脳卒中後上肢運動障害に対するミラーセラピーの概要
<本コラムの目的>
1. CI療法におけるTask practiceの概念を知る
2.Task practiceの効能を知る
3.Task practiceにおける課題の実施方法を知る
1. ミラーセラピーとは?
ミラーセラピー(図1)は,脳卒中後の上肢運動障害に対するアプローチの一つです。実施方法は,対象者の麻痺側上肢と非麻痺側上肢の間に鏡を設置し,鏡に非麻痺側上肢を写し,その向こう側に麻痺側上肢を設置します。その状況で、鏡の中に映った非麻痺手の動きを、麻痺手の動きと錯覚し、麻痺手がさも動いている感覚で、運動イメージを進めていく練習方法です。
この方法をリハビリテーションにおいて利用することで,対象者自身が麻痺側上肢に対して行った随意運動を起こすための意図と,錯覚の元で生じた運動イメージが統合されるとされています。
ミラーセラピーは錯覚に伴う視覚的なフィードバックを与えることで,麻痺側の菌運動感覚を生じさせるアプローチであるため,錯覚に対して没入ができない対象者(例えば,「これは非麻痺側の手が鏡に映っているだけだから、麻痺側の手が動いているわけではない」と強く認識してしまう対象者)は錯覚が阻害され,没入もしにくく、このアプローチの適応となりにくいと考えられています。したがって、対象者によっては、効果が全く見られないこともあるため、適応を良く選び使用する必要があります。
さて、ミラーセラピーは,Ramachandoranら[1]によって,当初は外傷等による片側上肢の切断を余儀なくされた対象者に生じる幻肢痛に対するアプローチとして開発・報告されました。その後,Altschulerら[2]によって脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するアプローチに応用され,有用性が示されました。近年においては,多くのランダム化比較試験によって,その効能が示されています。さらに、2012年にはコクランレビューにおけるシステマティックレビューとメタ解析において,脳卒中後に上肢運動障害を有した対象者を対象とした14編のランダム化比較試験の結果から,ミラーセラピーを用いた介入後に,麻痺側上肢の機能障害および日常生活活動,疼痛,半側空間無視に対して,有効であったことが報告されています[3]。
さらに,麻痺側上肢の機能障害に関しては,ミラーセラピー実施後から6ヶ月後のフォローアップの時点においても対照群と比較して,有意な改善が持続したと報告しています。ただし,臨床において,ミラーセラピーや運動イメージ(メンタルプラクティス)に関する臨床の印象としては,この療法だけでは日常生活における様々な行為にインパクトを与えることは難しいということである。実際,Dphleら[4]も,ミラーセラピーは脳卒中後に生じる上肢の運動障害に対して,高い確率で効果を示すことはできるが,その効果は小さいものであり,このアプローチだけで,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションは完結しないことを述べています。
この点については,最近は広くコンセンサスを得ている事柄ですが、他のエビデンスが確保された脳卒中後の上肢運動障害に対する様々なアプローチ(Constraint-induced movement therapyやロボット療法等の運動療法)と適切に併用することが求められます。ミラーセラピーのこういった特徴をしっかり理解した上で、このアプローチを臨床において使いこなすことが求められます。
参照文献
1. Ramachandran VS, et al: Touching the phantom limb. Nature. 1995 Oct 12;377(6549): 489-490.
2. Altschuler EL, et al: Rehabilitation of hemiparesis after stroke with a mirror. Lancet, 1999, 353(9169): 2035-2036.
3. Thieme H, et al: Mirror therapy for improving movement after stroke. Cochrane Datebase Syst Rev, 2012
4. Dohle C, et al: Mirror therapy promotes recovery from severe hemiparesis: a randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair 23: 209-217, 2009
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