Fugl-Meyer Assessment(FMA)の臨床的意義と課題
<本コラムで学べること>
・Fugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目の臨床的意義がわかる
・FMAの上肢項目の限界や課題を知ることができる
Fugl-Meyer Assessment(FMA)は、脳卒中後の上肢および下肢の運動機能を評価するための標準的な方法であり、リハビリテーションにおける介入効果を定量的に把握するために広く利用されています。脳卒中により生じた運動麻痺の程度や、機能回復の状態を定量化し、患者ごとに適切なリハビリテーション計画を策定するための指標として役立っています。本稿では、FMAの臨床的意義と、臨床での実施における課題、さらにその改善に向けた取り組みについて詳述します。
1. 臨床現場での利用とその意義
FMAは脳卒中後の運動麻痺において、リハビリテーションの評価や計画の立案において中心的な役割を担っています。FMAを用いることで、患者の状態を詳細に把握できるため、治療の優先順位を定めたり、適切なリハビリテーションプログラムを選択したりする際の指針として利用されます。
脳卒中後の運動機能は個人差が大きく、回復度合いやスピードも患者によって異なるため、客観的な評価基準が必要です。FMAは、数多くの臨床研究において、その妥当性と信頼性が確認されており、評価者間の一貫性も高いことが証明されています。評価者間信頼性とは、異なる評価者が同一の患者に対して評価を行った場合の一致度を指し、FMAはこの点で他の評価法と比較しても高い精度を持っています。また、評価者内信頼性も高く、同一の評価者が繰り返し評価を行っても、ほぼ同一の結果が得られるため、再現性も確保されています。
2. Fugl-Meyer Assessmentにおける課題
FMAは包括的な評価法であるため、実施においていくつかの課題も存在します。まず、全ての項目を評価するには約30分から45分の時間がかかり、患者の状態や評価者の熟練度によってはさらに時間がかかる場合もあります。特に高齢患者や疲労度が高い患者に対しては負担が大きく、評価を実施すること自体がストレスとなるケースも少なくありません。これは特にリハビリテーションの初期段階や、患者が長時間の座位や集中を維持するのが難しい場合に顕著です。このため、FMAの評価項目を簡素化し、短時間で実施できる手法の開発が求められています。
実際、FMAはその包括的な評価内容により、時間を要することから、患者の負担軽減や評価効率の向上が求められています。この課題に対応するために、FMAの短縮版(Short FMA)が開発されました。FMA Shortは、FMAの主要な評価項目のうち特にリハビリテーションにおいて重要なものを抽出し、評価内容を簡略化することで、実施時間の短縮を図っています。この短縮版は特に上肢機能の評価において効果的であり、臨床現場でより迅速に患者の状態を把握するために利用されています[1]。
さらに、FMAのスコア構造にも課題が存在します。評価スコアが段階的に設定されているものの、麻痺の重症度が高い患者や、あるいは回復が進んだ軽度の麻痺を持つ患者に対しては、スコアの変動が限定的となることがあります。具体的には、重度の麻痺がある患者に対しては、ある程度の回復が見られてもスコアに大きな変化が反映されないケースがあり、軽度の麻痺の患者では評価項目の細かい進展がスコアに反映されにくい問題が生じます。
これにより、患者の実際の回復度合いが過小評価されるリスクがあり、リハビリテーション効果の測定や治療の効果判定が不十分となる場合があります。このため、評価項目の改良や、患者の重症度に応じた異なる評価基準の導入が検討されるべきです。
3. 評価者によるバイアスと標準化の重要性
FMAを臨床で用いる際には、評価者によるバイアスの影響も考慮する必要があります。FMAは比較的標準化された評価法ですが、特に初心者や訓練を受けていない評価者の場合、評価スコアに偏りが生じる可能性があります。評価者の経験や知識の差異がスコアのばらつきを生む原因となり得るため、FMAの実施には評価者の訓練や教育が重要です。評価の標準化を図るためには、トレーニングプログラムの整備や、熟練度に応じたフィードバックを提供する体制の構築が求められています。また、評価項目に関するガイドラインの理解を深め、評価手法に関する教育を行うことで、評価者間のばらつきを最小限に抑える必要があります。
4. 今後の改善に向けた取り組みと展望
FMAは脳卒中後の運動麻痺評価において有用なツールである一方、現行の課題を解決するための改善も進められています。近年、FMAの短縮版や、重要な項目に絞った簡便な評価法の開発が進行しており、これにより評価時間を短縮し、患者の負担を軽減することが期待されています。短縮版FMAでは、主要な運動項目に絞った簡便な評価が可能であり、特にリハビリテーションの経過観察や定期的なフォローアップにおいて有用です。また、短縮版を用いることで、患者の回復状況を迅速に把握し、効果的なリハビリテーションプランの策定がより柔軟に行えるようになります。
さらに、デジタル技術を活用した評価方法の導入も進んでいます。モーションキャプチャー技術やセンサーを活用し、FMAの評価プロセスを自動化することで、評価者のスキルに依存しない客観的なデータ収集が可能となります[2]。これにより、評価者による主観的な判断の影響が減少し、評価の一貫性が向上します。たとえば、センサーを用いて関節の角度や動作速度をリアルタイムで測定することで、動作の正確性やスピードに基づいた客観的な評価が可能となります。
参照文献
1. Amano, Satoru, et al. "Clinimetric properties of the shortened Fugl-Meyer Assessment for the assessment of arm motor function in hemiparetic patients after stroke." Topics in Stroke Rehabilitation 27.4 (2020): 290-295.
2. Ueyama, Yusuke, et al. "Attempt to Make the Upper-Limb Item of Objective Fugl–Meyer Assessment Using 9-Axis Motion Sensors." Sensors 23.11 (2023): 5213.
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