脳卒中後の亜脱臼と肩痛について⑧ 〜脳卒中後の肩痛のメカニズム、末梢運動器における機械的な原因について(2)〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2024.01.05
リハデミー編集部
2024.01.05

<本コラムの目標>

・末梢運動器における機械的な原因を理解する

・腱板損傷、癒着性被膜炎、筋膜性疼痛に起因するHSPについて理解する

・原因に応じたアプローチを考案できる


略語

脳卒中後の肩痛:Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)


1. 末梢運動器における機械的な原因を理解する

①腱板損傷

 腱板の主な役割は、肩の関節が動いている最中に、関節窩に対して、上腕骨頭を押し付けることで、肩関節を安定させる役割を担っています。腱板の損傷は、脳卒中等の疾患とは関係なく、一般的にも肩痛の原因となることが多い。腱板断裂は、一般的にも20%から40%の方々に見られると言われており、年齢が高くなればなるほどその発生率は高くなると言われています。

 次に、脳卒中後に片麻痺を生じた対象者の方においては、33%から40%に見られると言われており、一般的な成人における確率と大きな差はないと言われています[1]。

一方、Barlakら[2]は,リハビリセンター内で入院環境にてリハビリテーションを受けているHSPを有する脳卒中患者の61%に肩甲上腕関節のインピンジメントが,33%にローテーターカフの断裂が認められたと報告しています。

さらに,Najensonら[3]は,脳卒中後に重度の上肢麻痺を呈した対象者のみを対象者に調査を実施したところ,ローテーターカフの断裂は麻痺側で40%,健側でも16%の対象者で認めら得たと報告しています。さらに,同論文の中で,HSPを有する対象者においては,痛み,ローテーターカフの断裂,肩甲上腕関節の亜脱臼の間には関連性が認められたとも報告しています。

 また,Dromerickら[4]は,リハビリセンター内で入院環境にてリハビリテーションを受けている脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者において,HSPを有する対象者は全対象者の37%が肩の痛みを訴えていたと述べています。しかし,彼らは,同論文の中で,脳卒中発症前から元々痛みを有していた対象者が全体の15%も存在していたことにも触れており,脳卒中の発症に関連しない痛みの存在にも留意する必要性を述べています。

 Leeら[5]による超音波検査を用いた調査では、HSPを有する対象者においては,肩峰下-剣状突起下滑液包貯留(50.7%)、棘上筋腱症(9.9%)、棘上筋腱部分断裂(8.5%)、棘上筋腱全断裂(2.8%)、上腕二頭筋腱鞘貯留(54.9%)が認められたと報告しています

Shahら[6]の磁気共鳴画像研究では、35%の患者が少なくとも1つの腱板、上腕二頭筋、三角筋の断裂を示し、55%の患者が少なくとも1つの腱板、上腕二頭筋、三角筋の腱鞘炎を示したと報告しており,脳卒中後HSPを有する対象者は多くの軟部組織の障害を有していることがわかる.

 したがって、片麻痺という障害が腱板損傷の原因になる可能性は低いと言われていますが、障害を有した後の異常な体位や筋力低下による主動筋と拮抗筋のアンバランス、痙縮等がインピンジメントのリスクを高め、それらが腱板断裂につながることが多いです。さらに、意外な腱板断裂の原因としては、転倒があげられます。したがって、腱板損傷のリスクを軽減するためにも、転倒予防は非常に重要であると言えます。


*ポイント どのような動きが肩のインピンジメントのリスクを高めるのか?

 さて,これらの軟部組織の損傷だが,どのような動きを実施した際に生じる可能性があるのでしょうか?

これらを理解しておくと、インピンジメントに対して細心の注意を払うことができます。Najensonら[3]は,脳卒中後の上肢麻痺を呈した対象者におけるローテーターカフの断裂の原因は、90度以上の受動的な外転外力が加わったり,肩関節内旋肢位で肩関節外転を加えた際に生じる肩甲骨と上腕骨によるインピンジメントであると示しています。

 特に肩の屈曲や外転を実施する際には、肩関節内旋位の補正を強く注意する必要があることがわかります。


②癒着性被膜炎

 癒着性皮膜炎は、過去に肩関節に内在する疾患がない場合に生じる能動的・受動的な著しい関節可動域の障害や痛みを有する疾患である。ただし、原因ははっきりしておらず、治療法も明らかにされていません。さて、癒着性被膜炎によって生じた関節可動域の障害は、炎症、筋萎縮、癒着による関節拘縮を引き起こす可能性があると言われています。また、痙縮による肩関節の固定が強まるとさらに癒着が進む可能性もあります。


参照文献

1. McKenna LB. Hemiplegic shoulder pain: defining the problem and its management. Disabil Rehabil 2001;23(16):698–705

2. .Barlak A, Unsal S, Kaya K, Sahin-Onat S, Ozel S: Poststroke shoulder pain in Turkish stroke patients: Relationship with clinical factors and functional outcomes. Int J Rehabil Res 2009;32:309-15

3. Najenson T, Yacubovich E, Pikielni SS: Rotator cuff injury in shoulder joints of hemiplegic patients. Scand J Rehabil Med 1971;3:131-7 

4. Dromerick AW, Edwards DF, Kumar A: Hemiplegic shoulder pain syndrome: Frequency and character- istics during inpatient stroke rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil 2008;89:1589-93

5. Lee IS, Shin YB, Moon TY, Jeong YJ, Song JW, Kim DH: Sonography of patients with hemiplegic shoulder pain after stroke: Correlation with motor recovery stage. AJR Am J Roentgenol 2009;192:W40-4 

6. Shah RR, Haghpanah S, Elovic EP, et al: MRI find- ings in the painful poststroke shoulder. Stroke 2008;39:1808-13

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