複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome: CRPS)の病態生理について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2024.03.18
リハデミー編集部
2024.03.18

<本コラムの目的>

・CRPSの病態生理に興味を持つ

・CRPSの病態生理で、明らかになっている部分を知る


コラム *CRPSとは?

CRPSとは、自律神経系、感覚神経系、運動神経系の異常を伴う症候群であり、それらの神経の損傷の度合いや範囲に関係なく、激しい痛みが生じる症状です(1994年に世界疼痛学会で反射性交感神経性ジストロフィー、カウサルギー、片手症候群等、さまざまな名称で呼ばれていた現象をCRPSとして統一されました)

1. CRPSの病態生理について

 CRPSの病態生理は非常に複雑であり、明らかになっている部分も少なく、完全に解明されるのはずいぶん先になると考えられています。CRPSには神経損傷がない1型と神経損傷がある2型があります。

 CRPS1型については、以前は反射性交感神経性ジストロフィーとして考えられていました。それは、本症候群の発症に、交感神経の調整障害が深く関わるであろうと考えられていたからです。この考えのもと、医学的治療として、交感神経ブロックや交感神経切除術が実施されていました。ただし、**Cochran reviewでは、CRPSに対する交感神経ブロックの効果については、質の高いエビデンスがないため、現時点では支持も反論もできないとされています[1]。ただし、レビューの対象となっている研究における交感神経ブロックのプロトコルに大きなバラつきがあったと言われており、交感神経の調節障害がCRPSの原因でないはないと確定したわけではないと考えられています。


コラム **Cochran reviewとは?

Cochranとは、臨床家、対象者、介護者、政策立案者といった方々が、医療に関する質の高い情報を利用できるために設立された非営利団体です。Cochranは多くの研究を精査し、それらをシステマティックレビューやメタアナリシスといった質の高い分析方法を用いて、正確な情報を生成している国際的なネットワークです。


 CRPSの初期には擦過傷(紅斑)、腫脹(腫脹と浮腫)、熱傷(温感)とそれに伴う疼痛といった急性炎症に関わる特徴が認められることが多く、炎症が関与している可能性が高いと考えられています[2]。この事実は、CRPSを発症して1年未満の対象者において、TNF-αやMIP-1βなどの炎症性サイトカインが増加し、IL-1RA等の抗炎症性タンパクが減少していることが報告されています[3]。

 さらに、炎症性サイトカインは、外傷、骨折、熱傷、手術といった様々な侵襲の後に上昇することが示されています。CRPSを有する対象者は、起点となる出来事が必ずあり、それらに伴う炎症性サイトカインの上昇であるかもしれないと言われています。したがって、炎症自体がCRPSに影響を与えていることもまだまだ不透明な部分が多いと言うことになります。

 これらに加えて、CRPSの発症と進行には、自己抗体を介した自己免疫過程(自律神経受容体を標的とするCRPS血清-IgG)の関与[4]や内皮機能の障害がCRPSに関与することも示唆されています[5]。これらの研究は、独立的に行われていますが、CRPSそのものの病態は、これらの病態が複雑に絡み合い、相互作用を生み出していると考えられています。

 したがって、これらの問題からCRPSが生じていると言うよりは、CRPSによって、これらの問題が二次的、派生的に生じているとも考えることができます。CRPSは長年研究されてきていますが、その原因はほとんど解明されていません。今後も、これらを解明するための研究が必要とされています。


参照文献

1. Shim, H., Rose, J., Halle, S., & Shekane, P. (2019). Complex regional pain syndrome: A narrative review for the practising clinician. British Journal of Anaesthesia, 123 (2), e424-e433. https://doi.org/ 10.1016/j.bja.2019.03.030

2. Clark, D. J., Tawfik, V. L., Tajerian, M., & Kingery, W. S. (2018). Autoinflammatory and autoimmune contributions to complex regional pain syndrome. Moleular Pain, 14, 1744806918799127. https://doi.org/ 10.1177/1744806918799127

3. Lenz, M., Uceyler, N., Frettlöh, J., Höffken, O., Krumova, E. K., Lissek, S., Reinersmann, A., Sommer, C., Stude, P., Waaga-Gasser, A. M., Tegenthoff, M., & Maier, C. (2013). Local cytokine changes in complex regional pain syndrome type I (CRPS I) resolve after 6 months. Pain, 154 (10), 2142-2149. https://doi.org/ 10.1016/j.pain.2013.06.039

4. Goebel, A., & Blaes, F. (2013). Complex regional pain syndrome, prototype of a novel kind of autoimmune disease. Autoimmunity Reviews, 12 (6), 682-686. https://doi.org/ 10.1016/j.autrev.2012.10.015

5. Groeneweg, G., Huygen, F. J., Coderre, T. J., & Zijlstra, F. J. (2009). Regulation of peripheral blood flow in complex regional pain syndrome: Clinical implication for symptomatic relief and pain management. BMC Musculoskeletal Disorders, 10, 116. https://doi.org/ 10.1186/1471-2474-10-116

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