Constraint-induced movement therapy(CI療法)におけるTransfer package −機能練習の結果を生活に反映させるための行動心理学的戦略−
<本コラムの目標>
1. Transfer packageの概念を知る
2. Transfer packageのメカニズムについて知る
1. Transfer Packageとは
脳卒中後の上肢麻痺に対する練習において,リハビリテーション室で実施する練習の中で獲得する麻痺手の機能回復はもちろん重要です。しかしながら、その機能を生活における麻痺手の使用に繋げなければ、脳卒中を呈された対象者の方々のQuality of lifeや幸福感の改善には繋がらないと近年では考えられています[1]。
そのために、課題指向型練習によって獲得した麻痺手の機能回復をうまく、生活行為に転移することが重要となります。これらの目的を果たすために、CI療法にはTransfer packageという実生活において、麻痺手の使用を促進するための行動心理学的なプログラムがあります。
このプログラムには、1)行動契約、2)麻痺手に関する行動のモニタリング、3)実生活において、麻痺手を使用するための問題解決技法の指導、の3つのコンセプトから構成されています。これらについては、次回以降のコラムで詳しく説明をしていきます。
CI療法を開発したTaubら[2]もCI療法の最終的な目的は、” We would emphasize the critical importance of the Transfer package techniques in CI therapy procedure (CI療法におけるTransfer packageに関する技術の重要性を強調したい)”と述べています。つまり、CI療法の本質はこの部分にあると言っても過言ではないということになります。
Kawakkelら[3]は,近年では脳卒中後に生じた上肢麻痺に対する治療として,ただ単に反復的な課題を実生活の中で実施するプログラムを「Force used therapy」,集中練習に行動学的戦略であるTransfer packageを導入したものを「CI療法」と定義しており,後者は前者に比べ,麻痺手の機能および行動を確実に向上させると報告しています。
2. Transfer packageのメカニズム
Transfer packageを実施することにより,麻痺手の機能および実生活における麻痺手の使用頻度が改善することは上の項目で説明しました。この行動変容の際に,脳実質でどのような変化が起こったかについて、ここでは紹介します。Transfer packageの神経基盤に関わる研究は,アラバマ大学バーミンガム校にて行っているのみです。
Guaitherら[4]は,1日3時間の麻痺手に対する課題志向型訓練にTransfer packageを実施した群と、同じ時間の課題志向型訓練のみを実施した群の前後の大脳皮質の体積の変化量をVoxel Based Morphometry(VBM)を用いて確認しています。
結果は,臨床所見においては,Transfer packageを実施した群は,実施しなかった群に比べて,麻痺手の機能に差はなかったが,麻痺手の実生活における使用頻度においては有意な向上を認めたと報告されています。さらに,Transfer packageを実施した群は,実施しなかった群に比べて有意に両側の補足運動野,前運動野,一次感覚野,海馬といった部位における皮質体積の増大を認めたと報告されています。.
この研究のデザインは、Transfer packageを実施したうえで生活において実際に手を使った群と,敢えて積極的に生活内で手を使用しなかった群を比較検討しています。 VBMによってもたらされた各領域の皮質体積の増大は、リハビリテーション室における練習中の麻痺手の使用だけでなく,実生活において麻痺手を主体的に使用した際に生じた可能性があると、筆者らは考えているようです。
つまり、この研究における皮質体積の増大は、実生活における行動変容に特異的な皮質の変化と解釈できる可能性もあり、リハビリテーション室における練習中の麻痺手の使用と生活動作における麻痺手の使用は、同じ麻痺手の使用でも、脳活動においても全く別の側面をもつ可能性を示唆されています。
実際に,Guaitherら[4]の同じ研究のなかで,介入前後の両群の実生活における使用頻度の変化量と両側の補足運動野と海馬における皮質体積の変化量の関係について,中等度の正の相関(r = 0.45〜0.49)を認めています。
また、Guaitherら[5]の他の研究においては、実生活における麻痺手の変化に関わりがある領域として、両側の前頭葉全般、さらには頭頂葉の一部(楔前部と呼ばれる、運動野主体感や身体の所有感を司る領域)の関連性も示唆されています。
これらのデータの解釈からも、リハビリテーション室における課題志向型訓練を実施すれば,生活における麻痺手の使用行動の変化が、シームレスに起こるというボトムアップ型の仮説だけでは,実生活における行動変容を説明するうえで不十分である可能性が示唆されている。
つまり、麻痺手を実生活で使用するといった麻痺手の行動変容に焦点を立てたトップダウン型の仮説も並行して考える必要性があるかもしれないことがわかる。
参照文献
1. Kelly KM, et al: Improved quality of life following constraint-induced movement therapy is associated with gains in arm use, but not motor improvement. Top in stroke rehabil 25: 467-474, 2018
2. Morris DM, Taub E, Mark VW: Constraint-induced movement therapy: characterizing the intervention protocol. EURO MEDICOPHY 42: 257-268, 2006
3. Kawakkel G, Veerbeek JM, Erwin EH van Wegen, Wolf SL. Constraint-induced movement therapy after stroke. Lancet Neurol 14: 224-234, 2015
4. Gauthier LV, et al: Remodeling the brain: Plastic structural changes produced by different motor therapies after stroke supplemental material. Stroke 39: 1520-1525, 2008
5. Gauthier LV, et al. Atrophy of spared gray matter tissue predicts poorer motor recovery and rehabilitation response in chronic stroke. Stroke 43: 453-457, 2012