痙縮について① −痙縮の代表的な評価Modified Ashworth Scaleについて−
<本コラムの目標>
・痙縮に対する代表的な評価であるModified Ashworth Scale(MAS)の背景を知る
・MASの具体的なやり方を確認、学習する
・MASの数値の解釈について、学習する
1)Modified Ashworth Scale(MAS)の背景
MASは中枢神経系の病変のある患者(評価の対象となる疾患は、脳卒中だけではなく、多発性硬化症や脊髄損傷等も含まれます)の痙縮を測定するオリジナルのAshworth Scaleを臨床にてより使用しやすいように修正した改訂版の評価です。MASは筋緊張の中でも痙縮*を評価するための評価法です。
*ワンポイント 痙縮とは? 『折りたたみナイフ現象(Clasp-knife response』
痙縮とは、脳卒中をはじめとした中枢神経を障害された後に生じる、以上な筋緊張の一つです。痙縮が特定の筋肉に生じると、その筋肉が強く収縮し、痛みや関節の変形等が出現します。痙縮の特徴は『折りたたみナイフ現象(Clasp-knife response』と呼ばれる現象を伴います。この現象は、例えば上腕二頭筋の痙縮が強い対象者さんの場合、肘が屈曲位になります。その肘の関節を他動的に伸展させた場合、最初強い抵抗を感じます。しかし、そのまま伸展させていくと、その抵抗感は大きく下がります。痙縮はこういった特徴を持つ異常筋緊張なので、その他の異常筋緊張(固縮等)との判別時にはこの現象の有無をチェックしましょう。
2)MASの実際の実施方法
MASは痙縮のある筋肉に対して、拮抗方向にクイックストレッチを行うことで、評価をすることができます。例えば、上腕二頭筋の痙縮が高い場合、肘は屈曲位をとっていると思います。上腕二頭筋の痙縮の程度を調べるためには、上腕二頭筋の拮抗筋である上腕三頭筋が支配する動きである肘を伸展方向に動かします。拮抗方向とは、調査したい痙縮を有する筋肉の拮抗筋が支配する関節運動のことを指します。痙縮を評価する際に、注意しなければならない要項としては、「クイックストレッチを行う」ということです。ゆっくりとしたストレッチでは、上記コラムに記載している『折りたたみナイフ現象』は生じません。
各関節運動に対して、クイックストレッチを行い、その際の抵抗感を評価することで、正確なMASの値を導き出すことができます。スピードの目安としては評価対象となる関節の全可動域を1秒程度で、動かす回数は特に規定がないが研究によっては、1から8回の連続実施と幅があります(点数化も平均を取るもの、最大値を取るものと様々です)。また、実施肢位も研究によって様々な肢位で実施されている、もしくは記載がないものがほとんどです。重要な点としては、同じ患者さんのMASを測定する際は、同じ回数、同じ採点方法、肢位で行うことが重要となります(条件が変わると痙縮の変化ではなく、その他の条件の違いが点数に影響を与えるため)。では、動かす抵抗感によるMASの点数は以下の表にまとめます。
3)数値の解釈について
数値の変化が誤差の範疇か、それとも改善や悪化といった変化を意味するのかを判断する際に最小検出変化量(Minimal Detectable Change: MDC)という指標や、その変化の量が臨床上意味のある最小の変化量(Minimal Clinical Important Difference: MCID)といった指標を使うことがおすすめです。例えば、MASの場合、脳卒中の対象者において、MDCは1点とされています(引用文献1)。
さらに、MCIDとしては、中等度の効果があったことを示す変化量の目安として、上肢においては0.48点、下肢においては、0.45点とされています(引用文献2)。また、大きな効果があった変化量の目安として上肢においては0.76点、下肢においては、0.73点とされています(引用文献2)。文献によっては、研究対象となった集団の発症からの期間を始め、特徴が異なるため、一定の値は出ていませんが、これらの値を使って、皆さんが対象者の方に実施したリハビリテーションの前後に生じた変化が、誤差であったのか、なかったのか、効果の程度としてはどうだったのかを考察してみると良いでしょう。
参照文献
1. Bohannon, R. and Smith, M. (1987). "Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity." Physical Therapy 67(2): 206.
2. Charalambous, C. P. (2013). Interrater Reliability of a Modified Ashworth Scale of Muscle Spasticity. Classic Papers in Orthopaedics, 415–417.
引用文献
1. Shaw, L., Rodgers, H., et al. (2010). BoTULS: a multicentre randomised controlled trial to evaluate the clinical effectiveness and cost-effectiveness of treating upper limb spasticity due to stroke with botulinum toxin type A, Prepress Projects.
2. Chen, C. L., Chen, C. Y., Chen, H. C., Wu, C. Y., Lin, K. C., Hsieh, Y. W., & Shen, I. H. (2019). Responsiveness and minimal clinically important difference of Modified Ashworth Scale in patients with stroke. European Journal of Physical and Rehabilitation Medicine, 55(6), 754-760.