Virtual Realityを用いた脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションについて〜その背景とエビデンスについて〜(1)

竹林先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.10.30
リハデミー編集部
2023.10.30

<抄録>

 脳卒中後の上肢運動障害は、患者の生活の質に影響し、回復と自立が求められる。近年、Virtual Reality(VR)を用いたリハビリテーションが費用効果的で効果的との報告があるが、詳細な効果の理解が必要。過去の研究では、上肢や手指の機能の改善や日常生活の自立度の評価基準にばらつきが見られ、一部の研究者から疑問が投げかけられている。また、VRを使ったリハビリの一部の効果は確認されているが、全体の効果や影響因子については十分に調査されていない。本研究では、脳卒中後の上肢運動リハビリテーションにおけるVRの有効性を総合的に分析し、その効果を明らかにすることを目指す。この結果は、VRを使った治療法の理解を深め、効果的な治療の開発や実践に寄与することが期待される。

1. 脳卒中後の上肢運動障害に対するVirtual Realityを用いたリハビリテーションの背景

 脳卒中後の上肢運動障害は患者のQOLに影響を与え、回復と自立が重要な健康目標である[1-5]。Virtual Reality(VR)技術を活用した上肢の運動リハビリテーションは、専門家や施設のリソースが必要な対面式アプローチよりも費用効果が高く便利であると近年報告されている[6]。これまでの研究では、VRを用いた上肢運動療法の応用が報告されているが、脳卒中後の機能改善や健康増進における効果について、詳細に理解する必要があると考えられている。

 過去のレビューにおいては、治療アウトカムをICFにおける身体機能、活動制限、生活場面への参加制限の3つのレベルに分類していた研究が多い。しかしながら、特に上肢や手指の麻痺の改善や、上肢の機能および手指の巧緻性と周囲からの介助量によって評価がなされる日常生活自立度と行ったアウトカムを同様のステージに乗せて調査を行っている研究も多く、この点についてはいくつかの研究者から疑問が呈されている[7-12](実際、活動制限、社会参加については、麻痺手に特化したアウトカム(例:麻痺手の使用頻度や主観的な使いやすさを確認するMotor Activity Logのようなアウトカム)を並用することが望ましいとも考えらえている)。

 過去の研究によれば、VRを活用した上肢運動リハビリテーションは、患者の上肢機能に対して有益な効果を示している[19-21]。特に、Fugl-Meyer Assessment-Upper Extremity(FMA-UE)や手指巧緻性(BBT)といった共通したアウトカムに対する研究が行われているが、他のアウトカムに対する注意が不足していることが指摘されている。

さらに、脳卒中の回復段階やVRプログラムの種類、介入期間などの要因が、VR支援運動療法の効果に影響を及ぼす可能性があるが、これらの調整因子に関しても詳細なサブグループ解析が必要である[15,16]。これにより、個々のアウトカムに対するモデレーティング効果を正確に決定し、より効果的な療法プロトコルの構築に貢献することができるだろう。

 本研究の目的は、これらの問題に対処し、脳卒中患者の上肢運動リハビリテーションにおけるVR支援運動療法の有効性を明らかにすることである。系統的レビューとメタ解析を通じて、従来の研究を総合的に分析し、上肢機能・構造の障害、活動制限、生活場面での参加制限に対する効果を評価する。さらに、脳卒中の回復段階やVRプログラムの種類、介入期間などの追加因子の影響を検証し、個々のアウトカムに対する適切な療法プロトコルの特定に努める。

 この研究の結果は、脳卒中患者の上肢運動リハビリテーションにおけるVR支援運動療法の有効性に関する理解を深め、より効果的な治療法の開発や臨床実践への応用に寄与することが期待される。そして、患者の生活の質を向上させるための適切なアプローチを提供することで、脳卒中後の上肢運動障害の治療において重要な進展をもたらすことが期待される。


参照文献

1. Johnson W, Onuma O, Owolabi M, Sachdev S. Stroke: a global response is needed. Bull World Health Organ. 2016 Sep 01;94(9):634–A.

2. Campbell BC, Khatri P. Stroke. Lancet. 2020 Jul 11;396(10244):129–42. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31179-X.S0140-6736(20)31179-X

3. Langhorne P, Bernhardt J, Kwakkel G. Stroke rehabilitation. Lancet. 2011 May 14;377(9778):1693–702. 

4. Langhorne P, Coupar F, Pollock A. Motor recovery after stroke: a systematic review. Lancet Neurol. 2009 Aug;8(8):741–54.

5. Mayo NE, Wood-Dauphinee S, Côté R, Durcan L, Carlton J. Activity, participation, and quality of life 6 months poststroke. Arch Phys Med Rehabil. 2002 Aug;83(8):1035–42. 

6. Levin MF, Demers M. Motor learning in neurological rehabilitation. Disabil Rehabil. 2021 Nov 20;43(24):3445–53.

7. Lohse KR, Hilderman CG, Cheung KL, Tatla S, Van der Loos HF. Virtual reality therapy for adults post-stroke: a systematic review and meta-analysis exploring virtual environments and commercial games in therapy. PLoS One. 2014 Mar 28;9(3):e93318.

8. Saposnik G, Levin M, Outcome Research Canada (SORCan) Working Group Virtual reality in stroke rehabilitation: a meta-analysis and implications for clinicians. Stroke. 2011 May;42(5):1380–6. 

9. Henderson A, Korner-Bitensky N, Levin M. Virtual reality in stroke rehabilitation: a systematic review of its effectiveness for upper limb motor recovery. Top Stroke Rehabil. 2007;14(2):52–61. 

10. Laver KE, Lange B, George S, Deutsch JE, Saposnik G, Crotty M. Virtual reality for stroke rehabilitation. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Nov 20;11(11):CD008349. 

11. Aminov A, Rogers JM, Middleton S, Caeyenberghs K, Wilson PH. What do randomized controlled trials say about virtual rehabilitation in stroke? A systematic literature review and meta-analysis of upper-limb and cognitive outcomes. J Neuroeng Rehabil. 2018 Mar 27;15:29. 

12. Palma GC, Freitas TB, Bonuzzi GM, Soares MA, Leite PH, Mazzini NA, Almeida MR, Pompeu JE, Torriani-Pasin C. Effects of virtual reality for stroke individuals based on the International Classification of Functioning and Health: a systematic review. Top Stroke Rehabil. 2017 May;24(4):269–78. 

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