脳卒中後の亜脱臼と肩痛について⑩ 〜脳卒中後に生じる肩痛に対するリハビリテーションにおけるマネジメントについて(2)アームスリング等について〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2024.01.12
リハデミー編集部
2024.01.12

<本コラムの目標>

・HSPに対するマネジメントについて理解する

・具体的なマネジメントとしてのアームスリングやテーピングについて理解する


略語

脳卒中後の肩痛:Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)


1. 脳卒中後のHSPに対するマネジメントについて

①アームスリングやテーピングについて

 脳卒中後のHSPのマネジメントにおいて、もっとも一般的な手法の一つにアームスリングやテーピングがあります。アームスリングやテーピングの目的は、肩甲上腕関節を適切な位置に保持し、亜脱臼後の不良肢位を予防する目的で使用されることが多い道具です。アームスリングやテーピングは、亜脱臼に対しては、全く改善効果は期待できないと言われていますが、脳卒中発症後に弛緩性の麻痺を呈した対象者のHSPを予防、もしくはその発症を遅らせることはできると報告されています[1]。

  アームスリングやテーピングによる疼痛緩和の機序は調査した研究がほとんどないため、不明とされていますが、物理的な外力を予防できることで、軟部組織等の損傷を最小限にできることが疼痛緩和につながっているのではないかと予測されています。

 上記に示したアームスリングとテーピングですが、テーピングに関しては、知識と技術を習得した者が適切に皮膚にドレッシン材を貼るなど、皮膚のケアを実施しつつ行わなければ、皮膚が爛れ、二次的な感染などの原因にもなることがあるので、注意をしなければなりません。では、テーピングの効果に関する臨床研究の結果について、解説を行なっていきます。肩関節痛を有する対象者を被験者とした小規模な臨床研究において、テーピングと偽テーピングの効果を比較検討がなされています。この研究の結果では、痛みを伴う肩関節外転位をとる頻度が現象したものの、痛みそのものや関節可動域自体の有意な改善はなかったと報告されています[2]。ただし、脳卒中後に生じるHSPに限定したテーピングの有益性を示す質の高い研究は少ないと言われています。

 次に、テーピングと並んで、使用されるアームスリングについて、解説を行います。アームスリングは脳卒中後のHSPにおいて、もっとも使われているマネジメント方法の一つですが、これらを使用する際に注意しておかなければならないことが一つあると言われています。その内容としては、腕の位置が不適切であったりする場合、肩関節の拘縮や肩関節の軟部組織の変性が生じる可能性が言われており、固定時間があまりにも多くなった場合に、二次的な障害が生じる可能性も考えられています。これらの拘縮は、アームスリングによって予防するはずの痛みの原因となる可能性も指摘されており、十分気をつけなければならないところです。

 肩関節を固定するシチュエーションとポジショニングで対応するシチュエーションをしっかりと理解し、運用しなければならないと言われています。アームスリング等で固定が必要な場面としては、直立している状況、もしくは歩行中に上肢を保護する目的で使用することが推奨されています[3]。また、車椅子使用においてもアームスリングと腕を良好なポジションで保持する腕置きは、外傷を防ぐだけでなく、亜脱臼の防止にも役立つと言われており、過度の肩の回旋と外転を予防することができるため車椅子を使用する際に推奨されています[4]。

 ただし、アームスリングを使用する際に、配慮しなければならないことは、固定肢位が肩関節内旋、内転をとることが多いめ、特に外旋方向への随意的な促通運動と関節可動域練習とのバランスをとりながら使用する必要があると言われています。


参照文献

1. McKenna LB. Hemiplegic shoulder pain: defining the problem and its management. Disabil Rehabil 2001;23(16):698–705.

2. Thelen MD, Dauber JA, Stoneman PD. The clinical efficacy of kinesio tape for shoulder pain: a randomized, double-blinded, clinical trial. J Orthop Sports Phys Ther 2008;38(7):389. 

3. Garrison SJ, Rolak LA. Rehabilitation of the stroke patient. In: Gans Bruce M, editor. Rehabilitation medicine: principles and practice, Vol. 15. Philadelphia: Lippincott; 1993. p. 801.

4. Brooke MM, De Lateur BJ, Diana-Rigby GC, et al. Shoulder subluxation in hemiplegia: effects of three different supports. Arch Phys Med Rehabil 1991;72(8): 582–6.

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