脳卒中後上肢運動障害に対するミラーセラピーの病期別の使用方法について
<本コラムの目的>
1. ミラーセラピーの実際について学ぶ
2. 実際を知り、臨床応用できる知識をつける
1. 病期における臨床応用の実際
ここまで、ミラーセラピーの概要、メカニズム、エビデンスについて、解説を行ってきた。本稿では、実際について解説を行っていきます。
2016年に示された米国心臓/脳卒中学会が報告したガイドライン[1]においては、ミラーセラピーは主となる運動療法(Constraint-induced movement therapyや課題指向型練習、ロボット療法等)の補助的かつ追加手法として、利用方法が適切であると報告しています。
また、同年にHatemら[2]によって発表された、エビデンスを基盤としたリハビリテーションプログラムの選択における意思決定に関して記されています。この報告においては、複数のシステマティックレビューを基盤に、発症からの時間(病期:急性期、亜急性期、生活期)、手の運動の有無、痙縮の高低、を基準とした脳卒中後の上肢運動障害に対して、どのようなリハビリテーションプログラムが効率的かつ適切かを示しています。この研究において、ミラーセラピーは病期を問わず随意運動が乏しい重度の麻痺を有する対象者に対し、適切なリハビリテーションプログラムであると示しています。
2. ミラーセラピーの運用方法について
さらに、世界で実施されているミラーセラピーに関するランダム化比較試験が、どのようなセッティングや手続きで実施されているかを通して、臨床における運用を考えていこうと思います。代表的なランダム化比較試験を検討するために、2012年のコクランライブラリーにて収載されたシステマティックレビューとメタアナリシス[3]、および2020年に報告されたGandhirら[4]のシステマティックレビューに記載されている論文よりおおよその運用方法について、解説を行います。
表1に、ミラーセラピーの運用方法の違いについてまとめます。全てのランダム化比較試験において、非麻痺手を鏡に映していることは同様です。ただし、どのような動作を鏡に映すのか、といった点が大きく異なります。大きく分けると、非麻痺手を用いて、①いずれかの単関節運動のみを実施している、②いずれかの単関節運動を実施した後に、物品を用いた課題を実施、③物品を用いた課題のみ実施、④麻痺手に電気刺激療法を併用した単関節運動を実施、となる。
①については、前腕を机上に据えた上で、非麻痺手の手指の開閉や指折り等を実施している研究が多いです。②と③については、前方に設置した文脈を持つ道具(コップ等、日常生活において実際に使用するであろう物品)に対して、リーチを行ったり、それらを操作する課題を選択している場合が多いです。
ただし、②に関しては、練習の前半は単関節運動を実施し、後半は物品を用いた練習を実施しています。一方、③については、練習を実施する時間内は全て、物品を用いた練習を実施していました。
なお、④の電気刺激との併用については、次回の『脳卒中後上肢運動障害に対するミラーセラピーの応用−電気刺激との併用』において詳細を述べたいと思います。
3. ミラーセラピー実施時の環境設定について
先に示したランダム化比較試験において、ミラーセラピーを実際に実施した時間に関して考えていきます。多くの研究で、1回の介入時間は30分と設定されていました。さらに、1週間の介入頻度は週5回の介入が多かったです。トータルの介入期間としては、4週間が多かったです。また、ミラーセラピー実施時の声掛けについては、記載している論文は非常に少ないものの「健側の動きに合わせてできる限り麻痺側を動かしてください」や「鏡をしっかり見てください」と一般的な内容に関する指示が先行研究には記載されていました。
参照文献
1. Winstein CJ, et al: guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery. A guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/ American Stroke Assocciation. Stroke 47: e98-107, 2018
2. Hatem SM, et al: Rehabilitation of motor function after stroke : a multiple systematic review focused on thechniques to stimulate upper extremity recovery. Front Hum Neurosci 13: 442,2016
3. Thieme H, et al: Mirror therapy for improving movement after stroke. Cochrane Datebase Syst Rev, 2012
4. Gandhi DB, et al: Mirror Therapy in Stroke Rehabilitation: Current Perspectives. Ther Clin Risk Manag. 2020 Feb 16:75-85.