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WMFTの妥当性と信頼性
1. WMFTの信頼性について
WMFTは、上肢麻痺の評価ツールとして数多くの研究でその信頼性(reliability)と妥当性(validity)が検証されています。まず信頼性について、Morrisら(2001)は慢性期片麻痺患者24名を対象にWMFTの再現性を調べています[1]。
結果、ビデオ録画による複数評価者間の一致度(ICC)は、課題遂行時間について0.97以上、機能遂行能力評点について0.88以上と非常に高く、また2週間間隔での再テストにおける安定性も時間でICC=0.90、評点でICC=0.95と良好でした。
内部一貫性も高く、Cronbachのα係数は両構成要素で0.86~0.92を示しています。これらの結果から、WMFTは上肢麻痺の評価において評価者間・再検査間で一貫した結果をもたらす信頼性の高い測定手段であると報告されています。
た大規模多施設研究であるEXCITE試験(被験者229名, 発症3~9か月の亜急性期脳卒中)においても、介入群に割り付けられる前の待機群を用いてWMFTの安定性が検証されており、2週間の間隔で施行したベースライン測定に有意な学習効果やスコア変動がないことが確認されています[2]。このように短期間での繰り返し実施による慣れや疲労の影響が少ないことも、WMFTの信頼性を支える重要な特性です。
2. WMFTの妥当性について
次に妥当性について、WMFTは様々な観点から検証されています。構成概念妥当性(構成的妥当性)に関しては、WMFTの測定内容が上肢機能の理論的構成要素を適切に反映しているかが議論されます。WMFTは腕から手指まで多様な運動課題を含み、動作の速度と質を評価する構成になっており、これにより上肢の総合的な機能レベルを測定できると考えられます。
事実、WMFTの合計スコアや所要時間は、伝統的な上肢機能検査であるFugl-Meyer Assessment (FMA)の上肢運動スコアや、上肢ADL能力検査であるAction Research Arm Test (ARAT)と中~高い相関関係を示すことが報告されています[3]。
例えばYu-Wei Hsiehら(2009)の研究では、慢性期脳卒中患者におけるWMFTとFMAの相関係数ρが0.68~0.76に達し、ARATとも適度な相関を示しました[3]。これはWMFTが上肢の運動機能全般を測定しており、他の確立された上肢評価と収束的妥当性(他検査との一致)が高いことを意味します。
また判別的妥当性の観点から、WMFTは患者の機能程度によって適切にスコア差が現れることも確認されています。EXCITE試験の解析では、ベースラインのWMFTスコアが高い群(軽~中等度麻痺)と低い群(重度麻痺)との間で、有意なスコア差が認められ、WMFTは参加者の機能水準を良好に区別できることが示されました。さらにWMFTの評点(Functional Ability Score)は、性別や利き手といった要因による偏りはほとんどなく、純粋に麻痺の程度を反映する指標であることも報告されています[2]。
一方で、同じ上肢機能検査でもARAT等と比較すると、WMFTの方が評価結果の分散がやや大きく、重度麻痺患者では床効果が出やすい傾向があるとの報告もあります。Nijlandら(2010)は慢性期脳卒中患者を対象にWMFTとARATの得点分布を比較し、WMFT評点の方が評価者間でのプロットのばらつきが大きく測定誤差が相対的に高い可能性を指摘しています[4]。
この点については、WMFTが0点(全く動かせない)のカテゴリを含む6段階評価であること、また一部課題では他動や代償動作の介助も許容していることから、評価者の主観に左右される部分が若干残るためと考えられます。ただし総じてWMFTは、上肢機能評価ツールとして十分に信頼でき、他の評価法とも整合性の取れた有効な指標であるというエビデンスが蓄積しています。
3. WMFTの感度・反応性について
最後に**感度・反応性(responsiveness)について触れます。リハビリテーション介入の効果判定には、評価手段がわずかな変化を捉える感度を持つことが重要です。前述のHsiehら(2009)の研究では、3週間の集中的訓練前後でのWMFTスコア変化を評価し、WMFTの機能評点は標準化応答平均(SRM)0.95~1.42と大きな効果量を示したのに対し、遂行時間スコアはSRM=0.38と小さいことが報告されました[3]。
これは短期間の訓練によっては動作の質は向上しても、動作時間の大幅短縮には至りにくいことを反映しており、評価項目による感度の違いが示唆されます。この結果を踏まえ、介入効果を検出するにはWMFTの「質」スコア(FAS)の方が「時間」スコアより有用である場合があると考えられます。
一方でFMAなど上肢機能全般の包括的評価と比較すると、WMFT時間スコアも中等度の感度は有しており、FIM(機能的自立度評価)など日常生活指標との関連ではWMFT時間の方がある程度予後を予測できるとの知見もあります。
さらにFritzら(2009)は慢性期脳卒中患者を対象にWMFTの最小検出可能な変化量(MDC)を算出しており、その結果、WMFT時間のMDCは約0.7秒、機能評点は0.1点と報告されています[5]。この非常に小さなMDC値は、WMFTが高い信頼性を持つため測定誤差が小さいことを示すと同時に、臨床的に意味のあるわずかな改善を捉えうる評価感度を持つことを裏付けています。
参照文献
1. Morris, David M., et al. "The reliability of the wolf motor function test for assessing upper extremity function after stroke." Archives of physical medicine and rehabilitation 82.6 (2001): 750-755.
2. Wolf, Steven L., et al. "The EXCITE trial: attributes of the Wolf Motor Function Test in patients with subacute stroke." Neurorehabilitation and neural repair 19.3 (2005): 194-205.
3. Hsieh, Yu-wei, et al. "Responsiveness and validity of three outcome measures of motor function after stroke rehabilitation." Stroke 40.4 (2009): 1386-1391.
4. Nijland, R., van Wegen, E., et al. (2010). "A comparison of two validated tests for upper limb function after stroke: The Wolf Motor Function Test and the Action Research Arm Test." J Rehabil Med 42(7): 694-696.
5. Fritz, S. L., Blanton, S., et al. (2009). "Minimal detectable change scores for the Wolf Motor Function Test." Neurorehabil Neural Repair 23: 662-667
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