脳卒中後の亜脱臼と肩痛について① 〜脳卒中後の亜脱臼と肩痛に関する背景について〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.12.11
リハデミー編集部
2023.12.11

<本コラムの目標>

・脳卒中後の亜脱臼および肩の痛みに関して背景情報を理解する

・脳卒中後に生じる肩痛へのリハビリテーションにおける戦略を立てる一助となること

(脳卒中後の亜脱臼について全10回を読んだ後の目標)

1.脳卒中後の亜脱臼と肩痛に関する背景について

 脳卒中(脳血管障害)は、アメリカ合衆国においては死因の第3位とされています(年間795000名の新規患または再発の脳卒中患者がいると言われています)[1]。それと同時に、成人が疾患にかかってから、長期的に日常生活に悪影響を与えるような障害が残ってしまう原因の第1位とされています。つまり、多くの対象者の方が、この疾患によって、元の生活を送れなくなっていることがわかります。

 脳卒中後に生じる後遺症は、多岐に渡ります。最も一般的なものの一つが、身体の片半身(主に片側の手と足)が麻痺によって、思うように動きにくくなる『片麻痺』と呼ばれる症状です*。さらに、この後遺症に付随して、生じる後遺症が肩の亜脱臼と肩痛です。


*ワンポイント 片麻痺とは?

片麻痺とは、左右二つに分かれている脳の運動に関わる部分(皮質脊髄路、錐体路)が傷つくことで、損傷が生じた脳と反対側の手足が動かしにくくなる症状(麻痺)のことを指します。手足が動きにくくなることと、筋出力(筋力)が著しく低下するため、力が足りず、腕が使えなくなってしまったり、バランスを崩す・転倒するといった状態になります。また、手足だけでなく、口(声帯を含む)や顔面にも症状が出現するため、うまくスムーズに話せなくなる、食べれなくなる、飲み込みにくくなるといった症状も現れることがあります。


 特に後者の肩痛については、英語でHemiplegic Shoulder Pain(HSP)と呼ばれ、肩の痛みに伴う、麻痺してしまった手がさらに動きにくくなる等の機能低下を誘発し、生命の質(Quality of life: QOL)を著しく阻害すると言われています。

 HSPの発症率は、過去の研究で示されているが、研究によって大きくその数値は異なるため、全脳卒中患者の16%から84%と言われています。ただ、多くの研究が全患者の70%に痛みがあると報告しています。[2]

 HSPが生じると、痛みのために対象者の方がリハビリテーションを拒否する場面が増えます。これにより、運動を行わないようになり、回復の妨げ、さらなる機能低下を生じるため、医療従事者と対象者にとって、非常に大きな問題となることが多いです。特に、脳卒中発症後1ヶ月程度から入院する回復期リハビリテーション病院では、HSPによってリハビリテーションが遅々として進まないといったエピソードをよく聴きます。

 先行研究においては、HSPの有無は、脳卒中発症後12週間後の日常生活活動の程度を示すBarthel Indexにおけるスコアの低下と強い関連性があると報告されています。[3] さらに、別の研究では、退院時のBarthel Indexのスコアが15点未満の対象者の59%に入院中HSPがあったことに対し、Barthel Indexが15点以上の対象者では25%であり、痛みの経験の有無と退院時の日常生活活動の自立度の間に関係性がある可能性も報告されています。[4]

 HSPの原因は非常に多様であると考えられています。ただし、大きく分けると、神経学的な原因と、機械学的な原因とに分けることができ、原因が脳の中枢で生じている神経学的な原因に由来することもあれば、手足の末梢の物理的な原因に由来することもあります。

 HSPは数十年の間、医学界の中ではその存在を認識されており、問題を解決するための議論がなされてきました。しかしながら、医学研究におけるHSPに関するエビデンスは、量・質ともに不十分であると言われており、一貫性がない状況です。特に、HSPに対するリハビリテーションにおける介入方法が確立されていないため、原因が特定できたとしても、何を行うかについては、慎重に考えないといけないと言われています。例えば、癒着性関節包炎が、対象者のHSPの原因であったと推論ができたとしても、癒着性関節そのものに対するリハビリテーションプログラムの選択については、多くの疑問と議論が必要だと考えられています。

 ただし、脳卒中後に生じるHSPに対応する際には、その原因を推論し、それらに応じた対処法を構築することが重要であると考えられています。つまり、すべての病態に通ずる万能な画一的な介入方法があるわけではありません。したがって、リハビリテーションプログラムを構築する際には、病態理解とそれらに則ったオーダーメードのアプローチを実施することが重要であると言われています。


参照文献

1. Roger VL, Go AS, Lloyd-Jones DM, et al. Heart disease and stroke statistics— 2012 update. A report from the American Heart Association. Circulation 2012; 125(1):e2–220.

2. Bohannon RW, Larkin PA, Smith MB, et al. Shoulder pain in hemiplegia: statistical relationship with five variables. Arch Phys Med Rehabil 1986;67(8): 514–6.

3. Roy CW, Sands MR, Hill LD. Shoulder pain in acutely admitted hemiplegics. Clin Rehabil 1994;8(4):334–40.

4. Wanklyn P, Forster A, Young J. Hemiplegic shoulder pain (HSP): natural history and investigation of associated features. Disabil Rehabil 1996;18(10):497–501.

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