CI療法におけるTransfer packageの実際の手続き(1)−行動契約について−
<本コラムの目標>
1. Transfer packageにおける行動契約の概要を知る
2. 行動契約の手続きの実際を知る
1. Transfer packageにおける麻痺手に関わる『行動契約』とは?
行動契約の主な役割は、1)CI療法を実施する際の麻痺手で達成したい目標を決定する、2)対象者に生活で麻痺手を使用することの重要さを説明する、3)麻痺手の使用場面を指定し、実行した際の感想等を聞き取る等があります。
この三つの役割の中でも特に目標を決定するという役割は重要と考えられています。本稿では、三つの役割の中でも『目標設定』に関する話題提供をしたいと思います。Schmidtら[1]やLockeら[2]の研究では、健常人において、具体的な目標を設定することで、学習行為に対するモチベーションの向上が見られることが示されています。
療法士がリハビリテーションの場面において、目標設定を行う対象者の方は健常人ではなく、何らかの疾患を有する場合が多いので、健常者における研究結果が同じように利用できないことはあります。
ただし、過去の研究においては、目標設定を行うことで、それをしなかった場合に比べて、身体・活動に関するパフォーマンスやQuality of lifeの向上、さらには不安や鬱傾向の軽減等が認められると報告しています[3]。これらの結果からも、目標設定を行うことで対象者のリハビリテーションの結果が向上する可能性があることがわかります。
2. 麻痺手に関わる行動契約の具体的な手続き
「麻痺手に関わる行動契約」は、麻痺手の訓練を行ううえで、療法士と対象者の間で実施していきます。行動契約の対象は、日常生活における特定の活動における麻痺手の使用になります。
この行動契約は、CI療法の開始初期に実施されます。Taubら[4]は,『行動契約を結ぶ際には、口頭の話し合いだけで終わらすだけでなく、対象者のモチベーションをしっかりと確保するために,書類に残すことを勧めています。図1に提示する書類例などを提示し,自筆のサインを求めることで、よりCI療法をにおける目標を自分ごとと捉え、モチベーションを確保できると彼らは説明しています。
行動契約時の面談において,リハビリテーション医および療法士は,CI療法の先行研究[5]の結果を示しながら、麻痺手を実生活で使用することが、麻痺の回復において、どれほど意味があるのか、ということをきっちり伝える必要があります(図2)。この手続きをCI療法の実施前に、対象者に同意をとって、練習を開始することが重要だと言われています。
つまり,脳卒中後の上肢麻痺において,機能および能力を長期的に向上させるためには、明確な訓練の目標を設定したうえで、受動的な姿勢ではなく、主体的に麻痺手を動かし使用することが大事だということを対象者に知ってもらうことが重要です。また、その行為を受け入れることが難しい場合は,短期集中訓練で獲得した機能は,訓練終了とともに消失するといった負の側面も必ず説明することが重要です。
また,麻痺手における目標について、「何が困っているか?」,「何がやりたいか?」と尋ねたところで、麻痺手の使用習慣がほとんど無い対象者は,「手をよくしたい」,「特に困ったことはない」と答えるケースが頻繁に認められます。
だからこそ、Aid for Decision-making in Occupation Choiceの上肢版を利用することや、よく対話を行うことで、できるだけ対象者が価値を感じる目標設定ができるように配慮を行う必要があります。
参照文献
1. リチャード. A.シュミット:運動学習とパフォーマンス –理論から実践へ−
(翻訳)調枝孝治,大修館書店,東京,1994
2. Loacke EA, Bryan JF. Cognitive aspects of psychomotor performance: The effects of performance goals on level of performance. Journal of applied psychology 50: 286-291, 1966
3. Levack WM, et al: Goal setting and strategies to enhance goal pursuit for adults with acquired disability participating in rehabilitation.Cohocrane Database Syst Rev(7): CD009727, 2015
4. Taub E. The behaveoral-analytic origins of constraint-induced movement therapy: an example of behaveoral neurorehabilitation. Behavioral Analyst 35: 155-178, 2012
5. Takebayashi T, Koyama T, Amano S, Hanada K, Tabusadani M, Hosomi M, Marumoto K, Takahashi K, Domen K. A 6-month follow-up after constraint-induced movement therapy with and without transfer package for patients with hemiparesisi after stroke: a pilot quasi-randomized controlled trial. Clin Rehabil 27: 418-426, 2013