脳卒中後の上肢運動障害のリハビリテーションに用いるロボットについて知っておきたいこと −エンドエフェクター型とエクソスケルトン型ロボットの違いとは?−

竹林崇先生のコラム
神経系疾患, 支援工学
リハデミー編集部
2025.06.16
リハデミー編集部
2025.06.16

<本コラムの目的>

・エンドエフェクター型とエクソスケルトン型の構造的な違いを知る

・エンドエフェクター型とエクソスケルトン型の効果の違いを知る


 エンドエフェクター型およびエクソスケルトン型ロボットは、脳卒中後の上肢運動障害のリハビリテーションにおいて広く使用されるようになっています。これらのロボットは、患者の上肢機能を回復させることを目指しており、ロボット技術の進化に伴って臨床での利用が進んでいます。それぞれのロボットは構造的な違いだけでなく、リハビリ効果にも差が見られます。ここでは、両者の違いとその効果について、先行研究をもとに解説します。

1. エンドエフェクター型ロボット

 エンドエフェクター型ロボットは、患者の手先に直接アタッチされる装置を通じて動作を支援するタイプのリハビリテーションロボットです。このタイプのロボットは、患者が手を動かす際に支援力を提供し、複数の自由度を持つことでさまざまな動作を再現できるのが特徴です。代表的なエンドエフェクター型ロボットとしては、MIT-ManusやInMotionシリーズ、日本の商品ではReoGo-Jが挙げられます。

 エンドエフェクター型ロボットの特徴として、操作の柔軟性と適応力の高さが挙げられます。このロボットは、特定の関節に依存せずに患者の動作全体を補助するため、患者が特定の範囲で自由に手を動かすことができ、より自然な動作に近いリハビリが行えます。Fasoli et al. (2004) [1]の研究によると、エンドエフェクター型ロボットを使用した上肢リハビリは、運動機能の向上に効果があり、特に細かい手先の操作や繰り返し運動において顕著な改善が見られると報告されています。

 しかしながら、エンドエフェクター型のロボットは関節ごとの個別の制御が困難であり、肩や肘、手首といった各関節の運動を細かく調整したい場合には、他の装置との併用が必要になることがある点が指摘されています。

2. エクソスケルトン型ロボット

 エクソスケルトン型ロボットは、患者の上肢に装着され、各関節を直接的に支援する構造を持っています。このロボットは、関節ごとにモーターやセンサーが配置されており、患者の関節運動に対してピンポイントで補助を行うことが可能です。代表的なエクソスケルトン型ロボットには、ARMinやEXO-ULシリーズがあります。

 エクソスケルトン型ロボットの最大の利点は、患者の上肢全体を包み込むようにして装着されるため、各関節の個別の制御が可能である点です。これにより、患者の関節ごとの運動を詳細に補助でき、関節ごとの筋力向上や動作の改善に対してピンポイントでリハビリを行うことができます。Nef et al. (2009)の研究では、エクソスケルトン型ロボットを使用したリハビリテーションにより、患者の上肢機能が効果的に改善されることが示されており、特に肩や肘などの大きな関節の運動能力が向上するとの報告があります。

 さらに、エクソスケルトン型ロボットは、センサーによるフィードバック機能が強化されているため、患者の動作に対するリアルタイムのフィードバックが得られやすく、患者のモチベーションを高める効果も期待されています。また、各関節に適した抵抗や支援を提供できるため、リハビリの効率も向上します。しかし、その反面、装着時の調整が必要であり、エンドエフェクター型と比較すると装着や操作が複雑になることがあります。

3. エンドエフェクター型とエクソスケルトン型のリハビリ効果の違い

 両者のリハビリ効果については、研究によって異なる結果が報告されています。エンドエフェクター型は、広範囲な動作の練習が可能であり、特に手先の操作や協調運動において優れた成果を挙げています。例えば、Krebs et al. (2008)の研究では、エンドエフェクター型ロボットを用いたリハビリテーションが、上肢の機能回復に大きく寄与することが示されています。特に、運動プログラムの反復練習により、脳の可塑性を促進し、より早期の回復が期待できるとされています。

 一方で、エクソスケルトン型は、関節ごとの詳細な運動制御が可能であるため、特定の関節に問題がある患者に対してはより効果的なリハビリを提供できるとされています。Marchal-Crespo et al. (2010)の研究では、エクソスケルトン型ロボットを用いたリハビリテーションにより、肩や肘の運動範囲が大幅に改善され、筋力の向上も確認されています。特に、関節の運動障害が強い患者には、エクソスケルトン型のアプローチが有効とされています。

 最後にChenらはシステマティックレビューとメタアナリシスを実施しており、そのサブ解析でエンドエフェクター型ロボット、エクソスケルトン型ロボットに関する検討も実施しています。この論文では、エクソスケルトン型ロボットにおいてのみ、対照群に比べ、有意な上肢運動障害の改善を認めたと報告しています。ただし、こういったシステマティックレビューやメタアナリシスの件数は極めて少なく、今後追試の結果を待ち、注意深く検討する必要があります。


参照文献

1. Fasoli, S. E., Krebs, H. I., Stein, J., Frontera, W. R., & Hogan, N. (2004). "Effects of robotic therapy on motor impairment and recovery in chronic stroke." Archives of physical medicine and rehabilitation, 85(7), 1106-1111.

2. Nef, T., Guidali, M., & Riener, R. (2009). "ARMin III–arm therapy exoskeleton with an ergonomic shoulder actuation." Applied Bionics and Biomechanics, 6(2), 127-142.

3. Krebs, H. I., Volpe, B. T., Aisen, M. L., & Hogan, N. (2008). "Increasing productivity and quality of care: robot-aided neuro-rehabilitation." Journal of rehabilitation research and development, 45(2), 305.

4. Marchal-Crespo, L., & Reinkensmeyer, D. J. (2010). "Review of control strategies for robotic movement training after neurologic injury." Journal of neuroengineering and rehabilitation, 6(1), 1-15.

次の記事

脳卒中後上肢運動障害...

Top