脳卒中後の亜脱臼と肩痛について⑪ 〜脳卒中後に生じる肩痛に対するリハビリテーションにおけるマネジメントについて(3)理学療法・運動療法について〜
<本コラムの目標>
・HSPに対するマネジメントについて理解する
・具体的なマネジメントとしての理学療法・運動療法について理解する
略語
脳卒中後の肩痛:Hemiplegic Shoulder Pain(HSP)
1.理学療法・運動療法における関節可動域練習による介入について
理学療法・運動療法は、脳卒中を患った対象者の方のリハビリテーションにおいて、不可欠なものであり、HSPの予防と治療に大きな役割を果たすものとされています。最近の理学療法・運動療法において、軽視されがちではありますが、他動的な関節可動域練習については、脳卒中による医学的な状況が安定したら、直後から開始すべきであるとされています。ただし、脳卒中後の急性期は特に、筋肉の緊張が亢進、逆に低下しており(中には部分的に亢進している部位と低下している部位が混在している対象者も多数ある)、ローテータカフの損傷等、軟部組織の損傷には十分な注意が必要です。特に、肩関節の外転を実施する際には、最新の注意が必要といわれています。なお、肩関節に他動的に関節可動域練習を実施した際、少しでも痛みやインピンジメントの初見が認められた場合には、肩関節のアライメントをもう一度確認、修正した上で、振幅を小さくすることが進められています。このように、痛みのない範囲で、他動的な関節可動域練習を実施することで、対象者からのHSPに関する訴えは、43%軽減することが先行研究では報告されています[1]。したがって、HSPに対する理学療法・運動療法の最初の一歩は、超早期からの他動的な肩関節に対する関節可動域練習が挙げられます。ちなみに、Lynchら[2]は、他動的な関節可動域練習に関する研究としては、脳卒中後片麻痺32名に対して、機械的に他動運動を繰り返すCPM(Continuous passive motion)を用いた練習と、自ら痛みのない範囲で自動的な関節可動域練習を行った群の間にHSPの有意な改善は認めなかったと報告しています。この点からも、他動・自動運動問わず、肩の関節可動域練習が有効な可能性も示唆されています。
2. 理学療法・運動療法における.物理療法について
肩関節に対する物理療法としては、電気刺激療法が有名だと思います。ただし、電気刺激療法以外にも、HSPに利用される物理療法としては、温冷刺激を使った方法があります。ここでは、その方法について、ご紹介します。温熱療法は、拘縮等関節の軟部繊維の可動性を一時的に向上させ、他動的な関節可動域練習を支援するといわれています。ただし、温熱療法が利用できるのは、肩関節に炎症初見がない対象者に対してのみとされています。逆に、肩に炎症初見が認められた場合は、寒冷療法を実施し,炎症を抑えることにより、痛みの軽減させ、関節の可動性を高めることがなされます。しかしながら、これらの物理療法の利用については、確固たるエビデンスは認められず、現場の医療従事者の経験の上で用いられていることが多いとされています。
3. 理学療法・運動療法における特定の手技について
理学療法・運動療法(日本では作業療法の中でも用いられることがしばしばある)において、○○療法、○○アプローチといった特定の手法が用いられることがあります。これらの手法の中で、HSPに対して、優位性を持つものは果たしてあるのでしょうか。結論から言うと、現在HSPに対して、特定の手技が他の手法に比べて、優位性があるといった報告はないといった現状があります。先行研究を調査すると、ボバースコンセプト、ブルンストロームアプローチといった神経筋促通術やConstraint-inudced movement therapyを含む課題指向型アプローチ等があるが、いずれも他のアプローチに対して優位性を持っていなかったと報告されています[3]。しかしながら、ロボットにより免荷がなされた反復的な他動および自動運動がHSPを低下させたといった報告も散見することから[4],反復的かつ愛護的な他動・自動による関節運動はHSPの軽減に一定の効果があるのかもしれません。