痙縮について② −脳卒中発症後の痙縮の疫学について−

竹林先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.11.10
リハデミー編集部
2023.11.10

<本コラムの目的>

・痙縮に関する疫学*を理解しよう


*ワンポイント 疫学とは? 

 疫学とは、社会で起こっている疾患や健康異常がどれぐらいの人々に起こっているのか、そして、その原因は何であるのかを調査し、明らかにする学問です。多くの患者さんのデータを調査して、発症の状況や重症度などを調査していきます。

 疫学によって調べられた知見をもとに、研究者はその疾患や健康以上に対する治療方法を開発したり、それらの疾患の発症を予防するための方法を開発、提供することを目的としています。

 疫学は人類の発展とともに、幾つもの難病であった感染症の撲滅において、医学の発展の役に立っています。例としては、これらの感染様式の解明等が挙げられます。

1)痙縮の発生率や経過について

 痙縮は中枢疾患の脳卒中発症した後によくみられる症状の一つと言われています。脳卒中を発症した後に痙縮が出現する対象者は、全体の30%から80%ほどいると言われています。脳卒中患者における痙縮の発生率は、脳卒中を発症してから1ヶ月の時点で、全体の27%、3ヶ月で28%、6ヶ月で23%から43%、18ヶ月で34%と報告されています(引用文献1, 2)。脳卒中発症後に発生した痙縮により、関節運動が減少することによって、拘縮が自然に生まれるまでの期間等に関する大規模な研究はなされていませんが、痙縮が生じてから3週間から6週間で拘縮も発生すると言われています。したがって、関節可動域を確保するために、痙縮発症後から痙縮の軽減と関節可動域の確保を目的としたリハビリテーションプログラムを用意する必要があります。

 さて、痙縮の発生の仕方は、脳卒中患者によって異なり、非常に多様です。ある研究では、脳卒中発症後1ヶ月から3ヶ月の間に痙縮が出現すると言われています。さらに、神経障害に由来する痙縮は脳卒中発症後3ヶ月程度でピークに達すると言われていますが、末梢神経および筋肉の状況(麻痺手を全く動かさない等、二次的な原因に起因する末梢神経・筋肉の病変)は、時間の経過とともに増加し、脳卒中発症後6ヶ月に向けて、痙縮の発生率は増加すると言われています。

2)痙縮の発生部位について

 痙縮は、麻痺が発生した後、上肢の異常な屈曲共同運動パターン(表)および連合反応を示す筋肉(主に、指、手首、肘等の屈曲を支配する筋肉)と下肢の異常な伸展共同運動パターン(表)および連合反応を示す筋肉に多くみられるとされています。Wisselらは、痙縮を生じる対象者の79%が肘関節に、66%が手首、66%が足首に、58%が肩に生じると言われています。また、Lundstromら(引用文献3)の報告では、痙縮は下肢よりも上肢でより生じやすいと言われています。Urbanら(引用文献4)もLundstromらと同様の研究結果を報告しています。これらから、上肢の痙縮に対するリハビリテーションプログラムは、早期から提供する必要があることがわかります。


参照文献

1. J. Wissel, A. Manack, M. Brainin. Toward an epidemiology of poststroke spasticity Neurology, 80 (2013), pp. S13-S19

2. A. Opheim, A. Danielsson, M. Alt Murphy, et al. Upper-limb spasticity during the first year after stroke: stroke arm longitudinal study at the University of Gothenburg. Am J Phys Med Rehabil, 93 (2014), pp. 884-896

3. J. Wissel, L.D. Schelosky, J. Scott, et al. Early development of spasticity following stroke: a prospective, observational trial. J Neurol, 257 (2010), pp. 1067-1072

4. E. Lundstrom, A. Smits, A. Terent, et al.Time-course and determinants of spasticity during the first six months following first-ever stroke. J Rehabil Med, 42 (2010), pp. 296-301

5. P.P. Urban, T. Wolf, M. Uebele, et al.Occurence and clinical predictors of spasticity after ischemic stroke. Stroke, 41 (2010), pp. 2016-2020

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