脳卒中後の亜脱臼と肩痛について⑫ 〜脳卒中後に生じる肩痛に対するリハビリテーションにおけるマネジメントについて(4)電気刺激療法について〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2024.01.19
リハデミー編集部
2024.01.19

<本コラムの目標>

・HSPに対するマネジメントについて理解する

・具体的なマネジメントとしての電気刺激療法について理解する


HSP: Hemiplegia Shoulder Pain


1.HSPに対する電気刺激療法について

 現在、脳卒中後に生じるHSPに関して、肩関節の亜脱臼という側面も含め、電気刺激療法がエビデンスの観点からもファーストチョイスと考えられています。これらの背景から、脳卒中後に生じるHSPに対して、介入を行う際には、電気刺激療法について、深く知る必要があります。本コラムにおいては、それらの手法について、Transcutaneous electrical nerve stimulation(TENS)とFunctional electrical stimulation(FES)の二つの観点から解説を行なっていきます。

1)Transcutaneous electrical nerve stimulation(TENS)について

 経皮的電気刺激(Transcutaneous electrical nerve stimulation[TENS])は、脳卒中後の対象者の麻痺側上肢に対して、外部から電気刺激を与え,治療を実施するもので,痛みの制御理論を仮説として臨床応用された技術です。また、脳卒中後に片麻痺を呈した対象者において、一般的な手法であり、これらを用いたアプローチを数週間の間、継続して実施することで、HSPが軽減することが示されています[1-3]。これらの介入において、最もスタンダードな利用方法は、安静時やリハビリテーション等の動作時を問わず,できるだけ長い時間肩関節に刺激を実施し、長期的にHSPを軽減するといった方法です。しかしながら、最近では、特に理学療法や作業療法のセッション中における動作時に併用されることが多くなっており(Functional electrical stimulation: 機能的電気刺激)、HSPを即時的にも軽減できる可能性についても言及されている[4]。

 ただし、HSPに対するTENSの即時的な効果について調べた研究は限られており、これから更なる知見の積み上げが期待されています。

2)Functional electrical stimulation(FES)について

 上記にも示した通り、機能的電気刺激(Functional electrical stimulation[FES])に関わる研究は近年増加しています。機能的電気刺激とは,動作の中で支障をきたす、もしくは欠損している能力を電気刺激で補いながら、リハビリテーション等を進めるアプローチのことをさします。これらの効果に関わる研究において、FESはHSPおよび肩関節の亜脱臼を軽減させ、麻痺側上肢の筋力および上肢機能を改善することが明らかになっています。

具体的な例としては、Wangら[5]の研究では、急性期の脳卒中後片麻痺を呈した対象者16名と生活期(発症から1年以上経過)の脳卒中後片麻痺を呈した対象者16名において、6週間のFESを用いたプログラムを実施した(6週間の間、リハビリテーション中、それ以外の時間において、刺激肢位は棘上筋と三角筋後部線維)。その結果、急性期の対象者では有意な改善が認められたものの、生活期の患者では有意な改善を認めなかったと報告しています。ただし、急性期の脳卒中患者においても、FESによる介入を中止するとその効果は消失したと報告されています。

Koyuncuら[6]の研究では、HSPを有する脳卒中患者を対象としたランダム化比較試験において、何らかのリハビリテーションに加え、FESを実施した群と、何らかのリハビリテーションを単独で実施した群を比較したところ、X線検査における亜脱臼は軽減したものの、リハビリテーション終了時の自動関節可動域、および他動関節可動域、疼痛は両群間において、有意な差は認めなかったと報告しています。

 ただし、Princeら[7]のコクランレビューにおいては、FESは痛みを伴わない範囲での受動的な肩関節回旋の可動域を増加させ、亜脱臼を軽減させるものの、HSPや運動障害を改善させることはないといった結論を示しています。これらをまとめると、FESは亜脱臼の改善においては一定の効果を認めるが、HSPについては大きな変化を期待できないということでした。


参照文献

1. Chantraine A, Baribeault A, Uebelhart D, Gremion G. Shoulder pain and dysfunction in hemiplegia: effects of functional electrical stimulation. Archives of physical medicine and rehabilitation 1999;80(3):328–331.

2. Faghri PD, Rodgers MM, Glaser RM, Bors JG, Ho C, Akuthota P. The effects of functional electrical stimulation on shoulder subluxation, arm function recovery, and shoulder pain in hemiplegic stroke patients. Archives of physical medicine and rehabilitation 1994;75(1):73–79

3. Leandri M, Parodi CI, Corrieri N, Rigardo S. Comparison of TENS treatments in hemiplegic shoulder pain.Scandinavian journal of rehabilitation medicine 1990;22(2):69–71.

4. Fedorczyk JM. The Use of Physical Agents in Hand Rehabilitation. In: Mosby E, ed. Rehabilitation of the Hand and Upper Extremity 2 ed. Philadelphia, PA: 2011:1495–1511

5. Wang RY, Chan RC, Tsai MW. Functional electrical stimulation on chronic and acute hemiplegic shoulder subluxation. Am J Phys Med Rehabil 2000;79(4): 385–94.

6. Koyuncu E, Nakipoglu-Yu ̈zer GF, Dogan A, et al. The effectiveness of functional electrical stimulation for the treatment of shoulder subluxation and shoulder pain in hemiplegic patients: a randomized controlled trial. Disabil Rehabil 2010;32(7): 560–6. 

7. PriceCI,PandyanAD.Electricalstimulationforpreventingandtreatingpost-stroke shoulder pain: a systematic Cochrane review. Clin Rehabil 2001;15(1):5–19. 

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