脳卒中後上肢運動障害に対するロボットを用いたリハビリテーションプログラムの概要
<本コラムの目的>
1. リハビリテーションに用いられているロボットについて知る
2. ロボットを用いた脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するリハビリテーションを知る
1. ロボットを用いた脳卒中後の上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムを実施する目的について
世界の医療において、ロボットは様々なシーンで利用が進んでいます。ロボットを使用するメリットには大きく分けると2点あります1点目の目的は、ロボットは、センシングや微細な巧緻動作に関して、人間よりも遥かに優れています。そういったロボットの特徴を手術や手技といった部分で活かし、より良い医療を提供することです。
2点目の目的は、世界中で膨らみ続ける社会保障費を抑制するために、ヒトの代わりにロボットがその仕事を代行し、人件費を減らすためにロボットが使用されています。リハビリテーション分野においては、双方の目的のもと、ロボットの使用が近年広がっています。
1)脳卒中後の近位上肢運動障害に対するロボットを用いた介入
例えば、2010年代前半に、ロボットを用いた脳卒中後の上肢運動障害に関するリハビリテーションプログラムの立ち位置については、Loら[1]の2010年に一流の科学雑誌であるNew England Journal of Medicineに採択された論文において、大筋の結論を得た格好になっています。
彼らの論文では、脳卒中後の上肢運動障害に対するロボットを用いたリハビリテーションプログラムは従来のリハビリテーションに比べ有意な効果を認めなかった。しかしながら、イニシャルコスト、ランニングコストを合わせた、費用対効果検定においては、明らかにロボットの方が優れていた、という結論を述べています。
つまり、この研究では、ロボットを用いることで、費用対効果をあげ、費用を削減できる可能性について言及しているのです。これらの方向性を受けて、米国心臓/脳卒中学会のガイドライン[2]においても、「ロボットを用いたリハビリテーションプログラムは、ヒトのリソースを用いることなく、練習量を確保することができる有効な手段」と推奨しています。そもそも練習量は近年の研究においても、脳卒中後の上肢運動障害の予後を改善する要素の一つと考えられており、質の高い反復練習をヒトのリソースを用いることなく、実施できるのはメリットの一つとして考えることができます。
ただし、Zajianらの比較的新しい、システマティックレビューおよびメタアナリシスにおいては、役割に対する理解も若干変化してきているように思います。彼らの研究においては、脳卒中後に生じた肩・肘・前腕といった近位上肢の運動障害に対して、効果があることを示しています。
また、これは近位上肢、手指といった遠位上肢の運動障害に限らずですが、従来のリハビリテーションプログラムに、練習量を増やすという意味合いで実施される「追加介入』としてのロボットを用いた介入も、リハビリテーションプログラムの中で、他の介入は一歳行わず、ロボットを用いた介入のみを実施する「単独療法」の双方において、弱いながらも従来法に比較し、効果を示したと報告しています。
2)脳卒中後の遠位上肢運動障害に対するロボットを用いた介入
脳卒中後に生じる手指の運動障害に対しては、上記に示した上肢のような役割の方向性がまだはっきりとしていません。基本的に、練習量を確保するといった役割は確実に存在するのですが、手指の筋の活動を微細なセンサーを用いて感知し、その動きをロボットがフィードバックをするといった広義のバイオフィードバックシステムとして、従来のリハビリテーションよりも優秀である可能性が示唆されています。
例えば、Teasellら[4]のリハビリテーションプログラムに関するエビデンス集を鑑みると、まだ対象としているランダム化比較試験は少ないものの、手指の機能改善に対して外骨格型のロボットに関しては『ポジティブ』とされています。もしかすると、近位部である上肢に比べ、より微細な運動が多く、対側支配の割合が大きい手指の部分では、ヒトが行うリハビリテーションに比べ、より小さな動きに対しても反応でき、バイオフィードバックが適切に働くのかもしれません。ただし、Zejianらの研究では、手指に関するロボットは従来法に比べ、有意性を示せておれず、この点に関しても、今後より多くの検討がなされることが期待されています。
参照文献
1. Lo A, et al. Robotic-assisted therapy for long-term upper limb impairment after stroke. N Engl J Med 362: 1772-1783, 2010
2. Winstein CJ, et al: guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery. A guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/ American Stroke Assocciation. Stroke 47: e98-107, 2018
3. Zejian C, et al. "Robot-assisted arm training versus therapist-mediated training after stroke: a systematic review and meta-analysis." Journal of healthcare engineering 2020 (2020).
4. Teasell, R., et al. "Stroke rehabilitation clinician handbook." London, ON: Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation (2020).