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Wolf Motor Function Testの概要と歴史
Wolf Motor Function Test(WMFT)は、脳卒中などで片麻痺を呈する上肢の運動機能を定量的に評価するために開発された評価法です。開発者であるSteven L. Wolfらは、健常側上肢の使用を制限して麻痺側上肢の使用を強制する強制使用療法(Constraint-Induced Movement Therapy, CI療法)**の効果を検証する目的で、1980年代後半にWMFTの原型を作成しました。
最初の報告は1989年で、慢性期脳卒中および頭部外傷患者を対象に、麻痺側上肢の強制的な使用により「学習性不使用」を改善できることを示しています[1]。この研究の中で上肢機能の変化を客観的にとらえる手段として考案されたのがWMFTであり、以後、上肢リハビリテーション研究のアウトカム評価として広く用いられるようになりました
WMFTは当初21項目から構成されていましたが、その後改良され、現在広く使われている版は17項目から成ります。評価内容は、日常生活動作を模した機能的課題15項目と、筋力を測定する課題2項目で構成されます。各課題は机上で前腕を台に置く・箱に置く、肘を伸展する(1ポンドの重錘あり/なし)、手を台や箱に置く、缶や鉛筆・クリップをつまみ上げる、コインを積む、カードをめくる、鍵を鍵穴で回す、タオルを折る、バスケットを持ち上げる、といったように、肩・肘の粗大運動から手指の微細運動まで多岐にわたります。
また筋力課題としては、可能な限り重いおもりを箱に載せる課題や握力測定(ハンドヘルドダイナモメーターを使用)が含まれます。各課題の遂行時間(最大120秒まで)を計測すると同時に、動作の質を6点尺度(0~5点)で評定します。評定スケールは「0=まったく動かせない」から「5=健側と同様に正常に近い動作ができる」までの段階で、不自由さや動作の協調性を評価します。このようにWMFTは、課題遂行時間(運動の速度・巧緻性)と運動の質の両面から上肢機能を評価できる点が特徴であり、上肢の「能力(impairment)」と「機能遂行(disability)」の要素をあわせ持つ評価法と位置づけられています。
開発後の歴史として、WMFTは当初、軽度~中等度の慢性期片麻痺患者を念頭に置いて作られました。その後、対象者の重症度に応じて評価内容を調整したバージョンも開発されています。例えば、重度麻痺でオリジナル版の多くの課題が遂行困難な患者向けに、タスク難易度に段階を設けたGraded WMFTが1990年代に作成されました
Graded WMFTではオリジナルの17課題のうち14課題について、易しい形式と難しい形式の2種類を用意し、重度麻痺の患者でも一部あるいは全ての課題に取り組めるよう工夫されています。一方、軽度の患者については、オリジナル版では天井効果が生じる可能性が指摘され、握力など一部項目を省略した短縮版WMFT(Streamlined WMFT; 6項目版)も提案されています[2]。Wuら(2011)の報告では、この6項目版WMFTの反応性や他検査との相関はオリジナル版と同等であり、有用性が示唆されています
このようにWMFTは、目的と対象に応じて改良が加えられながら、現在まで上肢機能評価の標準的手法の一つとして確立され発展してきました。


参照文献
1. UAB CI therapy research group. Wolf Motor Function Test (WMFT) Manual. https://www.dpo.uab.edu/citherapy/images/pdf_files/CIT_Training_WMFT_Manual.pdf#:~:text=1,132 (2025年6月10日現在)
2. Wu, Ching-yi, et al. "Assessing the streamlined Wolf Motor Function Test as an outcome measure for stroke rehabilitation." Neurorehabilitation and neural repair 25.2 (2011): 194-199.
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