脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するネットワークメタアナリシスが示すエビデンスの現在(1)
<抄録>
脳卒中は世界的な一般的な疾患であり、身体障害の第3位の原因とされている。脳卒中患者の半数以上が持続的な上肢運動機能障害を有し、日常生活活動やQuality of lifeに影響を及ぼすとされている。リハビリテーションの目標として、上肢運動機能回復の重要性が強調されている。最近のネットワークメタアナリシスでは、電気刺激と課題特異的トレーニングの併用、高容量Constraint-induced movement therapy、および筋力トレーニングが最も有効な介入として示されました。しかし、病期や重症度を考慮した研究が必要で、臨床でのリハビリテーションプログラム選択に寄与すると期待されている。
1. 脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチの実際
脳卒中は、世界的にも一般的な疾患であり、身体障害の世界第3位の原因と言われている。脳卒中患者の半数以上は、脳卒中発症後に持続的な運動機能障害を有することが多く、それらが対象者の日常生活活動やQuality of lifeの低下につながっているとも言われている[1, 2]。特に、日常生活活動の自立に非常に深く関連する上肢の運動機能の回復は、よりQuality of lifeの改善に深く影響すると考えられている[3,4]。したがって、日常生活活動において、どの場面(What)でどのように手を使うか(How)は非常に重要な問題であり、リハビリテーションにおける重要な目標の一つであると言える。また、最近では、運動療法に基づく介入の方が、非運動療法に基づく介入よりも、社会参加に関わるアウトカムに与える影響が大きいとの報告もなされており、脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチ方法によって影響があるアウトカムも異なることが明らかになっている[5]。
しかしながら、脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムの効果の検討において、ゴールドスタンダードの評価がFugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目が最も使われていることもあり、脳卒中関連のガイドラインや、システマティックレビュー、メタアナリシスにおいてもこのアウトカムの結果を中心に述べられていることが多い。
さて、近年においては、ネットワークメタアナリシスといった新手法が登場している。ネットワークメタアナリシスは、薬剤の有効性や安全性などのアウトカムについて、複数の試験結果を基に、直接的な薬剤間比較(直接比較)に加え、間接的な薬剤間比較(間接比較)を可能とする方法論と言われている。 近年、適応事例が報告されており、その結果を治療ガイドラインの策定や医療政策決定のための情報として活用することが考えられている。つまり、従来のメタアナリシスでは、『対照群の結果』を媒体に各療法の効果について、相対的に分析がされていたことに対して、ネットワークメタアナリシスは、療法間の効果比較を直接的に実施することができるとされている。
では、脳卒中後の上肢運動障害に関するリハビリテーションプログラムに対して、FMAの上肢項目を主要アウトカムに実施されたネットワークメタアナリシスの結果を紹介する。Tenbergら[6]は、脳卒中後の上肢運動障害には多くの効果的なリハビリテーションプログラムがある上で、臨床において、どのリハビリテーションプログラムが最も効果的であるかを調査するためにネットワークメタアナリシスを実施している。ネットワークメタ解析によるシステマティックレビューのため、データベース開設から2021年9月までにPubMed/MEDLINE、Cochrane Library CENTRAL、Web of Scienceを検索し、脳卒中発症から6ヵ月以内の患者、積極的な上肢運動介入、あらゆる種類の対照介入を検討した無作為化対照試験を検索した。このレビューには、6432人の参加者と45の異なる治療カテゴリーに関する145のランダム化比較試験が含まれた。ネットワークメタ解析では、5553人の参加者と41の異なる治療カテゴリーに関する119のランダム化比較試験を分析した。その結果、電気刺激と課題特異的トレーニングの併用(標準化平均差、1.03[95%CI、0.51-1.55];P<0.0001、Pスコア=0.11)、高容量Constraint-induced movement therapy(0.86[0.4-1.32];P=0.0003、Pスコア=0.18)、および筋力トレーニング(0.65[0.17-1.13];P=0.01、Pスコア=0.28)が最も有効な介入であった(各k=107)ことが明らかになった。
この結果から、過去のランダム化比較試験を用いたネットワークメタアナリシスでは、上記の3つのリハビリテーションプログラムが挙げられた。しかしながら、病期や重症度等に関する分析は度外視されており、それらの点が明らかになることで、今後より明確な臨床におけるリハビリテーションプログラムの選択に関する意思決定を促すことができると思われる。
参照文献
1. Persson HC, Parziali M, Danielsson A, Sunnerhagen KS. Outcome and upper extremity function within 72 hours after first occasion of stroke in an unselected population at a stroke unit. A part of the SALGOT study.BMC Neurol. 2012; 12:162.
2. Nichols-Larsen DSC, Clark A, Zeringue M, Greenspan A, Blanton S. Factors influencing stroke survivors’ quality of life during subacute recovery.Stroke. 2005; 36:1480.
4. Pollock A, Farmer SE, Brady MC, Langhorne P, Mead GE, Mehrholz J, van Wijck F. Interventions for improving upper limb function after stroke.Cochrane Database Syst Rev. 2014; 2014:CD010820.
5. Zhang Q, Schwade M, Smith Y, Wood R, Young L. Exercise-based interventions for post-stroke social participation: a systematic review and network meta-analysis.Int J Nurs Stud. 2020; 111:103738.
6. Tenberg S, Mueller S, Vogt L, Roth C, Happ K, Scherer M, Behringer M, Niederer D. Comparative effectiveness of upper limb exercise interventions in individuals with stroke: A network meta-analysis. Stroke. 2023; 54: 1839-1853