痙縮について③ −脳卒中発症後の痙縮に関する予後予測について−
<本コラムの目的>
・予後予測*の必要性について知ろう
・脳卒中後に生じる予後予測のモデルを知ろう
*ワンポイント リハビリテーションにおける予後予測とは?
予後予測とは、過去の研究の結果から、担当している目の前の患者さんの生命、上肢機能や歩行機能、日常生活活動の程度などを予測する手続きのことを指します。近年、予後予測は、リハビリテーションプログラムを立案・遂行する際に、必須であると言われています。
その証拠に、脳卒中治療ガイドライン2021においても、脳卒中患者に対するリハビリテーションプログラムは、脳卒中の病態、個別機能障害、日常生活活動の障害、社会生活活動上の制限等の評価と予後予測に基づいて、計画することが望ましいと報告されています(引用文献1)。
予後予測を行うことで、標準的な回復の基準ができ、それに対して、自身のリハビリテーションプログラムの妥当性を評価する、もしくは生命の予後や身体機能の予後のバランスを考え、何を優先すべきかを検討することもできる。
1)脳卒中患者における痙縮に対する予後予測
脳卒中後に発症した痙縮がどのような経過を辿るのかに関して、過去の先行研究をいくつか紹介します。Sunnerheagenら(引用文献2)によると、脳卒中後に発症した痙縮の予後予測因子をレビューにていくつか示しています。その内容は、脳卒中を発症した急性期の麻痺の重症度、Barthel Indexによって評価された日常生活活動の自立度の程度が、長期的な痙縮の予後に関連することを示しました。
次に、痙縮の予後に影響を与える脳の損傷部位について調べた研究に関して報告します。神経解剖的な研究では、損傷部位と長期的な痙縮の予後については明確な結果は出ていませんが、Picelliら(引用文献3)によると、後ろ向きのコホート研究**の結果から、島、視床、大脳基底核、白質路(内殻、放線冠、外殻、上縦束)の病変が脳卒中後に生じる上肢における重度の痙縮と有意な関連があることが示されています。また、97名の脳卒中患者を対象とした、別の後ろ向きのコホート研究では、脳卒中後の痙縮の発症と関連する最も重要な脳の損傷部位の一つが被殻であることが示されました(引用文献4)。最後に、最近のVolonyらの前向きのコホート研究では脳卒中後の痙縮の発症と神経解剖学的な部位については関連性が認められなかったとの報告もあります。前回のコラム(痙縮について③)にもありますが、痙縮には末梢神経や筋の影響もあることから、発症部位だけでは、説明できないことがたくさんあるようです。今後、より大規模な研究によって解明されることが期待されています。
参照文献
1. 松野悟之.脳卒中ガイドライン2021におけるリハビリテーション領域の動向.理学療法学 37 (2022), pp, 129-141
2. K.S. Sunnerhagen. Predictors of spasticity after stroke. Curr Phys Med Rehabil Rep, 4 (2016), pp. 182-185
3. A. Picelli, S. Tamburin, F. Gajofatto, et al. Association between severe upper limb spasticity and brain lesion location in stroke patients. BioMed Res Int, 2014 (2014), p. 162754
4. A. Picelli, S. Tamburin, F. Gajofatto, et al. Association between severe upper limb spasticity and brain lesion location in stroke patients BioMed Res Int, 2014 (2014), p. 162754
5. O. Volny, M. Justanova, P. Cimflova, et al. 24-Hour alberta stroke program early ct score assessment in post-stroke spasticity development in patients with a first documented anterior circulation ischemic stroke. J Stroke Cerebrovasc Dis, 27 (2018), pp. 240-245