脳卒中後の上肢運動障害に対するHybrid Assistive limb (HAL)について
<本コラムの目的>
1. HALについて知る
2. HALの効果について知る
1. HALについて
サイバーダイン社の開発したロボットスーツ「HAL(Hybrid Assistive Limb)」は、脳卒中や脊髄損傷などによる運動機能障害を持つ患者のリハビリテーションをサポートすることを目的とした装置であり、エクソスケルトン型のロボットです。HALは、装着者の皮膚表面から筋電位信号(意図的な動きに関連する微弱な電気信号)を検出し、それに基づいてロボットが動作をアシストすることで、患者の自発的な運動を補助します。これにより、脳と筋肉の間の神経回路の再学習を促し、運動機能の回復を助ける効果が期待されています。
HALの特徴
筋電位検出:皮膚表面の筋電信号を検出し、その信号に基づいて動きをサポート。
意識的な運動を補助:患者の「動かしたい」という意識に基づいて動作を補助するため、自然な動作が可能。
神経回路の再学習を促進:反復的な運動を通じて、脳と筋肉の間の神経回路を再構築し、機能回復を目指す。
2. HALの動作原理
HALの最大の特徴は、装着者の皮膚に微弱な筋電位信号を検出し、その信号をもとにロボットが補助動作を行う点です。脳が「動かしたい」と指令を出すと、脳と筋肉の間の神経回路を通じて電気信号が流れますが、脳卒中などの障害によりその信号が十分に伝達されない場合があります。HALは、皮膚表面からこの信号をキャッチし、装置が動作を補助することで、弱まった運動機能をサポートします。この技術により、患者は自らの意識に基づいて動きを再現できるため、単に機械的なリハビリテーションではなく、神経系と筋肉の再学習を促す効果が期待されています。
3. 脳卒中後の上肢機能回復への応用
脳卒中後の上肢運動障害は、日常生活における自立性の大きな障害となるため、その回復は非常に重要です。HALを使用したリハビリテーションは、この回復過程を支援するツールとして、単関節用HAL(Single joint HAL: HAL-SJ)という機器が用いられ、臨床試験等も実施されています。特に、HALは患者の自発的な動きをサポートするため、反復的な運動によって脳と身体の神経回路が再構築され、機能回復を促進する可能性があります。
4. HAL-SJに関する臨床研究
事例報告等、さまざまな検討が実施されており、良好な報告がなされています。その中でも研究デザインの正確性が高いものを紹介します。Iwamotoら(2019)は、上肢リハビリテーションにHAL-SJ(単関節型Hybrid Assistive Limb)を使用することで、脳卒中急性期患者の日常生活動作や片麻痺腕の使用に影響を与えるかどうかを検証しています。12名の急性期脳卒中患者が参加し、AグループとBグループにランダムに分けられました。AグループはA-B-A-Bのデザイン、BグループはB-A-B-Aのデザインに従いました。A期間中はHAL-SJと作業療法を組み合わせ、B期間中は従来の作業療法を実施しました。HAL-SJと作業療法の併用を実施した期間において、特に上半身の着替え動作を含むADLと上肢の運動機能が改善されました。また、片麻痺の腕の使用頻度も有意に改善されたと報告しました。
最後にIwamotoら(2022)は、亜急性期脳卒中患者における単関節型ロボットスーツ(HAL-SJ)の使用頻度が上肢運動機能や日常生活動作(ADL)に与える影響を調査しました。HAL-SJの使用頻度において、高頻度群と低頻度群に分け、傾向スコアマッチングを用いて、上肢の運動機能やADLの自立度に関する効果を比較しました。結果、高頻度で使用した群は、肩や肘などの上肢機能とADLにおいて低頻度群に比べ、有意な改善を示しました、しかしながら、臨床的に有意な変化を経験する対象者数については、低頻度群と差がなかったと報告しました。このことから、使用頻度が上肢の機能回復に影響を与える可能性がある一方、さらなる効果を得るためには他の要因も必要であることが示唆されました。
これらの結果から、HAL-SJは脳卒中後の上肢運動障害に対して、有効な可能性が示唆されています。近年、HAL―SJに関する研究は急増しています。今後、さらに正確性の高いデザインの研究を通して効果検証がなされることでしょう。
参照文献
1. Iwamoto, Yuji, et al. "Does frequent use of an exoskeletal upper limb robot improve motor function in stroke patients?." Disability and Rehabilitation 45.7 (2023): 1185-1191.
2. Iwamoto, Yuji, et al. "Combination of exoskeletal upper limb robot and occupational therapy improve activities of daily living function in acute stroke patients." Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases 28.7 (2019): 2018-2025.
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