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Wolf Motor Function Testを用いた一般的な研究について
1. 概要
Wolf Motor Function Test(WMFT)とは、脳卒中後の片麻痺上肢を評価する検査であり、当時のエモリー大学のWolfによって開発された評価です。主に、脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションプログラムであるConstraint-induced movement therapy(CI療法)の効果判定のために開発されたアウトカムである。検査としては、ICFにおける身体機能・構造に含まれる麻痺側上肢のパフォーマンスを評価するためのものである。
2. WMFTを使用した臨床研究
WMFTは近年の多くの臨床試験で主要アウトカムとして採用されており、エビデンス集積に貢献しています。上述したCIMTやロボット訓練の大規模RCTの他にも、鏡映療法、バーチャルリアリティ、経頭蓋磁気刺激や直流刺激併用療法、薬物併用療法など様々な介入研究でWMFTが上肢機能アウトカム指標として使われています。例えばSaposnikら(2016年)のEVREST試験(VRリハビリのRCT)やDromerickら(2009年)のEMG駆動型腕ロボット訓練試験などでもWMFTが評価に含まれています。症例報告や単一症例介入研究においても、WMFTスコアの改善をもって機能回復を示す報告が多数あります。これらの臨床研究を通じ、WMFTの実践での有用性(感度や臨床的意義)も蓄積され、例えば最小臨床的に重要な差 (MCID) が約1~2点(機能スコア)や19秒程度(時間スコア)と見積もられるなどの知見も得られています
3. 具体的なWMFTを用いた研究
リハビリテーションや治療介入による上肢機能の変化をWMFTで捉えた研究も多く報告されています。WMFTを用いた研究の中で、特に有名なのは、CI療法の効果を検証したEXCITE試験です。Wolfら(2006年)のEXCITE多施設RCTでは、脳卒中後3~9か月の患者にCIMTを実施すると対照群より有意かつ臨床的に意味のある上肢機能改善が得られ、その効果は少なくとも1年間持続しました[1]。
さらに追跡研究(Wolfら 2008年)でも改善効果の2年間保持が示されています[2]。Barzelら(2015年)のHOMECIMT試験では在宅でのCIMTを検討し、自己報告的な腕の使用(MAL質問票)で通常療法群より有意に改善しましたが、WMFTによる運動機能回復量は標準治療群と差がありませんでした[3]。
一方、ロボット支援リハビリのRCTとしてLoら(2010年)の多施設試験があります[4]。この研究では慢性期片麻痺者に対しロボット訓練と集中的リハビリ(人による訓練)を比較し、両群とも通常ケアより有意な改善を示し、WMFT所要時間の短縮効果はロボット群で通常ケア群に比べ約8秒大きい改善がみられました。
(ロボット vs. 集中リハビリ間の差は有意でなし)。これらのRCT以外にも、ミラー療法や鏡視下運動、経頭蓋直流刺激(tDCS)併用療法など様々な介入研究でWMFTがアウトカムとして使われ、治療による上肢機能の変化を定量的に示す指標となっています[5]。これらのようにCI療法以外の
4. 予後予測にWMFTを用いた研究
WMFTスコアを将来の機能回復や日常生活動作の予後予測に活用した研究も報告されています。Hsiehら(2009年)はリハ後のFIM(機能自立度)を予測する上で、介入前のWMFTタイムが中程度の予測妥当性を示すことを報告しています[6]。Liら(2020年)の研究(慢性期片麻痺者94名の4週間リハ介入)では、介入前のWMFT機能スコア(質的評価)が上肢使用の自己評価改善を臨床的に有意なレベルで予測できることが示されました[7]。
一方、Silke Wolfら(2021年)による大規模メタ解析では、発症から1年間の長期回復を追跡する上でWMFTは他評価法と比べ回復変化を示す効果が小さく、ARATやFugl-Meyer Assessmentなどに比べ経時的な改善を捉える能力が劣ると結論されています[8]。このように、WMFTは予後予測に一定の有用性を示す一方、長期の回復モニタリング指標としては限界も指摘されています。
5. システマティックレビューによる評価
WMFTを評価指標に含めたシステマティックレビューやメタ分析も刊行されています。Pomettiら(2025年)の系統的レビューではWMFTの信頼性・妥当性エビデンスが総括されました。またSilke Wolfら(2021年)のレビューでは、複数の縦断研究データを統合し各評価法の回復曲線を比較しています。その結果、WMFTは長期回復の追跡指標としては感度が低いことが示され、評価法選択に関する知見を提供しました。他にも、Sivanら(2011年)はリハビリ用ロボット研究で使われる評価指標を総説し、WMFTがロボット介入研究でも頻用されていることを報告しています。これらのレビュー論文は、WMFTの位置付けや他評価法との関係、今後の課題(例えば評価時間短縮版WMFTの有用性検討や文化適応版WMFTの開発)について示唆を与えています。
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