Constraint-induced movement therapy(CI療法)とは?
<本コラムの目標>
・CI療法って何?
・CI療法に深く関わる学習性不使用を理解する
1. CI療法とは?
CI療法は、脳卒中後の上肢麻痺に対する治療法として、1990年代初頭にTaubらによって開発されました。今では、信頼性が高い研究方法であるランダム化比較試験によって、その効果が示されており、世界各国の脳卒中治療ガイドラインにおいて、実施すべきリハビリテーションアプローチとして推奨されています。
CI療法は、1)非麻痺手の拘束(昔はミトン等によって非麻痺手を拘束していましたが、最近は非麻痺手を拘束せず、麻痺手の集中的な使用を促す研究が多いです)、2)反復的課題指向型アプローチ、3)集中訓練において獲得した麻痺手の機能回復を実生活に転移するための行動心理学的戦略(Transfer package)、といった3つのコンセプトから構成されています[1]。
昔は、非麻痺手を拘束し、麻痺手を無理やり使い続ける、といった誤ったイメージが広がっていました。しかし、現在では反復課題指向型アプローチにおいて、難易度調整が施された練習課題を麻痺手で実施し、徐々に難易度を向上させ、その中で獲得した機能を、Transfer packageを用いて生活内に転移させる、麻痺手の行動変容を目的としたリハビリテーションアプローチであるといった認識が一般的です。
2. 麻痺手を日常生活で使わなくなってしまう心理学的メカニズム(図1)
CI療法の対象となる対象者は、脳卒中を患った対象者になります。多くの脳卒中患者は、疾患を発症した後、片側の手に感覚障害や麻痺を呈するため、手が使いにくくなります。感覚障害や麻痺によって、使いにくくなった手を生活の中で無理やり使おうとした際、脳卒中発症以前のようにはうまくいかず、失敗をしてしまうことがあります。人間、失敗体験は誰しも嫌なものです。そして、その嫌な失敗体験をその後避けようとするでしょう。そうすると、感覚障害や麻痺によって使いにくくなった手を生活内で使わず、比較的使いやすい非麻痺手を使って、代償的に生活を行うようになります。この行動変容により、非麻痺手の使用頻度は向上する一方、麻痺手の使用はどんどん低下していきます。
さて、人間、麻痺手を使用しなければどのようなことが起こるでしょうか。例えば、Liepartら[2]が健常人の足首を装具等で固定し、動かせないような細工を2週間施した際の脳の変化について研究をしています。その結果、2週間後には大脳において運動出力を担当する一次運動野において、足首の領域が消失したと報告しています。つまり、健常人ですら、四肢を使用しなければ、その領域が消失してしまうことが示唆されています。
これは脳卒中を患った対処者の方でも同様で、非麻痺手の使用頻度が増え、麻痺手の使用頻度が減少すれば、上記の記載と同様に、麻痺手の支配領域は大脳の一次運動野から消失する可能性があると言われています。その結果、麻痺手の麻痺はより重度なものとなり、さらに日常生活においては使用しづらくなっていきます。これらの現象を『麻痺手を使用しないことを学習する』ということで、Learned non use(学習性不使用)と言われています。
3. CI療法によって学習性不使用は克服できるのか?
上記にも記載しましたが、麻痺手の機能に応じた難易度の課題指向型アプローチを通して、麻痺手が使える経験を積み重ねていくアプローチです。つまり、麻痺手を使用した際の失敗体験を、練習の中で積み重ねた成功体験によって消去し、麻痺手に関する新たな使用体験を構築する中で、麻痺手の機能改善や実生活における使用行動を促進するためのアプローチと考えられています。
参照文献
1. Morris DM, et al: Constraint-induced movement therapy: characterizing the intervention protocol. Eura medicophys 42: 257-268, 2006.
2. Liepert J, Miltner WHR, Bauder H, Sommer M, Dettmers C, et al.