882.

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