脳卒中後の亜脱臼と肩痛について⑨ 〜脳卒中後に生じる肩痛に対するリハビリテーションにおけるマネジメントについて(1)ポジショニングについて〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2024.01.08
リハデミー編集部
2024.01.08

<本コラムの目標>

・HSPに対するマネジメントについて理解する

・具体的なマネジメントとしてのポジショニングについて理解する


略語

脳卒中後の肩痛:Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)


1. 脳卒中後に生じるHSPの治療について

 脳卒中後に生じるHSPの治療があげられます。薬物療法、非薬物療法問わず、多くの方法が考えられています。概要については上記の表にまとめていますので、確認してください。以下では、主要な方法について解説を行っていきます。


①肩関節のポジショニングによるHSPの予防について

 脳卒中後に生じるHSPの予防の鍵は、脳卒中発症後数日間における適切な肩関節の取り扱いとポジショニングが特に重要視されています。特に脳卒中発症後の急性期では、医療チームにおける複数のメンバーが対象者に関わるため、臥位・座位におけるポジショニングや移乗を適切にサポートできる知識や技術を共有することが重要とされています。

 特に肩関節周囲の筋肉が弛緩している時期には、肩関節の静的な安定性が欠如しており、安静時に不良ポジションを取ることで、肩の軟部線維の損傷を起こしやすいと言われています。また、上記にも示しましたが、過去の研究においても、セルフケアの介助の中では移乗動作時にHSPを発症するケースが非常に多いと言われており[1]、それらにどのように対応するかはチームの課題と考えられています(HSP予防のためのケアの実施方法については、ガイドライン等でも明確に示されていません)。

 また、ポジショニングが非常に重要といえど、HSPを生じる可能性が低い、いわゆる『良肢位』と言われるものは、明らかにされておらず、脳卒中を有する対象者を被験者とした、臨床研究において、どの位置におけるポジショニングが他の位置に比べて有意に優れているのかについては、証明がなされていない状況です。

 そのような状況の中でも、Carrら[2]は、伝統的な手技における経験の中から、適切なポジショニングについて、推奨しています。彼らが推奨している肢位は、肩甲骨を軽度屈曲、肩関節軽度屈曲し、手関節を中間位もしくは背屈位、手ゆびが伸展位を取ることが望ましいと報告しています。また、Bobathら[3]は、反射抑制パターンでポジショニングを行うことを提唱しています。これらは、異常な共同運動と逆の関節運動を全ての関節可動域の中間位(肩ならば肩関節屈伸が0度の状態、肘ならば、肘関節屈伸が0度の状態を指す)を取れることが重要と述べています。しかしながら、ポジショニングの研究では、上記のようにさまざまな肢位が提唱されているものの、サンプルサイズが極端に少ないため、エビデンスとしては不十分だと考えられています。

 なお、筆者らは、上記の推奨に加え、肩関節が内旋肢位をとった状況で、肩屈曲・外転が他動的な外力で生じるとインピンジメントのリスクが急上昇することから、できるだけ、安静時において内旋肢位から外旋肢位へポジショニングをとることでリスクを軽減することを考え、ポジショニングをとるようにしています。

まとめ

 脳卒中後に生じるHSPについて、ポジショニングが重要ということはよく言われていますが、良肢位自体の概念が明確になっておらず、この辺りは対応に悩むところだと思います。ただし、肩関節の構造上の問題から考えると、他動的に回旋刺激が強く入ること、内旋肢位で粗大な肩関節運動が他動的に入ることによって、軟部組織が損傷しやすいことは想像にやすいところです。したがって、臨床試験によるエビデンスに頼らず、解剖学的な観点からも考察しつつ、アプローチを実施することが重要だと思われました。


参照文献

1. Wanklyn P, Forster A, Young J. Hemiplegic shoulder pain (HSP): natural history and investigation of associated features. Disabil Rehabil 1996;18(10):497–501.

2. Carr EK, Kenney FD. Positioning of the stroke patient: a review of the literature. Int J Nurs Stud 1992;29(4):355–69.

3. Nepomuceno CS, Miller JM 3rd. Shoulder arthrography in hemiplegic patients. Arch Phys Med Rehabil 1974;55(2):49.

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