Constraint-induced movement therapy(CI療法)におけるTransfer packageの実際の手続き(2)−麻痺手に関する行動のモニタリングを促すための手続き−
<本コラムの目標>
1. Transfer packageにおける麻痺手に関する行動のモニタリングを促すための手続きを知る
2. 具体的な手続き、日記の確認、Motor activity log(MAL)のQuality of Movement(QOM)の確認といった手続きを知る
1.麻痺手に関するモニタリングを促すことの意味
脳卒中後に上肢運動障害を呈した対象者は、脳卒中発症からある一定期間、障害を有する手をリハビリテーションにおける練習や実生活において、使用しないことがほとんどです。これをCI療法の開発者であるTaubら[1]は、『Learned non use(学習性不使用)』と名づけました。
この学習性不使用の本当に困るところは、心理的に障害を有する手を使用しないことを学習するだけでなく、障害を有する手の使用に応じて、大脳皮質の該当する領域が縮小、消失してしまうことです[2]。これが生じると、無視症状に似た振る舞いが実生活においても生じ、障害を有する手を気にしなくなったり、全く興味を示さなくなることが散見されます。
したがって、この不使用によって生じた、そういった状況を修正する必要があるわけです。ですから、その状態に対して、障害を有する手の実生活における現状を理解し、意識して使用を促さなければ、再び障害を有する手を使用することはできないと考えられています。
2.日記の確認
障害を有する手に対して、対象者自身が日記をつけることで、手の行動に対する意識を向上させるための方法です。これらの方法は、障害の有無に関わらず、古くからスキルに関する学習を進めるための手段として、利用されている行動変容を促すための伝統的な手段といけると思います[3]。わかりやすい例としては、プロのサッカー選手がつけている「サッカーノート」などがいい例かもしれません。
基本的に,麻痺手に関わる日記については,毎日実施することが推奨されています。筆者らの研究[4]では,対象者自身が自ら紙媒体の日記を記載せずに口頭による報告を療法士が紙媒体と起こすという形で実施しましたが、理想としては紙媒体にしっかりと自らの手、自らの文字で残すことが必要とされています。
日記の内容としては,行動契約や、リハビリテーション室において、宿題的に割り当てられた自宅での障害を有する手に関する使用場面活動について、できるだけ詳細に、使用の仕方、良かった点、悪かった点、等について、記載するよう指導します。
また、記載された日記は、定期的に担当の療法士と一緒に確認し、その後の使用場面における使い方を修正したり、使用できそうな道具を紹介し、使用の負担を軽減したり、対象者が今後使っていきたい場面等について、話し合い、さらに主体的に障害を有する手を使用していけるように支援するためのプログラムです。
3.モニタリングを促すための方法(1)MALの自己評価
対象者の現状の障害を有する手に対するモニタリングを向上するための簡易的な手段にMALのQOMの自己評価というものがあります。MALは,生活における麻痺手の使用頻度(AOU)や主観的な使いやすさ(QOM),つまり生活で実際に麻痺手を使用できる能力を患者の自己申告(主観)によって示す評価である.評価項目は,生活で実際に使用する活動(食器を使って食事,シャツやブラウスのボタンをつける等)が挙げられています。これらの項目について、QOMでそれぞれ「0:患側を全く使用していない」、「5:脳卒中前と同様に,動作に患側を使用している」、といった6段階の順序尺度で評価する検査です。
この評価を使って、対象者の自身の麻痺手の使用に関して、自己評価を行ってもらいます。それにより、対象者自身が、障害を有する手に対して、どのような認識を持っているのかを抽出することができます。また、それぞれの動作について、療法士が評価した数値との差異を共有し、議論することで、麻痺手に対する認識についても理解することができます。
さらに、定期的にこの振る舞いを行うことで、対象者が実生活において、使用する際にこれらの評価の内容を意識し、その結果、手の行動に対する意識向上に繋がることも期待されています。
参照文献
1. Taub E. Somatosensory deafferentation research with monkeys implications for rehabilitation medicine. Behavioral Psychology in rehabilitation medicine, Clinical Applications: 371-401, 1980
2. Liepert J et al. Changes of cortical motor area size during immobilization. Electroencephalogr Clin Neurophysiol 97: 382-386: 382-6, 1995
3. Allport, G. W. 194The use of personal documents in psychological science. New York: Social Science Research Council, 1942
4. Takebayashi T, Amano S, Hanada K, et al: A 6-month follow-up after constraint-induced movement therapy with and without transfer package for patients with hemiparesis after stroke: a pilot quasi-randomized controlled trial. Clin Rehabil 27: 418-426, 2013.