痙縮について➉ −脳卒中患者における痙縮に対するリハビリテーションプログラムのエビデンスについて−

竹林先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.12.08
リハデミー編集部
2023.12.08

<本コラムの目標>

・脳卒中後の痙縮に対するリハビリテーションプログラムの効果に関するエビデンスを知る

1)脳卒中後の痙縮に対するリハビリテーションプログラムのエビデンス

 痙縮は筋に他動的に伸長を加えた際に生じる速度依存性に生じる抵抗感を生む筋緊張と定義されており、上部運動ニューロン症候群の一つであると言われています。痙縮による活動制限は介護者の負担を増加させ、彼らのEuroQOL-5(費用対効果研究[効果とそれにかかる費用の関係性を調査する研究]等に非常によく使われるQOL評価)を低下させると報告しています(引用文献1)。

 ある研究では、脳卒中後、痙縮を有する対象者が必要とする介護費用は、痙縮がない場合の約4倍必要であるとも言われています。ただし、痙縮が重度の対象者の方は、運動障害も重度なことが多いため、どちらが介護費用の増大に影響を与えているかは不明であると言われています(引用文献2)。さて、ここからは、リハビリテーションプログラムが痙縮に与える効果について、解説を行っていきます。


①安静時のスプリントや装具の痙縮軽減に関するエビデンス

 安静時のスプリントや装具に関しては、システマティックレビューやメタアナリシスの結果を見てみると、手首や指の痙縮を軽減する効果はないと言われています。この事実から、痙縮の軽減を目的とした安静時スプリントや装具の使用については、議論の余地があると考えられています。また、テーピングについても痙縮を減少させる効果はないと言われています(引用文献3, 4)


②神経筋電気刺激の痙縮軽減に関するエビデンス

 神経筋電気刺激を痙縮を有する筋肉やその拮抗筋に利用することで、痙縮を改善する可能性があると報告されています。しかし、神経筋電気刺激を実施することで、歩行や手の機能障害が改善するといったエビデンスはまだまだ不十分であるとも言われています(引用文献5)。


③振動刺激の痙縮軽減に関するエビデンス

 痙縮を有する筋肉に対して、振動刺激を加えることは、一時的に痙縮を軽減するためには利用しても良いと考えられています。ただし、低下した痙縮は15分から30分といった一定時間が経過すると元の痙縮の強さに戻ってしまうとも言われています。つまり、長期的な痙縮の軽減に、振動刺激は有効な方法ではないと考えられているようです(引用文献6, 7)。


 上記に示したように、米国心臓/脳卒中学会のガイドラインを筆頭に、いくつかのガイドラインを確認した結果、痙縮軽減のリハビリテーションプログラムにおいて、絶対的な手法は未だ存在していないことが示されています(示されている中では比較的、神経筋電気刺激はポジティブな評価がなされています)。ただし、単一の手法ではなく、上記の手法の特徴を知った上で、多角的にこれらの手法を併用することで、臨床における痙縮に対するアプローチの質を上げることができるかもしれません。これらの手法を利用しつつ、脳卒中後に生じる痙縮のマネジメントを行うことを検討していく必要があるでしょう。


参照文献

1. Doan QV, Brashear A, Gillard PJ, Varon SF, Vandenburgh AM, Turkel CC, Elovic EP. Relationship between disability and health-related quality of life and caregiver burden in patients with upper limb poststroke spasticity.PM R. 2012; 4:4–10. 

2. Lundström E, Smits A, Borg J, Terént A. Four-fold increase in direct costs of stroke survivors with spasticity compared with stroke survivors without spasticity: the first year after the event.Stroke. 2010; 41:319–324.

3. Carda S, Invernizzi M, Baricich A, Cisari C. Casting, taping or stretching after botulinum toxin type A for spastic equinus foot: a single-blind randomized trial on adult stroke patients.Clin Rehabil. 2011; 25:1119–1127

4. Karadag-Saygi E, Cubukcu-Aydoseli K, Kablan N, Ofluoglu D. The role of kinesiotaping combined with botulinum toxin to reduce plantar flexors spasticity after stroke.Top Stroke Rehabil. 2010; 17:318–322.

5. Sabut SK, Sikdar C, Kumar R, Mahadevappa M. Functional electrical stimulation of dorsiflexor muscle: effects on dorsiflexor strength, plantarflexor spasticity, and motor recovery in stroke patients.NeuroRehabilitation. 2011; 29:393–400.

6. Caliandro P, Celletti C, Padua L, Minciotti I, Russo G, Granata G, La Torre G, Granieri E, Camerota F. Focal muscle vibration in the treatment of upper limb spasticity: a pilot randomized controlled trial in patients with chronic stroke.Arch Phys Med Rehabil. 2012; 93:1656–1661.

7. Noma T, Matsumoto S, Etoh S, Shimodozono M, Kawahira K. Anti-spastic effects of the direct application of vibratory stimuli to the spastic muscles of hemiplegic limbs in post-stroke patients.Brain Inj. 2009; 23:623–631.

8. Noma T, Matsumoto S, Shimodozono M, Etoh S, Kawahira K. Anti-spastic effects of the direct application of vibratory stimuli to the spastic muscles of hemiplegic limbs in post-stroke patients: a proof-of-principle study.J Rehabil Med. 2012; 44:325–330

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