脳卒中後の亜脱臼と肩痛について② 〜脳卒中後の亜脱臼と肩痛に関する予後予測〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.12.15
リハデミー編集部
2023.12.15

<本コラムの目標>

・脳卒中後の亜脱臼および肩の痛みに関して予後予測を理解する

・脳卒中後に生じる肩痛の予後予測を踏まえた臨床展開をイメージできるようになる


略語

脳卒中後の肩痛:Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)

1. 脳卒中後に生じる肩痛に関する予後予測について

 臨床で働く中で、脳卒中を発症後、急性期もしくは回復期に生じたHSPが、リハビリテーションプログラムの進行を阻害することは珍しくないです。また、これらの痛みが今後どのような経過を辿るのかについても、療法士さらには対象者自身も不安に思うところです。また、HSPは痛みだけでなく、痛みによる精神状態もリハビリテーションの経過に大きな影響を与えます。したがって、予後予測を共有することで、療法士と対象者自身が安心して、リハビリテーションプログラムに取り組むことが重要となります。

 さて、HSPに関する予後予測の知識は、上でも示したようにリハビリテーションプログラムを進める上で、非常に重要になります。先行研究によると、58の研究の結果の傾向を調べたシステマティックレビューとメタアナリシス*では、年齢、性別、病変部位、初期の運動障害(麻痺の重症度)、運動誘発電位(運動に関わる皮質脊髄路、錐体路が損傷の程度を客観的に評価する検査方法)、体性感覚誘発電位(感覚に関わる経路の損傷の程度を客観的に評価する検査方法)によって、HSPを含めた手の回復の転機が評価されています[1]。


*ワンポイント システマティックレビュとメタアナリシスとは?

システマティックレビューとは、論文研究の手法の一つである。疑問が生じたテーマに関する先行研究(例えば、麻痺手に対するリハビリテーションアプローチであるConstraint-induced movement therapy[CI療法]の効果を調べたい場合はそれに関する研究を集める)を集める際に、研究の正確性や妥当性を調査した上で信頼に足る研究のみを集める方法です。さらに、メタアナリシスは、システマティックレビューによって集められた複数の研究結果を統合したうえで、それらの研究の結果の傾向を調べるための統計方法です。エビデンスの質としては信頼されるべきものとされており、この方法を使って、調べられたエビデンスが、治療ガイドラインの内容に用いられたりすることも少なくないです。


 上に示した研究の中では、年齢自体はHSP発症および残存の明確な危険因子とはされていませんが、高齢者になればなるほど、元々、HSPを生じやすい身体状況である可能性が高いと考えられています(元々、四十肩、五十肩のような痛みを有していたりするなど)。その他の危険因子としては、運動障害の程度(麻痺の程度)、固有需要感覚の低下、表在感覚の消失、異常感覚の有無、肘関節屈筋の痙縮、肩関節外転・外旋の可動域制限、低栄養の有無、2型糖尿病といったものが挙げられています。これらを有する対象者については、HSPの発症について、注意をする必要があります[2]。

 その他の研究では、Barlakら[3]はHSPと癒着性関節包炎および複合性局所疼痛症候群との間に、有意な関係性を認めたけれど、HSPと亜脱臼の程度、痙縮、インピンジメント症候群、視床痛との間に有意な関係性は認めなかったと報告しています。

 これらの先行研究から言えることは、脳卒中発症によって生じた直接的な原因だけでなく、元々の生活や肩のアライメントの個別性、加齢からくる既存の異常等について、注意深くアセスメントし、リハビリテーションプログラムを構築する必要があります。特に、腱板損傷は既存の問題の最たる例と言われています。腱板損傷、普通に生活をしている中で、気づかない間に発症していることが多く、50歳代でしばしば見られ、60歳から70歳の間に重症化するケースが多いと言われています[4]。腱板損傷が潜在的に怒ることで、関節可動域は制限され、肩周囲の軟部組織の損傷により、肩関節に関わる筋群の弛緩を増長させるため、脳卒中後の亜脱臼も重症化しやすいことが報告されています[5]。

 また、ある研究者は棘上筋や上腕二頭筋の損傷とそれらに伴う臨床所見が、対象者の痛みの訴えに関わらず、将来的なHSPの発症と関連性があることを報告しています[6]。これらから、脳卒中発症由来の症状によるHSPに対するアセスメントも重要であるが、それ以前の肩の状況をできるだけ推測し、正確な臨床推論とリハビリテーションプログラムの構築が必要になると考えられます。


参照文献

1. Coupar F, Pollock A, Rowe P, et al. Predictors of upper limb recovery after stroke: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil 2012;26(4): 291–313.

2. Roosink M, Renzenbrink GJ, Buitenweg JR, et al. Persistent shoulder pain in the first 6 months after stroke: results of a prospective cohort study. Arch Phys Med Rehabil 2011;92(7):1139–45.

3. Barlak A, Unsal S, Kaya K, et al. Poststroke shoulder pain in Turkish stroke patients: relationship with clinical factors and functional outcomes. Int J Rehabil Res 2009;32(4):309–15.

4. Turner-Stokes L, Jackson D. Shoulder pain after stroke: a review of the evidence base to inform the development of an integrated care pathway. Clin Rehabil 2002;16(3):276–98.

5. Saario L. The range of movement of the shoulder joint at various ages. Acta Orthop Scand 1963;33(4):366–7.

6. Dromerick AW, Edwards DF, Kumar A. Hemiplegic shoulder pain syndrome: frequency and characteristics during inpatient stroke rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil 2008;89(8):1589–93.

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